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さてと……今日も店を開きますか。
あれから崖をまた登る芝居で彼らに食い物を持って来た。
だが、案の定、交換する物が無い様子で、何とかならないかと相談を受けたぐらいだ。
なので、あの提案をした。
そして今、古いけど修理の終わった家に住んでいる事になっている。
ただその家の中の小部屋は地面に穴が開いていて……早い話が地下への階段を作り、穴倉までの道を通したのだ。
もちろん小部屋への入り口にはカギを作り、更には地下への入り口にも扉を作った。
オレは寝るのは地下のほうが静かで良いので、夜になったら穴倉で寝る事にしている。
放逐しなかったら、地上へと続く階段ぐらいは作ってやったのにな。
そして交換トレードに要求したのは、2才になって歩けない子供達。
あいつらはどうせ捨てる子だからと、喜んで交換に応じた。
そしてもうひとつ。
オレの元の親達に対し、捨てる子の養育を以て、交易品の支給をするという契約を結ばせた。
他にも養育がやりたいという人も居たので、増えたらそうしても良いと答えておいた。
そうしてまだある空き家もリフォームさせての交換トレードにも承諾した。
元捨て子が大きくなればそこに住まわせて、捨て子達のコミュニティを構築させる予定だ。
そのうち捨て子村人のほうが多くなった時、彼らは少数民族になる。
ただでさえ100人にも満たない村人なのだ。
第一世代なら自由恋愛をしてもギリギリ問題無いと思うし、何なら外の街から奴隷を連れて来ればいい。
オレという食料供給源があれば、この村の広さがあれば千人でも暮らせるはずだ。
食い物を求めて来る村人に対し、空き家全てとの交換トレードを申し出る。
使えるように直してくれれば、塩漬け串肉や香辛料と交換すると。
集まっていた村人は、我先にと空き家に向かっていく。
ここでは家と言っても木が少ないので、泥を焼き固めたレンガを使って作っている。
なのですぐに老朽して、レンガが崩れてしまうのだ。
だからその崩れたレンガを交換してやれば、外壁は元通りになると。
ただ、屋根に関してだけは木を使うが、木で骨組みを作って小麦の藁を重ねた藁葺きの屋根になっている。
木だけではすぐに朽ちるので、藁で耐久性を高める生活の知恵だったのだろう。
小さな森の向こう側は断崖絶壁になっていて、今も何本かの木が落ちかけになっている。
夜中にそれらの木を回収しておいたのだが、夜が明けてオレの家の前に積み重ねられた木を見た村人達は、一様に困った顔をする。
この村の木材資源には限りがある為、勝手な伐採は禁じられているのだと言う。
早速にも長老がオレに対し、困った事をしてくれたと言うが、これは断崖絶壁で落ちかけていた木を持って来たのだと話す。
当然、そんな事は信じられない事であり、そろそろオレの実力を見せる時でもあった。
積み上げてた木を倉庫に収納し、ふわりと空中に浮かんでやる。
村人達にどよめきが走る。
そしてまた木を出して、これで空き家の修理をしろと言えば、長老はどれぐらい飛べるのかと聞いてくる。
なので、長距離は無理なのだと伝えておく。
そもそも、長距離飛べるなら崖をよじ登らないと。
確かにその通りなので、それで納得したようだった。
倉庫と浮遊があれば、1分もあれば落ちかけの木ぐらいは回収出来ると言い、他の誰も回収出来ないんだから、拾った者の勝ちだろうし、
嫌なら自分でやってみろと言えばそれで終わった。
オレの家を含む、後方に立ち並ぶ家々は、将来、捨て子達が住む家になる。
養育者達にはオレがあるじであり、彼らは頼まれて育てている事を必ず教えるようにと伝えてある。
それはまるで奴隷のようだと思われたかも知れないが、どうせ一度は捨てた子供、そんな情などは今更の話だろう。
それにどのみち、逆らえば食い物が得られないのだから、素直に従うしか無い訳だ。
さてと、今日からは塩漬けじゃない肉を売る予定だ。
解体したオークの肉を細切れにしたものを、炭火の上に金網を載せたもので焼く。
香辛料を使った特性のタレ……街で焼いていたおっさんに、競合しないからという約束で譲ってもらった品だ。
漬け込んでおいた肉を焼いていく。
鼻をヒクヒクさせたやつらが近付いて来る。
試食とばかりにそいつを食わせてやると、目を輝かせて必死に咀嚼している。
初めてだ、こんな美味い肉はと賑やかだ。
それで他の奴らも試食を開始し、一様に同様な感覚を味わったようだ。
更に舌が肥えた瞬間である。
もう塩漬け肉など食えまい。
定住記念と称し、大々的に焼肉パーティを催す事にする。
試食をした連中は大興奮で、早速にも広場に焼き場をいくつも作りだす。
何枚かの焼き鉄板の供出をしてやったので、それを載せられる大きさで作りだしたのだ。
肉はたっぷりあるから、腹が膨れるまで食うといい。
それでオレの奴隷確定だ、クククッ。
たった100人にも満たない小さな村なのに、今2派に分かれている。
オレの持ち込む食品を積極的に得る者達と、それを嫌って古くからの食生活を維持する者達。
昔ながらの者達は少数派ながら存在していて、彼らは持ち込んだ塩漬け肉すら口にしようとはしない。
それが本当なのだが、生憎と老人ばかりなのだ。
彼らが食うのは年を取った家畜の肉を塩漬けにした物が精々なのだが、オレに付いた者達はそんな物が食えるかと言っている。
今も柔らかい肉を焼いて、肉汁のしたたる肉を頬張って、満足そうに咀嚼している。
そして酒もある。
この村の酒は、家畜の乳を発酵させたものを使った、妙に臭い酒しかない。
それを薄めて飲むのが精々だったので、エールを飲ませたら病み付きになったのだ。
実はエールも大量に倉庫に入れてある。
なんせ魔物の部位は相当の量になっていて、まだまだ倉庫の中で眠っているにも関わらず、金貨や銀貨も大量にある。
ただ金にして持っておくのも芸が無いので、ありとあらゆる品物を買っては倉庫に入れているのだ。
食っている奴らの横に、エールの樽を並べてやれば、ジョッキで掬って好き勝手に飲んでいる。
肉も大皿に出してやれば、早速にも焼き始める。
昼前から始まった焼肉パーティは、飲んで食ってと大賑わいになり、夕方になっても継続していた。
満腹になった酔っ払いはその辺りに寝て、目が覚めたら用足しの後でまた飲み食いする。
そんな宴会のようなパーティは、暗くなるまで続けられたのであった。
明日、片づけをしろよ。
暦には先日の騒ぎの日を、定住祭の日と記された。
来年もやると言ったからである。
オレ派の連中が広場の片づけをしていると、修復空き家の件で反対派が文句を言ってくる。
あそこは潰して畑にする予定だったのに、余計な事をしたと。
それならこの広場を畑にすればどうだと言ってやる。
こんな小さな広場と、あの空き家の一帯とは比べ物にならんと。
堆肥も使わない原始的な農法でやるから、耕作面積当たりの収穫量が少ないんだ。
オレ派の連中には既に、肥料を用いた畑作をやらせている。
逆らえば美味い物が食えないのだから、言われるままにやるしかない。
6割の畑で今、新農法が実施されていて、予想収穫量は反対派の5倍ぐらいになるはずだ。
かつて青森で協力してくれた大学生の実家が農家で、農法に一家言を持っていて、フェリーの中ではその講義がひたすらだったんだ。
別に頼んでないのに到着までやられたのは拷問に近かったが、それでも学識の収集のクチだと一応知識の中には入れていたんだけど、何が役に立つか分からないものだな。
そんなあいつもうっかりロリに染めちまって、人生おかしくさせちまったな。
それはともかく、反対派の連中に言ってやる。
オレが頼んでいる方法での畑作で、そちらの倍の収穫をあげてやると。
そいつは冷ややかに笑って、やれるものならやってみるがいいと。
ただし、3倍採れたらもう何も言わんが、2倍じゃダメだなと。
ふふん、甘いんだよ。
それくらいの事は予想済みだ。
だが、渋い顔をして、やってやるさと息巻いてみる。
それで機嫌を良くしたようで、笑いながら去っていく。
精々、優越感に浸ってろよ、収穫の日までな。
どのみちこれに負けても問題無いが、多分勝つだろう。
負けても問題無いってのは、言わずとも分かるとおり、物資のあるほうが有利だからだ。
畑作などしなくてもこちらには豊富な物資があり、それを使えば何とでもなる。
更に長い目で見れば、あちらの陣営の平均寿命からして、近い将来消え去りそうな陣営だ。
そもそも、こちらとは獲得栄養素の違う食生活なので、その差は更に顕著になるはずだ。
後に消え去る陣営などどうでも良いさ。
契約農家に対しては、従来の収穫量以上をオレに渡す代わり、店からの肉は必要に応じて渡す契約になっている。
なので1週間に1回ぐらいに、肉のブロックや香辛料を取りに来る。
塩の樽も人気の品で、オレ派の連中は既に、長老の影響下から離れている。
岩塩を作ってもらってそれの配給を受ける代わりの支配という形が、オレ派には及ばなくなっているからだ。
それでも長老は何も言えない。
言えばオレは消えて、オレ派の連中に吊し上げを食らうと判っているからだ。
既に過半数の賛同者を得た事で、長老の権力は失墜していて、ただのまとめ役でしかない。
もちろん反対派の連中の上には、今でも君臨しているのではあるが、ただの幻影のようなものだ。
先日は配給の日なので、オレ派の連中に肉のブロックと香辛料や塩の樽を配った。
なので今日はまた狩りに出かけてみようと思う。
そして帰りにまた色々仕入れて来よう。
村で色々やるようになり、また周囲の魔物が増えている。
村のあれこれをやっていたせいでしばらく狩りがやれなかった事もあり、今日はひたすら狩ってみようかと思っている。
風の新魔法、ウィンドカッターのお披露目だ。
薄い風の円盤を回転させながら撃ち出す事で、獲物の首を切り落とす。
これの操作にも苦労したが、風の円盤には気配も殺気も無い為、不意打ちが効くのだ。
オレと相対していた魔物が、後ろから飛んで来た風の円盤で即死する。
実に卑怯で便利な技だ、クククッ。
◇
魔物の単純思考の恩恵か、どいつもこいつもあっさりと、首を無くして死んでいく。
それらを倉庫に入れて、また次の群れの前に移動する。
半日であらかたの群れを壊滅させ、街に買い物に行く事になる。
うむ、やはり効率が相当に高いな。
解体誘導狩りとは比べ物にならん。
馴染みの商会に赴き、裏手の解体広場に獲物をドサドサと出すと、早速にも解体職人が解体を始める。
肉はオレ持ち、部位は商会に売って、解体費用はそこから引くという方式。
解体職人の追加を申し出て、後300匹はあると申告しておいた。
あれで控えの解体職人が追加になるだろう。
そしてオレはあんちゃんと今、お茶を飲んでいる。
最近の不足部位のあれこれの情報を聞き、ある物はその場で出し、無い物は近日中に狩る約束をする。
大抵の物は持っている為、急ぎの品はオレが居れば最優先で聞いてくる。
あんちゃんにだけはオレの真の姿を見せており、なのでお菓子も出て来る。
子供なのにとんでもない量の獲物の量なので、変装の必要性は彼も承知していて、誰にも言わないと誓約している。
本当にお人好しなあんちゃんである。
ただ、商売に関してはシビアだけど、だからこそ得意客のオレの個人情報の秘匿は、確実にしてくれるのだろう。




