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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
8/35

 

 成田まで200キロ余り。自転車なので国道やバイパスを走る。

 途中、モスグリーンの車両が連なって同行する。何処に行くんだろう……

 しばらく併走していたが、ジープから声が掛かる。お前中々やるな、何処の学生だと。

 なので、卒業して今は暇なのだと。次の休憩所で止まるから、ちょっとオレの話を聞けと言われ、10分後に彼の話を聞く事になる。

 話を聞くはずが質問される事になり、高校を卒業して旅に出ようと思った事。

 就職は決まってない事。運動は比較的得意な事。ただし、部活はやってなかった事。

 そんな事をつらつらと聞かれ、自衛隊に入らないかと誘われる。


 金を貰って身体を鍛えるには良いかと思い、とりあえず承諾する。試しにやってみてやれるようならと……

 そのまま駐屯地に案内され、事務局で話を聞く事になる。どうやら体験入隊と言うのがあるようで、金は出ないがメシと寝床はあるそうだ。

 1週間では分らんから1ヶ月やってみろと言われ、そのまま体験入隊となる。

 これでもかなり広い学識を得ていたつもりだったが、さすがに専門職の学問は少し足りず、それでも講義には付いていけた。

 そして実技の始まりはランニングから……背中に30キロのリュックを担ぎ、とりあえず走れと言われて走り始める。

 他にも体験入隊者は7名居たが、全員が途中でへたばった。


 まあ、2時間も走り続ければ普通はへたるよな。


 オレは自転車通学と筋トレとランニング、それに毎晩の夜の運動が良かったのか、3時間経っても何とか継続出来た。

 そのうち前を走っていた隊員のほうがふらつきだし、パタリパタリと……

 どうやら専門職の体力を見せ付ける作戦だったらしく、オレ以外には通用したようだった。

 そして4時間後にランニングが終わったが、残っていたのは隊員の内の数名と、体験入隊者ではオレだけだった。

 多少、呼吸が荒くなってたが、深呼吸をしているうちに収まった。

 軽いストレッチをしていると、大した体力だがどうやって作ったかと隊員たちに聞かれ、自転車通学だったからかなと。

 距離を聞かれて60キロと。お前、とんでもないなと半ば呆れていたが、拙いんだよな、それを知られると。


 頼むから時効までにその情報が警察に伝わるなよ。


 凶器や使用した物は発見の話は聞いてないが、そんなに捜査内容を明かすなどあり得ない話。

 自転車の行動範囲外と推定しての除外なら、毎日片道60キロ通学は充分に範囲内だ。

 こればかりは運次第と諦め、漏れない事を祈る事にした。

 その日はそれでひとまず終わり、それと言うのも隊員すらもオーバーペースだった訳で……

 翌日、いつもの調子で4時に目覚めたが、外はまだ静かな様子。

 顔でも洗って待ってようと、うろうろしていたらやけに早いなと言われ、長距離自転車通学だったと言えば成程と。

 朝食時間まで色々な話を聞き、食堂が開いたら即座に突入。

 ガンガン食って食休み。時間までのんびりしてろと言われ、お茶を啜りながらまったりとする。

 それは良いのだが、毎晩の夜の行為の弊害か、昨夜はトイレで抜きまくった。

 やれやれ、女っ気無しの職場と言うのもちょいと辛いかも知れん。

 慣れたらいけるかも知れないが、長年の習慣を変えるのに苦労しそうだなと思った。

 なんせ中2の終わりから高校卒業まで、ずっとあの女と過ごしていたんだし。

 特に同居になってからは毎晩だったし……そんなこんなで1ヶ月の体験入隊は終了した。


 結局、最後までまともにやれたのはオレだけで、他の人達は本当に体験しただけで終わりになった。

 推薦は1名……ちょうど4月初めに新人が来ているので、それらに合流する事となる。

 いよいよ給料を貰いながらの体力作りの開始だな。

 新人と応募者のカリキュラムは異なり、足りない知識を補う為に毎日講義を受講しながらの実務となるようだった。

 午前中は講義で午後から実務。それは時には深夜に及び、なのに起床は6時。まあオレは毎朝4時に慣れているから問題は無かったが。

 講義のほうも過去の学識収集の恩恵がかなりあり、専門分野だけの講義で済んだ。テストの結果でそう決まった訳だが。

 そんな新兵訓練のようなのが1年続いた頃、新人達の数が少し減っていた。脱落者が出たようだったが、そんな事はオレには関係無い。

 さて、今日はいよいよ試験の日、見習いの文字が取れるか取れないかがこれで決まる。山岳踏破試験……

 駐屯地から100キロ離れた場所からの帰還ミッション。山を1つ越えないといけないルートで猶予は3日以内。


 山を3日で100キロというのは中々に厳しいが、陸自ならそれをやらねば話にならんとか。

 私物の持込は極力控えるようにとは言われたが、愛用のバタフライナイフと夜釣り用のケミカルライト、虫避けスプレーとかゆみ止め、救急箱とサバイバルキット。

 針金とロープとナイロン紐、バランス栄養食と使い捨てカイロに簡易テントにオイルライターとオイルと予備の石、発炎筒と寝袋と断熱シートと片手鍋を持参した。

 案の定、色々言われたが、必要と思ったので持参したと言えばそれで終わった。

 後は軍用レーションの配給があり、空の水筒に水を満たした。いよいよ試験の開始である。

 私物をこれだけ持って来たのはオレだけで、減点の対象になるともっぱらの噂。しかもオレは厚着をしている訳で……

 そんなんじゃ汗だくになるぞと、半ば冷やかし混じりに言われるが、そんな事はどうでも良い事だ。

 開始と共に上着を脱ぎ、クルクル巻いて背嚢の上に縛り付ける。私物が多いからわざと着ていたのさ。


 そして虫除けスプレーをシューシューと……さて、行きますかね。

 軽い傾斜の登坂は駆け足で調子良く登っていく。

 地図を見ながら軽快に登るが、どうにも地図が怪しいぞ。

 方位磁石と照らし合わせるのだが、この地図合ってるのか?

 登山道のラインがどうにも適当だ。

 傾斜角と登山道を修正しながら書き込み、頂上で周辺を眺める。

 確かに遥か彼方に駐屯地は見えるが、あれが100キロ?

 歩測でザックリと500メートル移動し、三角測量で大体の距離を測る。

 おいおい、180キロもあるぞ。それに地図に無い川の存在や池の存在も発見し、早速地図に書き込んでいく。

 山頂の木の上での作業はちょっときつかったが、色々調べているうちに追い抜かれていた。

 それでも地図はかなり詳しくなったので良しとする。


 大体、目標の駐屯地の方角が違う地図とか何のつもりだよ。

 それはイタズラか意図的な錯誤を誘発させる罠なのかは知らんが、とにかく駐屯地が目的地のはず。

 地図に描かれた場所じゃないはずだ。

 まあ、間違っていたらもう1年やれば良いだけなので、落ち着いて地図を詳細にしていった。

 初日は結局それで終わり、そのまま木の上で上着を羽織り、虫除けスプレーを再度使い、木の幹にロープで身体を縛って仮眠を取った。


 軍用レーションは火を使わないといけないので、手持ちの保存食で済ました。


 夜中に雨が降り出し、断熱シートで雨避けをする。

 服の下に着ていたナイロン合羽が多少むれたが、服は濡れても身体は濡れない。

 夜が明けたのでロープを使って木から降り、ビニール袋入りの地図と方位磁石で確認しながら移動。

 最短で障害物の無いルートを確立しておいたので、それに従って山を下っていく。

 落ち葉の深い下り坂は、雨を含んで滑りやすい。なるべく木の根を足掛かりにしながら、ルートのままに下っていく。

 雨は止んだが曇り空。それでもメシは食わないとな。


 とりあえず、火を起こしてレーションを温めて食い、水筒の水で喉を潤す。


 ふうっ、半分ぐらい来たかなと、ルートの再確認をしながら移動を開始する。

 他の奴らは気配すらも感じないが、相当先に行ったかまだ寝ているか。

 まさか、地図のままに進んだりはしてないよな。

 昼頃になってまた雨が降り出す。今度は空が真っ黒だ。これはいかんとビバークの準備に取り掛かる。

 簡易テントを取り出し、中に断熱シートを敷いて潜り込む。

 荷物で風対策をして、寝袋を出してそれに入り待機。しばらくすると土砂降りの雨が来る。

 テントが破れるんじゃないかってぐらいの豪雨が始まり、ゴーゴーと煩いの何のって。

 水はけの良い場所を選んだにも関わらず、テントの中に水が少しずつ沁みてくる。


 確かに山の天気は変わり易いとは言うけど、試験の日にこんな悪天候が予測される日を選ばなくても良さそうなものなんだがな。

 寝袋の中でケータイでの天気予報。どうやら雨雲が急速に発達して、風向きが変わっての天候悪化らしい。

 雨雲レーダーで見ると、局所的な雨雲のようで、しばらくすれば止みそうな予感。

 なので止むまでの辛抱と、ケータイラジオでも聞きながら待つ事にした。

 念の為の予備電地があるから余裕なんだけど、これぐらいの山なら電波も届くんだな。

 多少小降りになった雨音に混ざり、バラバラという音が近付いてくる。うん? 傘の音か……誰だ。

 お前、余裕そうだなと教官の声。どうやら悪天候で試験が中止になるようで、止んだら撤収しろと言われる。やれやれ……

 小一時間もすれば雨はすっかり上がり、日差しが差してくる。

 テントの水気を払って片付けて、全てを背嚢の中へ。指定場所へ移動するも、そこには教官しかいない。


 そこで地図を見せると妙に感心されたのだが、なんでも今回は試験的な取り組みだったようで、本当なら合格だったのになと慰められた。

 偽場所に行こうとしていた面々は、軒並みずぶ濡れでガタガタ震えており、駐屯地に到着したらすぐに風呂に行けと言われていた。

 残ったのはオレ1人。そこで教官から試験官へ事情の説明となり、言われるままに地図を提出した。

 そしてお前も風呂に行けと言われ、荷物を私室に置いて風呂に行き、サクサク身体を洗って早々に出る。

 夕飯まで暇なので、自室で筋トレを開始。最近、量が減っていたから目一杯やっておこうと思い、ひたすらやっていたが、ノックの音で中断となる。

 汗だくでタオルを首に掛けてドアを開けると、まだ体力が余っているのかと妙に呆れられたが、試験のやり直しが2週間後と言う事と、オレが免除になるって話だった。

 なんでも、あの場所まで到達していた事と、修正地図に書かれていたルート。

 あれに従えば到着していただろうと言われ、開始前の準備と雨の避け方、それら全てを鑑み、到達したものと看做すと決まったらしいのだ。

 なので一足先に勤務地への異動になると言われ、私物を纏めて送り出された。

 確かにオレは志願兵みたいなものだから、訓練学校卒とは趣が違う。

 なのでこれは隔離かなとも思ったが、別にどうでも良いから気にはならなかった。


 お先に失礼……


 

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