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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
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 11月に入り、早くも内定を受けた者達が出る中、オレに対する求人は無い。

 任意同行や事情聴取を受けた者に対する偏見が原因とみられ、ますます保険の有効性が高まった頃だった。

 クラスの悪ガキ連中も何とか就職の口を見つけていく中、オレは放置していたのだから当たり前だ。

 相変わらず、遅刻の常習犯で授業中は寝る、授業が終わったら即座に帰るとか、そんな奴に勤め先が見つかる訳もない。

 図書館と大使館を行き来して、学識と語学の習得に努めた。

 大使館は意外と開けていて、受付ぐらいなら対応してくれる。

 語学学習の一環と言い、現地語で話しかければ尚更だ。

 言わば、タダで語学講師をやってもらっているようなもので、週に1回はあちこちの大使館の受付にお邪魔したものだ。

 ただ、フランス大使館だけはカタコトなので、ちょっと対話に苦労した。今はそんな事は無いが。

 それはともかく、当時は下積みの時期として様々な知識を得ようとしていたのだ。


 11月の中頃、オレのケータイ盗難事件が起こる。


 ケータイは女に買って貰ったのだが、連絡先は親と女の2件しかなく、メールも女だけのアッサリとした電話帳になっていた。

 なのでカモフラージュとして、公共機関や放送局などの電話番号やメアドを適当に登録し、女も男名前で登録しておいたのだが。

 それを盗まれる理由も分からなかったが、ある時、壊れて戻ってきた。

 早速、アルミの粉末で指紋を採取し、クラスの奴らの指紋を採取、特定した。

 犯人は苛めようとして反撃を食らったあいつだった。

 窃盗と器物損壊の容疑なのだが、こんな事で警察は動いてはくれないのは確実。

 なので内容証明でそいつの親宛に、窃盗と器物損壊の疑いで起訴したいのですがと、ザックリと書いた起訴状と共に送っておいたのである。

 中には起訴状とビニール袋に入れた壊れたケータイの写真と採取された指紋、それと彼の指紋を比べられるようにした写真。


 そいつは既に内定が決まっており、無罪になるにしても裁判沙汰は致命的だろうから、恐らく示談になると思っての通告だった。

 そして数日後、あいつの親に連絡し、構わなければそのまま弁護士に依頼すると伝えたところ、思ったとおり示談にしたいと告げられた。

 ケータイが壊れたと言えば、女は新しいのをすぐに買ってくれたが、そいつで親に連絡をした訳だ。

 彼の親は喫茶店で話したいとオレを呼び出し、そのまま示談の話し合いとなる。

 そもそも、いきなり殴られての反撃で喧嘩呼ばわりされた迷惑行為を槍玉に挙げ、その逆恨みでの犯行なのではないかと親に告げる。

 そしてケータイ代金20万と、迷惑料として30万の合計50万円で和解した。

 金額を抑えたのは相手に対する心証を上げる為と反訴を抑える為。

 50万の事で起訴などすれば、弁護士費用がどれだけかかるか。

 そうなるとそのしわ寄せは子供に向かい、確実にあいつは親の吊し上げられ、こっぴどく叱られる事になるはずだ。

 それこそが報復になると判断しての今回の訴訟騒ぎという訳だ。

 やはり思ったとおり、翌日あいつは顔を腫らせて登校した。


 どうやら親に殴られたらしい。


 すれ違う時に恨みの目をしていたが、また逆恨みするつもりなら覚悟をする事だ。

 今度こそ、あんな端金では済まさないと思った。

 12月までは何も起こらず、あいつも用心していると思われたが、時々顔を腫らせて登校する様から、晩酌のたびに蒸し返されているのではないかと推測した。

 それが本当かどうかは知らないが、期末テストの結果発表時、あいつは相当雰囲気が暗くなった。

 オレはあえて今回に限り、それなりの点を取った。


 それが珍しいのか教師がわざわざクラスで発表する。個人情報の暴露である。

 あの教師はそういうのが好きな困った教師だと思ってたが、遂に引き金を引いてしまったと思った。

 放課後、軽い殺気を感じ、致命傷を避ける為に筋肉に力を入れて身構える。

 小型のナイフで体当たりするあいつ。即座に無力化して110番。事件発生と捜査員の派遣を依頼する。

 刺されたナイフはそのままで119番にも連絡して状況と状態を説明後、やはり抜くなと言われたのでそのままにし、あいつの上に乗って到着まで待機した。


 素早い通報で教師は何も出来ず、ただおろおろとしていただけだった。

 時間差を考えて119番へは少し遅れて連絡したが、そのうちサイレンと共に先に警官が到着。

 腹に刺されたナイフを見せ、後に来る救急車の事を話し、病院で抜いた後のナイフを証拠品として提出する旨を話す。

 それと共に彼を現行犯逮捕したと話し、周囲の奴らが証人と告げる。

 テキパキと話せばスムーズに事は運び、オレは救急車で病院に運ばれ、医者に抜かれて治療と縫合が成された。

 治療の後、聴取が行われ、教師がオレの個人情報を暴露した後、彼の雰囲気が悪くなり、そのまま犯行に至ったと話す。

 今日は期末テストの成績発表があり、恐らく彼の成績が自分より悪かったのではないかと。

 それが教師の暴露となれば、教師が引き金を引いたとも考えられると。

 そしてあの弁護士に電話し、刺されたので起訴したい旨を話す。

 そんな電話を聞けば警察も動かざるを得ない。

 たちまち教師も事情聴取される事になり、彼の未来も暗くなった。


 医者の診断書を持って弁護士事務所に赴き、彼への起訴と損害賠償請求を頼む。

 着手金として50万を手渡し、後の手続きを頼んでおいた。

 さて、貰ったケータイが50万になり、それを使ったから次はいくらになるかと、そんな事を思いながら待っていたら、示談の申し込みが相手からあったと報告が来た。

 着手金が50万なので、最高でも500万の請求を頼んでおいたが、果たして全額での合意に至る。

 ちなみにあいつは卒業を前にして退学、同時に就職先を失った。

 初犯なので何とか執行猶予は付いたが、未来は暗くなったようだ。

 教師も居なくなった。懲戒免職か転勤になったのだろう。


 冬休みに入り、オレは変わらず学識収集と女との日々。

 名目は下宿となっており、家賃の代わりに家事をする契約にしてある。

 内縁の証拠は隠滅してあり、刑事の訪問も無事に終わった。

 女には被害者だと告げてあるが、そんな事は関係は恐らくあるまい。

 多少キズが付こうがオレを逃せば後が無いのだから。

 近所の奴らには親戚の子と告げてあるようで、他県からの進学で下宿させているのだと言ってあるようだ。

 オレは登校前にマンションの前を掃除したりしているので、意外と受けがいい。

 こういう小さな事から噂の発生を抑える効果があるだろうと始めたが、見ている奴は何処にでも居るものだと、効果の程を実感した。

 他にも買い物袋を提げて戻ったり、作り過ぎたと称して隣の奥さんにおかずを渡したり、実際に家事をやっているという証拠の作成には余念が無かった。

 そんな訳で男女の仲を疑われる事なく、事件の捜査は終了した。

 

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