第3話『外なる神と13番目の席』
想刃の回は残り1話です!
2話連投してます!
想刃が迷い込んだのは、不思議な空間。静止した炎、遡る水、宙に浮く土塊、境界で隔離された空気。
「ようこそ、我が砦に」
「テメェ、何者だ……?」
「ウチの世界戦じゃあ、外なる神は一柱じゃない。というのも、ウチの世界は少々特殊でな。
ここ以外のものと全く同じモノが、この世界には全て揃っているんだ。
外なる神は世界の表層に潜むが──ウチの世界は、そもそもが別の表層に囲われている、というわけだ。だから『彼ら』がここにいるのさ、少年。改めて言うが──歓迎しよう、少年」
そう言って想刃を迎え入れるのは、シルクハットを被ったタキシードの男。その服装自体はキッチリと畏まっている。が、その服装はいつの間にか鎧と盾にすり替わっていた。
「畏怖せよ、崇めよ、讃えよ。我が名は13番目の席に座る者。聖杯の獲得者、黒騎士の王──名を、ギャラハッド。彼らとはワケあって同胞でね。同じ博麗霊斗に仕える者として、この場にいるんだが。悪いが、君には死んでもらおう」
そう言ったギャラハッドは、想刃の拳を受け流す。
「まだ、何も言ってないだろう? それに、私は根源直通の支配人──戦うべき相手は、君じゃないのさ。精々楽しんでいくといい」
そう言った途端。静止していた炎は揺らめき、遡る水は流れ落ち、土は重力に従い、空気は拘束から解放された。
そこから現るは、4人の怪物。
「ようこそ。よく来たね!」
「遊ぶ? 遊ぶよね! 遊んでくれるの!? 遊んでくれるんだね!」
「一緒に遊ぼ! 何して遊ぶ!?」
「決まってるでしょ──殺し合い!」
誰が言ったか、幼稚なものは狂気を孕んでいるとか。──それは、一切の否定はできない。教育の無いモノは倫理を忘れ、時に暴虐に。時に浅はかに全てを壊す。
ひらがな、カタカナにキョウフをかんじルように、ソレはオソロシイものなのだ。
4人の怪物──幼い少年少女は、想刃を取り囲む。
「ゼアァッ!!」
想刃の刃は、浅黒い肌の少年に止められた。
「ラアッ!」
想刃の脚は、真っ白な肌の少女を通り抜けた。
「チィッ!!」
想刃の拳は、水のような静かな少女に弾かれた。
「お兄ちゃん、元気いいね! 僕はニャルラトホテプ!! さぁ、遊ぼ!」
「すごい、すごーい! ──ま、私に攻撃できてナイけど。私はクトゥグァ! もっと遊んで!!」
「そうね、とっても凄いわ。認めてあげる──ちょっと、いや、あまりにも弱いけどね。神霊たる私たちに物理なんて、ナンセンスだわ。私はクトゥルフ! 水も滴るいい女、ってね!」
想刃の全ての攻撃を防いだ彼らは、三者三様に想刃を褒めたたえ、自己紹介を終えるとそれぞれが拳に自分の力を貯めた。
「うみゅ。凄い。うん。凄い。僕はハスター。君、逃げた方がいいよ。鬼ごっこ! 恐い、こわーい鬼ごっこ!」
「チッ! 俺は遊んでる暇なんて……っ!」
想刃がそう言った瞬間、触手が想刃の肉体を搦めとる。
「わわ、お兄さん凄く熱い。凄い、自分の体内で熱を創り出すなんて。霊斗兄も中々するものじゃないよ、ウン──じゃ、死んでね」
想刃はハスターにそう言われると、他の三柱が拳を想刃に当てる。
「──『叛流』」
「──『発熱』」
「──『創世』」
遡るような水が想刃の顔を塞ぎ、命を絶たんとする。
吼えるような熱が想刃の肌を焼き焦がし、溶かそうとする。
怒るような土塊が想刃の体内を圧迫し、破裂させようとする。
「私はクトゥルフ──水の精霊王」
「私はクトゥグァ──火の精霊王」
「僕はニャルラト──土の精霊王」
「ガッアッ!!」
喘ぐような想刃を、仕上げとばかりに触手が締め上げた。
「僕はハスター──風の精霊王」
意識が、堕ちる。そうなれば自分は死ぬ。──そんなことで良いのか。否、良いわけがない。──奴に勝つまで、自分は決して負けてはならない。
それまで、1秒たりとも他人の手で意識を手放してなるものかッ!!
想刃のその激白は、全てを──精霊すらも吹き飛ばし、時間すらも消した。
「うわわ、僕らの負けだ。──時間を無理やり切れさせるとは、やるねお兄ちゃん」
ニャルラトホテプが代表するようにそう言うと、4人は光の粒子となって消えていった。
そしてパチ、パチ、パチとゆっくりと拍手が鳴り響いた。
「お見事です。正直舐めてました」
「──お前もやるのか?」
「いいえ。言ったでしょう、来るべきその時まで私は戦わないと。──あなたには、私の使い魔達が相応しい」
ギャラハッドがそう言うと、彼の周囲に光る召喚陣から計20体もの黒装飾の騎士が出現した。
黒騎士達はギャラハッドの周囲から跳びのき、様々な角度から霧裂想刃を狙う。
想刃は落ち着きはらったように、それを一閃──。
20体の黒騎士はたった一太刀の剣閃によって、地面に崩れ落ちた。
「──ほう。これはこれは。良いでしょう、私の決戦も近い。あなたを解放しますよ」
そう言った瞬間、想刃の周囲は暗闇から弾幕の雨嵐へと変化した。