第6話『最終戦3』
すまない…遅くなってすまない…
麗しき少女騎士、アーサー・ペンドラゴンの見えない剣が安倍桜の手に持つ双剣とぶつかり合う。
「はあっ! せいっ!」
「おっと! まだまだ!」
桜はそれを容易くいなし、アーサーの姿勢を崩し、隙をついて攻撃を仕掛ける。
「うぐっ……」
桜の蹴りがアーサーを吹き飛ばす。
「まだまだ。甘い、甘いわよ。それにしても……確かに大太刀だったら不利だったかもしれないけど……」
そう言って、桜は不満げに両手の双剣を見つめる。その双剣の刀身は短く、小回りが利くためアーサーの持つ剣に対して有利に立ち回れる。だが、だからと言って。自分の得物でもない武器を扱うことを強いるのは、如何なものか。
「……あー、もう、めんどくなってきたわ。アーサー、悪いけどさっさと決着つけるわよ」
そう言って、桜は魔力を錬成する。練り上げた魔力は魔術式となり、アーサーと桜を包んで──。
「魔術界門、起動。不滅二十八式生体回路、完全稼働。──さあ見せてあげる、東国の魔術の極致。穿て、三千世界を成す剣! 投影開始──映すは鏡。映し出されるは私」
次の瞬間。アーサーの目の前に先ほどとは違う武器を持った桜が現れる。
それがアーサーを切りつけ、倒されると別の武器を持った桜が現れ──。
それは桜の不滅の肉体を代償とした永続の魔力供給による絶対勝利の技。無数の自分自身を作り出し、それぞれが己の意思をもって対象に襲いかかる。
「決してなくならない」という数値は、それだけで強いのだ。それを最大限活用した、投影魔術と擬似魔術回路生成魔術の合わせ技。
其の名は『エターナル・ミラージュ』。
無限の再生力を持つ桜による、奥義が今、炸裂する──。
「無限の写し身。投影されるは虚空の私──呪術奥義・無限時空投影魔術『エターナル・ミラージュ』!」
鏡の箱が完成されアーサーと桜の時間が投影され──鏡の箱が解除されると、そこには傷まみれになり、肉体が崩壊したアーサーがいた。
「さて──霊斗が来るまで、相手してあげるわよ。ラグナロク」
「アハッ! そりゃあ楽しみだ!」
◇◆◇◆◇
終作が取り出して射出した剣を、海斗が回転させて威力を増加させる。
ギルガメッシュはそれを己の宝具──バビロンの蔵から剣を出して相殺させると、そのまま終作を狙って剣を打ち出す。
終作がそれを受け止める間に、海斗がまた投げた剣に回転をかける。
「くっ……雑種どもが、俺の邪魔をするなァッ!」
ギルガメッシュはそう叫ぶと同時に、バビロンの蔵から凡そ数百、数千、数万、否──数億にも登る武器の数々が出現する。
剣や槍、矢に斧は射出され、また銃や弓、杖等の武器の数々もその権能を最大限に発揮して終作と海斗の2人に襲いかかる。
「チィッ……! 海斗! 俺の後ろに隠れろ!」
終作はそう言うと、次元の扉を展開してギルガメッシュの攻撃を受け止める。その時間、凡そ数分間……終作が油断した次の瞬間、次元の扉を貫いてギルガメッシュの武器が終作に襲いかかる。
「終作!?」
終作に襲いかかったのは、次元を超え空間を跳躍し、対象を必ず死に陥れる槍。その名は『グングニル』──エミリアの持つスペルカード、その原典たるものである。
「ククッ……よく健闘したものだ、雑種! だが、残念だったなァ! 誰であろうと我には勝てん!」
そう言うと、ギルガメッシュは巨大な剣を出現させる。
「ここは一つ、余興を見せてやろう。我が対界宝具によって貴様らの世界を破壊してやる! フハハハハハハ!」
そう高笑いしながら、ギルガメッシュは終作同様に次元の扉を魔法杖によって作り出す。
「そこで大人しく見ているがよい」
「やらせてたまるか──ッ!」
海斗はロンギヌスの鎧と槍を装備し、ギルガメッシュの作り出した次元の扉の前に立ちはだかる。そして、取り出したるは──ただ、ひたすらに巨大なる剣。その名は、ゲサルの宝剣。帝釈天によって息子に与えられた、5メートルを越える剣である。その威力は神造宝具ということもあり、全力での攻撃力は容易く世界を滅ぼすことも可能だろう。
「フハハハハハハ! 貴様も共に散るか! 良かろう、全て塵に還してやる!」
次の瞬間──金色の楔がギルガメッシュの周囲を取り囲み、ギルガメッシュを縛り付ける。
「うぐぅ……これはっ!」
「『エンキドゥ』……だったか?」
「貴様っ!」
忌々しげにギルガメッシュの見つめる先にいるのは──終始終作だった。
ギルガメッシュを縛るのは、金色に光る楔……『エンキドゥ』と呼ばれる、神を縛る楔だ。
半神であるギルガメッシュにも、非常に有効にその楔は通用する。
「悪いな、俺ァ神だ。それも、ただの神じゃねェ……自分の傷を癒すなんざ、造作もねぇことなんだよ。慢心王?」
「チィッ……!」
「これで終わりにしてやる。霊斗、お前の技パクらせてもらうぜ……! 切断『マスターソード』!」
終作らしくもない正統にして純粋な斬撃の一撃が、次元を超えて終作の力となり、鎖に縛られて動けないギルガメッシュを真っ二つに分かつ。
「おらあっ!」
海斗はロンギヌスの槍から放たれるエネルギー砲によってゲサルの宝剣を破壊し、完全にギルガメッシュは敗れ去った。
「──桜がピンチだな。海斗、行くぞ!」
「それは分かるが、だからって落とし穴の必要はないだろ!?」
落とし穴兼次元の穴に落ちゆく海斗と終作は、桜の助太刀に向かった。
「大丈夫か、桜!?」
「ええ、なんとか! いい、よく聞きなさい! 奴は決してあの場所から動かないし、動かせないわ。奴の『炎を纏う見えない手』が外に向かっている間はね! だから、とにかくあいつの攻撃を避けて避けて避け続けて……炎を纏う見えない手を出ずっぱりにさせなさい!」
海斗はそう言われると同時に、海斗の顔面を狙う炎を纏う見えない手を回避する。
「チイッ……厄介だな!」
「終作! どうにかなんないの!?」
「ちと待ってろ! 俺としても数多のパラレルワールドでほとんど無縁だったもんを次元の穴から引っ張り出すんだ、時間がかかる! ……クソッ、見つかんねぇ!」
終作はそう言いながら、見えざる手を回避する。『見えざる手』は、宙に浮いて炎を纏う、不可視の腕だ。その攻撃力は極めて高く、またラグナロクの終わりを絶対化する能力のために始祖神であろうと無限の命を持っていようと殺される。
ラグナロクは終の存在。全ての存在に終わりを、引導を渡すものである故に──誰であろうと勝てない。それこそ、次元の超越かもしくはその次元そのものの抵抗がなければ。
「くそっ、こんなときに……隕石!?」
「違うわ! これも奴の能力……レンゴクよ!」
海斗が空を見上げながら叫ぶが、それを否定して桜は霊斗に渡された双剣を構える。其の剣の名は──干将・莫耶の上位互換。院撃・創傷と呼ばれる其れは、「人以外」を切ることに特化した武器だ。
桜はラグナロクの腕の一撃を横に回避しながら、天に向かって院撃・創傷から斬撃を飛ばす。それは隕石を切り刻むと、そのままラグナロクの腕の攻撃を防ぐ。
「──へぇ、面白いね。終局能力に抗うつもりかい」
院撃・創傷は霊斗の作りだした、次元そのものの抵抗の顕現である。簡易なものであるがためにその寿命は短いが、その間であれば見えざる腕に無傷で触れることをも可能とするのだ。
「──あった! 顕現せよ、とある次元の抵抗の意思そのものよ! 其れは勇者の剣。世界の意思。呼び出したる我が名は始祖神、終始終作! また別の次元において勇者たる者!」
『源造兵器、世界創世剣。使用者の認証を開始──全認証オールクリア。終局の存在を確認。抑止力の統合を完了。執行条件認証完了。過程跳躍完了。結果算出──世界創世剣、終局能力の突破確率、100パーセント。世界創世剣、起動』
終作が取り出したのは、捻くれ者の終作らしくもない実直な剣。大きさはアーサーの持つエクスカリバーほどだろう。しかし、持ちうる力はその何億、何兆、否──次元に存在する星の数だけ倍化する。
「うらあっ!」
世界創世剣が終作の手から放たれる。それは海斗によって無限の回転力をかけられ──しかし、それでも尚、世界創世剣はラグナロクには届かない。
「何もないところで阻まれた!?」
「見えざる手も、無敵じゃない……それでもあの剣が見えない壁に阻まれるってことは、見えざる手ではない何かが邪魔しているわ! 多分だけど、ルシファーと同じ……」
「まさか、暴食の空間断絶か!?」




