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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
4/35

 

 皮手袋を着けて鉄パイプを握ってみる。

 ギュッギュッと握り心地を確かめ、ベルトの後ろに挿しておく。

 鉄パイプにもナイフにも指紋は付けてない。

 指の指紋には瞬間接着剤を塗って消して購入したからだ。

 剥ぐのに数日は掛かったが、下手を打って捕らえられる訳にはいかないからだ。

 やるなら完全を目指したいが、この国の司法で何処までやれるか、それが心配だったのだ。

 可能な限りの学識を得て、法律にも詳しくなった。

 英語とドイツ語も何とか喋れるようになり、フランス語が片言ぐらい。

 これは外人観光客がうろつく観光地での耳学問と、ボディランゲージを交えた実地の学習で何とかなった。


 もちろん、テレビの語学番組も活用した。


 ヨッパのヤの付く自由業の方を取り押さえた時に、裏の方々と知り合う事になり、裏にも多少詳しくなった関係で、色々な抜け道を知る事になった。

 たまたま通訳が風邪熱で寝込み、その代用員として通訳もどきをしたのだが、それで馴染んだのだ。

 しかしあの取引相手、どうにも雰囲気がおかしかった。

 もしかしたらと思い、注進してみたのだが、それからどうなったのかは聞いてない。

 取引の前の話し合いの通訳だったのだが、もしかしたら中止になったのかも知れない。

 麻薬捜査にはおとり捜査が認められていると、幹部さんに注進したみただけなのだが・・


 それはともかく、万が一の逃亡先の目処もあり、ここで戦闘を決めた訳だ。

 確かに女のほうの童貞は既に捨てたが、殺人童貞はまだ捨ててない。

 それも今夜、捨てる事になるのだなと、当時はそう思ったものだ。

 そして保険を仕掛ける。あいつらのバックと思しき珍走団には当たりを付けてあり、その対抗組織への連絡の開始だ。

 わざわざ対抗組織の縄張り近くを指定した意味がここにある。

 深夜2時過ぎにここに集合し、そちらの縄張りを荒らす計画の始まりと注進。

 果たして信じるか信じないか。まあ、ワンワンとエンジンの音がすれば、本当の話だと思ってくれる思ったのだ。

 そうして2時頃、遠くからエンジンの音が響いてくる。やはり呼んだか珍走団。


 オレは広場の端に位置取り、静かに隠れていた。

 パパラパパラと賑やかな音と共に、コーナーを勢い良く曲がろうとして、ガシャンガシャンと派手な音が響いた。

 その後で叫び声と共に海に落ちる音がいくつかした後、罵声と怒声がその場で響く。

 そのうちに保険が姿を現した。水掛け論の言い合いは留まる所を知らず、あの罠は対抗組織の仕業と思い込んだらしい。


 頃合とばかりに黒覆面をして鉄パイプを握る。

 乱闘になったら乱入して、適当に何人か殺って逃げる計画。

 保険が来なければ単独殲滅で、下手したら海外逃亡だが、来ればどさくさに紛れて殺人童貞を捨てる。

 当時は最悪の結果を予測していたのだが、それは回避されたのだ。

 そんな訳で乱闘に発展したその時は、闇に紛れてリーダーと思しき奴を発見し、後ろから鉄パイプで後頭部を思いっ切り叩いてやった。

 転倒してそのまま前に倒れた奴の延髄を踏み締め、そのまま思いっ切りジャンプしてそこらの奴らを叩きまくった。

 蹴った時に鈍く骨の折れるような音がしたので、あれが致命傷だったのかも知れない。当時のリーダーは死んだから。

 ともかく、その時はもう、ひたすらの全力で暴れたんだけど、実に心地良かったのを覚えている。

 思うままに動く身体を駆使し、手当たり次第に叩きのめした。

 鉄パイプと言ってもそれは厚手の水道管パイプ。しかも外径48ミリのそれは事の外、対象を無力化して地に伏す奴らが増えていった。

 やはりすっぽ抜けないようにと、T字の接続管を付けたのが良かったらしい。


 流れる血で滑る手袋を支えてくれたのだ。


 高校に入ってからの、いや、今までのストレスを発散するかのように、あの夜はバーサーカーのように暴れ回ったのを記憶している。

 そして気が付けば全員がノックダウンしていたのだ。

 総勢60人ぐらいをまさか単独で倒せるとは思っておらず、自らの身体の戦闘能力の高さを思い知った瞬間でもあった。

 そして岸壁に立ち、水道管を逆に持ち、バットのようにフルスイングをしてなるべく遠方にと海に投棄した。


 後は逃げるだけである。


 血に濡れた皮手袋を脱ぐのに少し手間取ったが、何とか脱いで覆面を取り、手に沁みた血液をぬぐって皮手袋を包む。

 隠しておいた自転車の傍に置いてあった紙袋に入れ、それを更にコンビに袋に入れる。

 そのまま自転車を飛ばす事45分。


 途中、袋を入手したコンビニを通過し、そのまま山に走っていく。

 目的地は産業廃棄物処理場。その中は夜は誰も居らず、でかい穴が開いている。

 毎日、重機でそこにゴミを投入しているのは知っていた。だからこそ計画に入れたのだから。

 現地で羽織っていたパーカーも脱ぎ、まとめて袋に入れて穴の中に投棄する。


 帰り道、全身を包むゾクゾク感。


 パーカーが無くなって寒いのかと思っていたが、女のベッドに潜り込んだ後も消えなかった。

 そいつに身を委ねると、じわじわと溢れてくる歓喜、そうかオレはあれを思い返して楽しんでいるのか。

 その時はそう思い、その歓喜に意識を委ねて眠ったのだ。

 これが当時のオレの行動だったが、果たして発覚するかどうかは五分五分と踏んでいた。


 港から産業廃棄物処理場までは45キロ。そして女のマンションまでは38キロ。

 移動手段が自転車だけのオレに対し、当時は何処までの疑惑が来るかは分らなかった。

 結果的に族同士の乱闘事件として処理され、死者14名、重軽傷52名の大事件として、新聞や週刊誌またテレビでも報道された。

 ちなみに、絡んできた6人も中に居たようで、彼らは重軽傷の状態で退学処分となった。

 オレに絡んでいた事から教師には話を聞かれたが、無視して行かなかったとだけ告げた。

 どのみちオレは免許も持っておらず、自転車しか持ってないからだ。


 教師はそれでも親に連絡したようで、証拠も無いのに親は即座に関連を信じたようだった。

 電話で関係無いと何度も言うが、聞く耳を持たなかったのがその証拠だ。

 更に親は警察にも連絡し、任意同行までされてしまう。

 無関係だと主張し、いじめが元の正当防衛を喧嘩扱いされて、その逆恨みでの果し合いの申し込み。

 バカらしいから無視しておいたらあんな大騒動。バイクも無いし免許証も無い。

 いじめの現場を無視しておいて事件があったからと関連を疑い、証拠も無いのに親に連絡し、親からそちらに連絡が行ったと言うのが顛末ですと、一連の流れを説明しておいた。


 結局、それで話は終わり、親の不信を同情さえしてくれたものだ。

 普段の出来損ないの姿から、叩けば埃でも出ると思ったか。

 伊達メガネでカバンにはドイツ語の原書に辞書とあれば、誰が出来損ないに見るかよ。

 原書を開けてつらつらと読んでやったしな。


 結局、産廃の証拠物件や、海に投棄した鉄パイプの捜査には至らず、単なる族同士の抗争事件として幕を閉じた。

 その後、オレは親にされた仕打ちを弁護士と相談し、起訴状の作成に至る。

 ザックリと書いた下書きを持って弁護士事務所を訪ね、親のやらかした事に対する虚偽告訴について相談した。

 可能ではあるが、親なので家庭で決着を付けるのが理想と言われたが、既に任意同行までされて事情聴取も受けている。

 その事は既に周囲の噂になっており、このままでは就職も危ぶまれるとして、それでも保険の意味で損害賠償請求書を作成してもらう事になった。

 半年以内に家族と対決し、解決したら破棄、無理なら提出という契約を結び、その場合の弁護を依頼すると共に着手金を支払うという契約書だ。

 慰謝料は減額を鑑みて800万とし、着手金は100万円を支払いますと明記した。

 そして、時効最長半年間の書類預かり料と、今回の相談料、書類作成料などを合わせて、20万円を支払ったのである。

 

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