第8話『最終戦5』
神斗は星の聖剣を捨てると新たな刀を取り出し、構える。其れは外なる神の王、アザトースを召喚し、エネルギーとして取り込む刀──遊楽調における2振りの最強の剣、その一角『滅』。
「ぐ!?」
唐突にスペックが向上した神斗に、上司は押し切られながらも自身への強化を行って対抗する。
だが、ぶつかり合えばぶつかり合うほどに自らの振るう剣が弱っていくのを感じる。このままでは、長くは持つまい。
「くっ……!」
「ふん」
その直後。焦りからか、上司は足元に突如出現した空間の裂け目より現れた神の鎖と呼ばれる鎖に縛られる。
「チッ!」
「逃すか」
足ごと鎖を斬り落とし、翼を生やして上へ逃げていく上司へ、神の鎖は容赦なく追従する。
この神の鎖は根源と外なる神、その二種が混ぜ込まれることによって上司の干渉すらも無効化する特別製だ。
上司は空中から弾幕で一つずつ迎撃しながら、鎖と神斗から逃げる。
「──『無限の双腕』」
その直後。上司は翼を斬り落とされ、先ほど舞台となっていた惑星の重力に従って急降下していく。
その上司の上空には、空間の穴からレーザービームのようなものが伸びていた。おそらく、アレに翼を斬り落とされたのであろうことは容易に想像できる。
上司は落ちきる前に神の鎖に縛られ、さらに神斗の窮極宝具バビロンに格納された。
「な……! やられてしまったのか!? いや、でもあいつ自身は化身だから……」
「化身か。残念ながら、化身を通して本体を撃破する術も吾は持っているがな」
「くっ!」
神斗は向かってくるシルクの双剣の攻撃を滅で受けると、容易く弾き飛ばす。
「この程度か……やはり上位次元者と言えども、次元支配者と言えども、ここが貴様の支配空間でなければ意味のないことか」
神斗はそう言って、上司同様シルクを窮極宝具バビロンに格納した。
「矮小なる者よ。汝が名を告げよ」
「ほう。巨大なる白蛇よ、その体躯に見合わぬその精神、我が無限の中に食い尽くしてくれよう」
神斗はそう言うと黒と白、2匹の龍へと変貌する。
「我が名はウロボロス。この宇宙の根底たる者であり、汝を殺せし者」
「吾の名はファラク。数多の世界の根底として、炎に身を埋ラグナロクめし者」
ファラクに対して、2匹の龍が同時に咆哮を上げる。それによって宇宙空間を壊滅させるほどのエネルギーが迸った。
◇◆◇◆◇
「ふむ……龍牙め。この神殿ごとこの宇宙を壊す気か? そうはさせまいよ」
男はそう言うと、目の前に吊し上げられた2人の青年を見る。2人とも、龍牙に捕えられたままの状態だ。
「……ケッ」
「気分はどうだい? ここは僕の絶対支配空間。上位次元者だからね」
「そりゃそうだろうよ。だがなぁ……背後には気をつけたほうがいいぜ」
男の背後から、剣が一閃する。
「ほう。全てを見る魔術師や世界を見渡す王、掲示を受けし聖女からヒントを得てここまで来たのかい。サーヴァントが死ねば、その霊魂は聖杯へと還元される。マーリンの加護があるなら、それも辿れるだろう」
剣は男の背後に出現した自動障壁によって防がれる。
「マーリン? なんの話だ」
「まあ、いいさ。白谷磔、そして相沢絢斗。まず、君たちには謝らなきゃね」
そう言って、振り向いた男の顔を見て2人は絶句する。
自分たちがやられたあの一瞬。その時には見ることの叶わなかったその男の顔が、磔達に明らかになる。
「僕のために、死んでくれ」
◇◆◇◆◇
「そろそろ、動きださないとな」
僕はそう言うと、ぐっと上に伸びをする。そして、スマホを使って脳内に直接情報を伝える。
『あー、あー。霊斗、聞こえるかい?』
「誰だお前!?」
『酷いなぁ。まあ、いいさ。今から僕が本当の上位次元者であることを証明する』
「本当の? 一体どういうことなんだ!?」
霊斗が戸惑うのをよそに、僕は霊斗の肉体を蘇生し、蘇生したアルマと狼を霊斗の元に送りつける。
「……一体お前は何者なんだ!?」
『だから言っているだろう。本当の上位次元者だって』
僕はそう言って、スマホの電源を切った。
◇◆◇◆◇
「ヒーローは遅れて登場するんだぜ!」
マグゼット・ラグナロクの元にそう叫びながら狼に掴まれたアルマが落ちて来た。
「へぇ……私が殺したはずの貴方達が生きてるってことはつまり、そういうことだよねぇ」
ラグナロクはそう言うと、左手を海斗、桜、終作、アルマ、狼へと振るう。
その動きに従って、実態を持たず、耳と目のない犬と幽霊を掛け合わせたような怪物が5人に迫った。
「その程度!」
桜がそれに対して、先陣を切るように怪物を切り裂く。
「チィッ! 厄介なもんね」
さらにラグナロクへと迫り双剣を振るうが、空間断絶の壁に双剣は阻まれる。
次の瞬間アルマの激しい感情の力の奔流に空間断絶の壁は飲み込まれ、消えていく。
「今だ!」
桜が消えたコンマ1秒で始動し、ラグナロクへと向かう。
「憤怒『サタン・ザ・バースト』」
桜を憤怒の威力によって弾き飛ばし、炎を纏う腕を、翼を振るう。それだけで激しい熱や温度変化によって、周囲一帯は吹き飛ばされた。
「甘い!」
戻った桜と海斗の連撃で炎を纏うラグナロクを追い込む。
「この程度で!」
ラグナロクは海斗と桜の双剣の攻撃をいなす……が、それで手一杯になっていた。
「今だ!」
終作がそう掛け声をかけたその直後。海斗と桜がラグナロクから離れた。その様子に呆気にとられていると、終作は剣を掲げる。
「『マスターソード』オォォォォ!!」
霊力を纏った終作と世界創世剣の一撃によって、ラグナロクは真っ二つになっていった。




