34 ending
次の店の日までここで過ごそうと思い、メシと睡眠オンリーとなり、横になれば思い返し、心安らかに眠る日々は本当に気分が良い。
軽いトレーニングで汗を掻き、水魔法の浄化で汗を洗い流し、メシを食って眠るだけの簡単な日常。
結局、店を開ける日までそうやって過ごし、上に登って開店開店。
魔物の肉のブロックと塩の樽と香辛料の袋、それと傍らには焼肉のタレ。
入り口の雨戸を外すともう集まっている村人。
配布と供給だから、厳密には店じゃない。
それぞれは肉のブロックと香辛料の袋かタレを持ち、にこにこと家に戻っていく。
もう既に、ここが消えたらやっていけない奴らばかり。
もうじき収穫の時期が来る。
小麦の収穫が終われば反対派の口も止まるし、止まらなくても別に構わない。
後は野菜の畑の係に追肥を渡して撒くように指示する。
野菜もここでは殆ど無い。
森に生える山菜が食卓にたまに出るぐらいだ。
後はありきたりの野菜のみなので、オレが外から持ち込んだ野菜の収穫を楽しみにしている奴らも多い。
だがその種をそのまま植えても、今回の収穫の野菜の味は出ない。
オレが試行錯誤で試したマナ注入の種だからだ。
大気にはマナがあり、人間にもマナがある。
だから植物にもあるのだが、その量は少ない。
なので追加で注入してみたのだ。
その結果、妙に味わいの深い野菜になったという訳だ。
そんな事は村人は知らないし、知っても魔法にしないでマナだけ出すなんて事はやれないだろう。
オレは暇な時に循環の延長線上の試行錯誤で確立しただけだから。
その循環すらもやってないようなのだ。
だから魔法が弱いんだよ。
◇
捨てられてから10年が経過したという事は、12才になったという事になる。
既に初期の捨て子連中は元空き家で暮らしていて、彼らの運命の話は既にしてある。
現在でも試しは行われていて、現在進行形なので真実だと信じ、だからこそ彼らは皆、村人を信用しない。
今では村の子達よりも力が強くなっていたり、走るのが速くなっているにも関わらず、初期の能力で切り捨てられた者達。
それらはオレの仲間として暮らしているのだ。
基礎は出来た。
なので養育は彼らが行うようになり、捨て子達は彼らに譲り渡される事になる。
そしてもう反対派は何も言えなくなっている。
当時、予定収穫量の4倍以上を叩き出し、長老自ら農法を教えて欲しいと懇願されたぐらいだ。
その時にオレに長老をやらせてくれたら教えてやると言えば、それなら仕方が無いのぅと諦めた。
そんなに権力を手放すのが惜しいかと思ったが、正体を明かすにはまだ早いと思い自重した。
15才で成人なので、成人になったら明かしてやるつもりだからだ。
それでこの村の掟は崩壊する。
今、彼らはオレが与えた武器を使い、日々研鑽を積んでいる。
いずれは下に降りる階段を作るつもりでいるので、彼らには地上で狩りをすれば良いと思っているからだ。
確かに300メートルの断崖は高いが、階段にすれば降りれない事もあるまい。
強い魔物も多いが、崖の近くはそこまでの強さは無い。
長老を含む、反対派連中がまともに動けなくなれば、オレ達がトップだ。
オレ派の連中も今では、オレ達に逆らえなくなっている。
彼らにもいずれは逆らえなくなるはずだ。
彼らの最年長はまだ7才。
それでも弟のような幼児の育成はやっている。
ヤギの乳もオレが仕入れて配っているし、離乳食になりそうな食品も配っている。
彼らは30人ぐらいに増えていて、未だに歩けない子を連れて来ている。
オレ派の連中が産んだ子達は、いずれも成長は早い。
だけど、仲間達には逆らう事を禁止させる。
元捨て子だけがオレ達の区域のリーダー的存在にすべきと思うからだ。
そうして反対派にはもう子供は滅多に産まれないようになるだろう。
そして数を減らして滅びる定めだ。
今、地上への階段を作っている。
土魔法のクレアトンネルで螺旋状の穴を掘り、同じく土魔法のクレアステップで階段を設置している。
途中途中の天井に明かりの魔石を埋め込み、魔力補給で淡い光を灯す。
崩落対策に中心部で作っているが、それでも巨大な螺旋階段トンネルになっている。
そうして最下層まで作った後は、表までトンネルを構築する。
崩落対策として、巨大な横長の岩を作り出し、そこをくり貫いて入り口とする計画だ。
そして入り口は鉄製の門扉にして、半円形の強力な柵を構築し、魔物の侵入を防ぐようにするつもりだ。
かなり階段も進んでいるが、掛かり切りにする訳にもいかないので少しずつになるが、オレが15才になる直前に完成の予定だ。
最年長が9才になった。来年までには完成させたいものだな。
既に崩落防止の為の崖硬化もかなり進んでいるし、オレ達の区域の崖には追加で地面を広げるための準備も進んでいる。
周囲の崩落した土を集め、強大魔法で一気に構築する計画なのだ。
さあ、もうひと頑張りだな。あいつらはオレと同じ捨て子なのだから、守ってやらないとな。
彼らはまだ幼いが、剣術の稽古や農法の勉強、それに読み書き計算と、やる事はいくらでもある。
後々自分達の村にする野望と言うか、希望を話してある。
見返してやろうぜ、と言うのがオレ達の合言葉。
ああ、見返してやろうな。
そうして遂に螺旋階段は完成する。
雨が酷くて工事が遅れ、15才には間に合わなかったが何とか完成だ。
最年長は10才なので、まだ狩りには早いが、螺旋階段に繋がる地下から連れて行く事にした。
知らない道に驚く子に、これは地上まで続いている階段で、地上には魔物がいる。
あの美味い肉を持った魔物だけど、今はまだ狩れないからもっと強くなれと。
そうすると彼は言った。
おじさんは捨て子じゃないのに、どうして僕達を助けてくれるの?
ああ、見せてなかったな。
なのでこう言ってやる。
オレも捨て子だよ。
13年前に捨てられたんだと。
そして変装を解く。
驚く彼……それもそのはず、長老から聞かされた偉人の姿そのものだから。
そんな姿なのに捨てられたの? 信じられまいな。
だかそれは本当だと、彼に言う。
軽く狩って担いで階段を登りながらの対話。
そして地上に出て、獲物を運んでいると、周囲が騒がしくなる。
偉人だ、偉人様だと、そんな声が連なり、長老が慌てて出て来る。
偉人様と呼ばれて、オレは13年前に捨てられたんだと答えてやる。
オレの姿を見た元の両親は、まさかという顔をしてオレのほうに向かって来る。
抱きしめようとした手を跳ね除けて、捨てた子に今更何の用だと答えてやった。
その拒絶に母親は、そうよ、死んだはずよ。崖から落ちたんですものと。
挙句の果てには死んで化け物になって復讐しに来たのかと。
なので空を飛んでやり、これで防いだのだと告げる。
錯乱した元の両親は、村の有志に連れていかれ、村長は涙ぐんでいる。
だが、勘違いするな。
オレの仲間はこちら側だ。
捨てた奴らなど関係あるか。
反対派など、オレは知らんと、オレ派の奴らに言う。
地上に続く螺旋階段を作った。
魔物の肉が欲しければ、地上に降りて狩るが良いと。
そして捨て子など止めて全員で生きろと伝える。
なんせ今から強大魔法を使うのだ。
万が一の遺言は必要だ。
◇
最年長に渡したカバンは空間拡張済みの手作り品。
中には魔物の肉が大量に入っている。
そしてオレの家の地下には、後々の為にとツボに入った通貨が各種入れてある。
外界との交流が出来たら、その通貨を役に立てろと書いた木の板を挿してある。
それらは全て最年長に伝えてあり、万が一の時はそれを使えと。
そうしてオレは強大魔法の準備に入る。
両手にドラゴンの魔石を持ち、周囲から土を更に集めていく。
減った魔力は魔石で補給しながら、ひたすらひたすら集めていく。
そして……【インペリアル・クレア・リフティング】
身体から膨大な量の魔力が流れ出す。
想像以上の放出に、魔石の追加で対抗していく。
だが、精神力も相当に侵食されている。
まだ早かったか……もっと時間を掛ければ……この野郎……
必死の想いで増築部分を構築していく。
現在の村の2倍はある広大な広場の構築。
どれぐらい時間が経ったろうか……
何とか形になって、最後の精神力を振り絞って、崩落防止の対策を……
もう……限界か……くそっ……情けない……ものだな……少し……寝れば……また……きっと……
◇
(偉人様が、偉人様が落ちた。偉人様ぁぁぁぁ……おい、階段で行くぞ……そうだ、偉人様の階段があったな。よし、迎えに行くぞ……おおおおっ)




