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現地で組織の面々にも馴染んだ頃、ジュニアはアッチの趣味じゃないか、ってのが噂になるようになる。
オレの性別は親子にしか教えておらず、人前ではずっと男装のままであり、それで2人で仲良くしているからのようだ。
跡を継ぐまで余計な虫は困るので、オレを虫除けに使いたいらしい。
そういう事ならと承知して、相手が決まるまでの虫除けをする事にした。
女に慣れるのに後腐れの無い女、そして普段は虫除け。
ジュニアと一緒に細々とした仕事をやりつつ、家に戻ると部屋でしっぽり。
あいつもそういうのが面白いらしく、あたかもアッチの趣味のように振舞って、オレとキスするところを組織員にも見せつけたりしていた。
茶目っ気は親譲りのようだ。
楽しくも面白い生活は時の経つのを忘れるようで、気付いたらあれからもう3年が過ぎ、ジュニアも21才になっていた。
オレも遂に17才、後3年で成人になるな。
それにしても、ジュニアの相手はまだ決まらないのか。
あいつもすっかり女の身体に慣れ、テクニックも色々教えてやったから熟練になっているし。
もう何時でも問題無いとは思うが、仕事がまだ甘いのが原因かな?
そんなある日の事、社交界デビューって?
21才でとはまた遅いが、何か都合があったらしい。
ああ、遂に相手が決まるのか。
偶然を装っての出会いを演出し、そこで婚約になるんだな。
頑張れよ……と、思ったら、オレも出席しろって言うが、まあ、友人として出るか。
控え室で騒ぎになる。
なんでオレがドレスを着るんだ。
女装は嫌だと騒いでいたら、親父さんから教わったらしい。
聞いているから諦めて着なさいと言われ、仕方なく着る事になる。
やれやれ、ドレスとか動き難くて嫌いなんだけどな。
ダンスは前の生で少しやったが、男性パートしか知らんぞ。
まあいいか、壁の花で。
なんて思ってたら、エスコートはジュニアってどういう事だ。
おいおい、婚約者はどうするんだよ。
どうにも変な事になってないか。
社交界と言うか、これは内輪のパーティか。
確かに広いフロアだけど、どいつもこいつもただならぬ雰囲気の奴らばかり。
しかし、はぁぁ、コルセットがきついぜ。
タングステン針も1本しか仕込めなかったし。
武器無しは不安だぞ。
確かに足に小型拳銃は仕込んであるが、そんなの誰でも分かる事。
何かあったら没収されるに決まってる。
きついコルセットの中に何とかセラミックの板は押し込んだけど、それが圧迫して痛いぞ。
脱いだら跡になってるんだろうな。
ハート型の板とか、どんな洒落なんだよと当時は思ったが、ハート型の跡とか恥ずかしいぞ。
でもまぁ、ハート型を逆にして身に付けないと、四角の板じゃ乳房に当たるからだろうけど。
心臓は左とか言うけど、大抵狙うのは真ん中だ。
肋骨の破片で心臓を傷だらけにして殺すのが、一番確実に死ぬ方法だしな。
手術しようにもどうしようもないから。
エスコートはされたものの、婚約者に悪いから、壁の花になって気配を殺す。
もしかして、ジュニアのガードのつもりなのかも知れないしな。
心鎮めて神経を研ぎ澄ます。
あれ、誰かを探しているようだけど、まだ婚約者は来ないのか。
おっかしいな……親父さんも一緒になって探しているぞ。
目の前に来たので気配を出すと、うおっ、とか驚かれた。
誰を探しているのかと聞くと、何をしている、早く来いってどういう事だよ。
えええ……どうなっている……これは……どういう意味……?
◇
ジュニアの婚約者として発表?
話が違うと親父さんに詰め寄る。
虫除けじゃなかったのかと。
どうやら地位目当ての求婚者が多く、それへのけん制の意味での虫除けだったんだけど、ジュニアがオレが良いと言ったってよ。
あのなぁ、オレは出向と言うか、戸籍捨ててんだぞ。
そんな流民みたいなの、立場ってものがあるだろ。
こんな新参者の下賎な女とか、格式に傷が付くだろ。
散々言うんだけど、聞く耳持たないんだよな、これが。
なら、暫定って事にして、相応しい女が見つかったら差し替えろと言って、何とか納得させた。
オレはいわゆる、あてがい女で良いんだよ。
次期ボスの嫁とか、面倒で仕方が無いぞ。
もっと身軽に生きたいのに、そんなのになっちまったら身動きが取れないだろ。
披露が終わってドレスを脱いで、また元のように男装する。
ああ、肩凝った。
あんなのもう着たくないぞ。
元の姿になって表に出ると、さっきの面々が勢揃い。
皆一様に驚いているようだけど、何故か好印象。
どうやら満場一致で賛成になったとか。
よくよく理由を聞いてみると、墓穴だったと知った。
発表して喜ぶと思えば、話が違うと詰め寄ったり、自分をひたすら卑下して取り消せと騒いだり。
最初は新参者だから地位が目当てだと思っていたらしく、そんな態度が新鮮だったとか。
くそぅぅ、必死で逃れようとしたのが拙かったのか。
後はいかにボスの妻でも、いざと言う時には戦えないと困る。
その点、オレはジュニアよりも腕が上ぐらいなのが良いとか。
普段がそれならドレスに無駄に金をかけたり、宝飾品も欲しがらないだろうし、質素なのが良いとか。
もう、どうにでもしてくれ。
泥沼の墓穴で疲れたよ。
◇
アジトに戻ったら、皆さんに性別がバレた訳で、見えないとか、今でも信じられんとか、姐さんとか……最後の奴、取り消せ!
やれやれ、何の因果でこんな事になっちまったんだ。
そりゃジュニアとは仲が良いし、アッチも別に嫌とは思わんよ。
確かに精神は男だけど、そこまで拘るつもりは無いしな。
男だった時も行為は奉仕の意味合いが強かったし、女になった今でもそんな感じだし。
だからこそ、虫除けと女慣れのつもりでいたってのに、騙されたなぁ。
それにしても、おやっさんって、こんな組織とも付き合いがあるんだな。
それはともかく、どのみちまだ婚約だし、決定事項って訳じゃない。
そのうちきっとジュニアが誰かに一目惚れして、相手も一目惚れして、相思相愛になって婚約解消に、なるかも知れないと。
空しいけど、そうなる事を祈っておこうか。
そうなると少しでも好感度を下げないとな。
よしよし、おねだりだ。
欲しい物があるから買ってくれと、親父さんにおねだりする。
態度が急変したから、思い直せ、思い直せ。
そう思っていたら、二つ返事で買ってくれたぞ。
おっかしいな、態度が急変して、好感度を落とす作戦が……ううむ、ならば次だ。
これなら高いからきっと好感度が下がるぞと思ったのに、どうして二つ返事で買うんだよ。
かくして、オレの部屋には狙撃銃……M24と、ピアノが置かれるようになった。
二つ返事でもきっと、好感度は下がっているに違いない。
そうと決まれば、弾いてみるか、久しぶりに。
気持ち良く弾いていたら、妙に部屋の前の廊下に気配が増えていく。
お、煩いとか言いに来たんだろうがそうはいくか。
そこで突っぱねて好感度を落とす作戦だ。
さあ、止まらないぞ、早く言いに来いと、そう思ったのによ、疲れるまで弾いたのに、誰も文句を言いに来ないんだ。
ああ、我慢しているんだな。
これで反対者が増えるに違いない。
そう思ってたのに、メシの時に見かけによらんとか、相応しいとか、まさかこれも……墓穴……なのか?
うがぁぁぁぁぁ。
◇
数日後、申込書が渡される。
組織の関連の会社が主催の、ピアノコンクールに出ろって言われてもな。
組織からも以前から出てたけど、箸にも棒にもかからないらしい。
そんな中でオレの演奏を聞いて、今まで義理で出ては選考外になっていた奴が辞退したらしい。
仕方が無いな。
オレも下手の横好きだから同じ結果になるとは思うけど、ピアノを弾くのは好きだしな。
潜伏にも似た出だしと、殲滅にも似た山場。
時には静かに時には激しく、クライマックスはバーサーカー。
そして全てを殲滅した後にも似たフィナーレ。
うん、最高だな、クククッ。
曲目は指定と自由があるのか。
指定はコンクールの審査に有効だけど、自由は特典の無い対象って感じで、参加する事に意義があるってやつか。
つまり、今まで自由のほうに出てたんだな。
得意曲ならそれなりに弾けるらしいし。
で、指定は……と。
こりゃまた激しい曲だな。
いいねぇ、大量殲滅を彷彿とさせる、あのクライマックスが良いんだよな。
よーし、そうと決まれば楽譜を確保だ、確保。
そうしてコンクールの日まで、仕事の合間を縫って演奏しまくったのでした。




