第2話『星々の一撃』
どこかへと消えた上位次元者の痕跡を辿って、背中に霊斗や上司、想刃、シルク、そして霊樹を乗せたファラクは宇宙空間を泳ぐ。
「……なあ、霊斗。今、これはどういう状況なんだ?」
「簡単に言えば、俺たちの創造者……ゼウスとかじゃなくて、真の創造者が俺たちの以外の世界を壊そうとしてる」
「なぜだ?」
「さあ? それは俺にも分からんが……長い付き合いだ、あいつが本気だってのは分かる」
シルクの問いかけに霊斗は応じた後、右手を握りしめる。
「……いや、さすがに、上位次元者だとしてもそれは無理だろ。どこの世界にも作者は存在する。俺みたいにな。そいつらがお互いの抑止力となってるはずだ」
「あぁ……普通なら、壊すなんて無理だ。だが、今この世界は他の世界とつながっている」
そう言って、霊斗はさらに説明を始めた。
そして霊斗の言葉を先回りさて把握したのか、上司はなるほどと頷いた。
「つまり、コラボで繋がってるから『上位次元者から見た』世界は壊せるってことか」
「そういうことだ。ぶっちゃけ、この想定通りならお前たちの世界にはなんの被害も及ぼさない。それが摂理だ」
そこまで言って、シルクもそれは分かると頷く。上位者達の会話に、置いてけぼりの想刃と霊樹は頭に疑問符が踊っている。
「本当なら世界に被害を及ぼさない。だが……」
霊斗がそこまで言った瞬間、レーザービームが霊斗の頬を掠る。
それは巨体故にファラクは回避しきれず、軽微ながらも傷を負わせた。
「……! 来るぞ!」
霊斗がそう言った瞬間、ファラクの向かう先に巨大な要塞が現れる。その様はシューティングゲームのようだ。
「ファラク! この先の要塞を頼んだ!」
「言われなくても分かっておる」
霊斗は要塞からファラクに向かってくる砲撃を持ち前の技術で逸らしたり相殺したりしながら、要塞に向けて砲撃を放つ。
「上司、シルク、想刃、霊樹、先に奴の元へ行っててくれ!」
「お前らはどうするんだ!?」
「後で追いかける! まずはこの先にいる奴と決着をつける!」
霊斗はそう言うと、双剣を構える。
「ファラク。俺は先に飛んで行く」
「承知。……博麗の。汝は世界の礎、死んでくれるな」
「もちろんだ!」
霊斗はそう叫び、目の前にいる強敵に向かって行く。
ソレはニィッと笑うと、拳を構える。
「クラス、格闘者。園岾晃太。博麗霊斗だな!」
「ああ! グランドサーヴァントが一角! あり得ざる冠位、冠位救世主、博麗霊斗!」
「「いざ、勝負!!」」
博麗霊斗VS園岾晃太
◇◆◇◆◇◆
今回、霊斗にとってもっとも厄介な敵。それが、園岾晃太であった。
相手の力を取り込み、また完全であり純粋な戦闘力を持つ。
この純粋なる力に干渉し、干渉されうるのは原初のみ。即ち──一番初めであり全ての源たる星の力である。
霊斗は、星の力を持たない。今まであった全てを習得こそすれ、新たな物は何一つとして生み出していないのだ。それが、霊斗の弱点。霊斗が決して勝てない相手、それが晃太なのである。
それでも、霊斗は晃太に挑む。その血肉が失われようとも──霊斗が勝てない相手に、霊斗はどうしようもなく挑みたくなったのだ。
それを果たし、霊斗は心残りをなくすため……自らの勝利した証を残すために。
◇◆◇◆◇
単独顕現で顕現している霊斗を除けば、この場に存在している英霊は6騎。
セイバー。アーサー
ランサー。クー・フーリン
アーチャー。ギルガメッシュ
ファイター。園岾晃太
ルーラー。ジャンヌダルク
バーサーカー。ヘラクレス
そして、七騎目が顕現した。
「っおいおい……! こんなのありかよ……!?」
そう言いながらシルクは面を外し、霊樹と想刃は剣を構え、上司は干渉の準備をする。
だが、いずれにしても勝利の望みは薄くなっただろう。
そこに顕現したのは文明の破壊者、セファールの白い巨人。
かつてありとあらゆる文明を破壊し、神を殺した者。
星の聖剣に殺されなければ、地球すらも破壊してたであろう。
「クラス、デストロイ。サーヴァント、真名、セファール。ここに顕現した」
デストロイと、そう名乗った。
セイバーという、アッティラ・ザ・フンとしてのフン族の王でもなく。
ブレイカーという、地上を蹂躙し、やがて星の聖剣により殺された神でもなく。
文字通り、完膚なき破壊。彼女は、そう名乗った。
「我が名は、セファール。月の蹂躙者たる白の巨神、地上の蹂躙者たるその本体である」
「らあぁぁぁぁぁあ!!」
シルクが、自らを奮い立てるように叫びながら短剣を振るう。
それに続いて霊樹が、想刃が、上司が。各々の武器を振るう。
霊樹によって創り出された星の息吹を。想刃の根源の加護、神子たるその肉体を。上司による根源に干渉しうる能力を。
アッティラは、それらを吹き飛ばす。一振りの剣で、全てを破壊する。
「それは、全てを破壊する捕食星の剣。それは、神々への蹂躙たる文明の破壊。我が剣を受けよ──
『真の星の紋章』」
マルスではない、真の巨神の一撃が。降り注ぐ──。
「やられてたまるかァァァァァァァアア!!!!」
霊樹が、そう叫びながら放つ。星を破壊するその一撃に、対抗しうる一撃を。
◇◆◇◆◇
「……あなたは? ここは……?」
霊樹が、突然迷い込んだ星々の瞬く世界で、目の前の青年に名を問う。
「ここは、お前の深層世界。霊斗に頼んで、俺を連れてきてもらった」
「あなたは……?」
霊樹の問いを無視して、刀哉は問う。自分の力を貸すに値するかを。
「……聞こう。力を欲するか。世界を守るか」
「もちろんだ!」
「ならば、俺の力を貸そう。刀剣の神たるその力を。俺の名は刀哉。そしてこれは……軍神の剣だ。使ってやれ」
◇◆◇◆◇
「建国神の剣」
それは、ローマの父ロムルスの父親。ローマを加護する神の、建国神としての剣。文明の破壊神ではなく、文明の創造神の剣。
「アァァァァァァァアア!!」
霊樹は吼えながら、自らに憑依するマルスと刀哉と、そして自分の力を絞り出す。
──そうなんですか? ふふっ。霊樹さん、面白いんですね。
──えー、酷いこと言いますねー。
霊樹を愛してくれた少女のために。霊樹を好きと言ってくれた少女のために。たとえ、自らの肉体が滅びようとも。世界を、救うその芽を潰させない。
「──ガァァァァァァァアア!!」
霊樹が、その剣を振り切る。
巨神の一撃を弾き、消しとばす。
自らの命の灯火は、残りわずかだ。
「せっかく助けてくれたのに、こんなに早く、すみません……」
霊樹はそう言うと、自身に憑依しうる全ての亡霊の力を取り込む。
そして、その表層に平定の英雄を発現し、同時に顕現した弩を握りしめ、弦を振り絞る。
「いくぞ……!!! 流星一条ァァァァァ!!」
それは、戦争を終わらせた一撃。自分の肉体を代償に、自身の四肢が爆散するほどの、強力無比なる力技。
イランの英雄の一撃。頑強なる肉体も、体が散り散りになる魔弓。
自身の肉体を代償とする剛魔弓の一撃が──巨神の胸を貫く。
それは、自身を愛してくれた、たった1人の少女のために──