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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
6/35

 

 年が明け、いよいよ卒業まで数ヶ月と迫ったある日の事。

 その日は朝からみぞれ交じりの雨が降り、後に雪になるかと思われるような寒い朝だった。

 こんな日は自転車も速度を出せないので、少し早めにマンションを出た。

 マンション前の掃除の後、自転車にまたがるとご苦労様の声。

 誰かと思い、声のほうを見ると、管理人のお爺さん。

 はにかんで朝の挨拶をした後、少し世間話に付き合い、自転車を漕ぎ出す。


 彼が証言したのかなと思った。


 女は大抵、夕方に起きてオレの作った料理を食い、準備して出勤をする毎日。

 オレは登校途中の橋で、昨夜使用したゴムを川に投げ捨てるのも日課。

 毎晩の行為は女も喜んだが、オレのスタミナに付き合わされる羽目にもなっていたようだった。

 学校が終わって途中で買い物をし、袋を提げて帰る。

 カギを開けると珍しく女が寝ている。買い物袋を台所に置き、女の様子を見に行くと酷い熱。

 これはいかんと熱を測るが、40度に近い熱だった。

 意識はあったので聞いてみると、昨夜の行為の後、布団を跳ね除けてしまったらしい……オレのほうへ。

 寒くて目が覚めて布団を被ったが時既に遅しで、しっかりと風邪を引いてしまったらしい。


 なのでキャバレーに電話し、叔母が風邪を引いて熱が40度近くある事を話し、欠勤にして貰うことにした。

 どうにも渋っていたので、ホステスは出来ないが、裏方の仕事ぐらいならやりますから、解雇にはしないで欲しいと懇願。

 何とか受け入れてくれて急遽着替えてキャバレーに向かう事にした。

 女はごめんねと言うが、気にせず寝てろと氷枕をしてやった。

 久しぶりに着るスーツと、髪はオールバックにしてサングラスときて、ネクタイをすればそこらの組織の幹部の様相。

 電話より低目の声で支配人を呼んでもらい、妙に恐縮しているような支配人に、叔母の代わりの臨時要員と告げる。

 いきなり明るくなる支配人の雰囲気に、地元の組織との不和を知る。


 皿洗いかと思えばウェイター。


 閉店までやってくれたら彼女の解雇は見送ると言われ、その言葉はそのまま小型録音機に記録された。

 保険は必要なのは当たり前の話。水掛け論では物事は解決しないのだから。

 しかも、現役高校生を交換条件でウェイターとなれば、ちょっと問題がある。

 皿洗いの提案に対しての店内勤務なのだから。

 それはともかく、12時閉店だけど2時まで営業なその店で、キッチリ2時までウェイターをやった。

 支配人は継続を言うが、あくまでも今回は臨時の事と断った。

 帰りにコンビニで果物をいくつか買い、マンションに戻ると眠っていた。

 リンゴを擦って氷枕を作り直し、宛がっていると目を覚ます。

 何か食べないと身体に悪いと摩り下ろしリンゴを渡し、食べられるようならスープでも作ろうかと。

 お腹が空いたと訴えたので、シチューを作る事になる。

 その日は結局、朝まで看病し、トレーニングは休みにした。

 登校前にもシチューを飲ませ、氷枕を変えておく。

 安静にしてろと告げてマンションを出て、掃除をして登校する。


 今日もダメなら医者に連れて行こうと思い、学校ではしっかりと眠った。

 帰宅すると女は居なかった。無理して出勤したらしい。念の為にキャバレーに行くと、仮眠室で横になっていた。

 その女に対し、こんなんじゃ無理だから辞めて貰うよと通告をしていた。やれやれ……

 コンコンと壁を叩いて気付かせると、君なら継続も歓迎と言われるが、女のほうは無理だと言われる。

 昨日の話とは違うと言うも、そんな話はしていないと突っぱねる。やはりそう来たか。

 その日はそのまま家に連れ帰り、ベッドに寝かせて養生させる。

 焦らなくても良いからのんびり養生しろと告げ、翌日の朝から港近くの事務所を訪ねる。


 用件はテープの販売。


 聞かせろと言われるままに、叔母の代わりに皿洗い、なのに店ではウェイター。

 その翌日に解雇の通知。契約違反は知らぬ存ぜぬでの水掛け論狙い。しかもオレは現役高校生。

 さて、このテープでいくらで買うと……1万とのたまったので、あの店、欲しいんじゃないのかと聞いてみる。

 それでも動かないので対抗組織に売りに行く、邪魔したなと告げるといきなりそいつが吹き飛んだ。

 見れば幹部らしき人に蹴飛ばされていたんだけど、中々荒いね。


 くすくす笑ってみていると、オレの学生証を見せろと言う。見せたらいけると呟いて、200万で買ってやると。よしよし……

 受け取りを書いて手渡し、裁判の折には証人として出頭しますと、但し書きを書いておいた。

 それを見てニヤリとするのでサービスと告げておいた。

 ついでに以前、色々教えてくれた幹部の名前を聞くと、彼の兄貴分だったらしく、道理でと納得された。

 彼は今、別の支部に出張しているらしく、当分戻って来ないらしい。

 臨時通訳の話は聞いていたらしく、また必要なら電話しても良いかと、連絡先を教わる事になる。

 どうにもあの通訳は、トラブルで殺されたらしい。

 横流ししちゃいけないよねと言うと、またニヤリとする。合ってたらしい。

 そんな訳で当座の金も出来、女にはそれを見せ、これでしばらく食い繋げるだろうし、オレへの小遣いはしばらく止めて良いと話し、養生するように言った。


 結局、彼女の風邪は長引き、1週間は寝込む事になった。


 それからしばらくしてあの店は更地となり、売り土地と看板が出ていた。

 もちろん連絡先はオレのケータイの電話帳の番号と同じなのだが……

 そして快復したのだが、女は妙に弱気になっていた。

 よくよく聞けば田舎の実家から連絡が入り、後添いの話があったという。

 なんでも村の有力者の後添いとかで、他に出せる女が居ないとか、赤裸々な依頼もあったもんだ。

 それでも財産家でもあるので玉の輿だわと、母親に説得されたとか。

 32才の初婚が後添いは酷いとは言ったが、オレには収入が無いから養えないし、就職もまだ決まってないから強くは出られない。

 君と別れるのは辛いけど、それが君の為なら我慢する。

 その代わり、田舎に帰る前にたっぷり抱いて、身体に刻み付けておきたいと。

 泣きながら彼女はそれを受諾し、オレの卒業式の日までたっぷりしようねと話し合った。


 そうして仰げば尊しは、我が女の恩って歌いそうにになったのは内緒だ。


 荷物はあらかた送り、オレは自転車に手荷物を載せて、駅まで歩いて見送る事になった。

 入場券を買って荷物を持って中に入り、電車の到着を待つ間、彼女は泣き続けていた。

 それでも何とか泣き止み、列車に乗る前に抱擁とフレンチキス。

 ずっと忘れないよと彼女に告げて、そのまま中に入ってドアが閉まる。

 ドアごしに手を振り合い、ずっと見えなくなるまで見送った。


 長丁場だったけど、何とか同棲芝居は終わった。得た物はかなりだ。

 確かにテープ代の残りは帰省費用に渡したが、少なくとも4年間の小遣い。

 それと女へのテクニックの数々。後は裏の方々との邂逅。


 さてと、次は何をしようかねぇ……コインロッカーの中のスーツ一式と靴、以外は要らないから捨てて終わりだ。

 まあ、ケータイは壊れるまでは使うんだけどな。

 銀行の残高は2700万余り。生活費は彼女が出し、雑費も彼女。

 実質的に使ったのは小型録音機とか、鉄パイプとか、各種書類とか、そんな小物だけだった。

 昼飯はおにぎりを握って学校に行ったし、友達付き合いで少し使ったぐらいか。

 なので収入の殆どを貯金に回せたのだ。


 ああ言うのってヒモって言うのかな、クククッ……

 さて、それは良いが、何て名前の女だったんだろう。

 故郷も聞いたが忘れたな。

 まあいい、終わった事はもう忘れて、ひとまず実家に挨拶だ。

 なんせ4月で起訴期限が来ちまうからな、とっとと親と対決しなければ。

 

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