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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏2
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 現地で組織の面々にも馴染んだ頃、ジュニアはアッチの趣味じゃないか、ってのが噂になるようになる。

 オレの性別は親子にしか教えておらず、人前ではずっと男装のままであり、それで2人で仲良くしているからのようだ。

 跡を継ぐまで余計な虫は困るので、オレを虫除けに使いたいらしい。

 そういう事ならと承知して、相手が決まるまでの虫除けをする事にした。


 女に慣れるのに後腐れの無い女、そして普段は虫除け。


 ジュニアと一緒に細々とした仕事をやりつつ、家に戻ると部屋でしっぽり。

 あいつもそういうのが面白いらしく、あたかもアッチの趣味のように振舞って、オレとキスするところを組織員にも見せつけたりしていた。


 茶目っ気は親譲りのようだ。


 楽しくも面白い生活は時の経つのを忘れるようで、気付いたらあれからもう3年が過ぎ、ジュニアも21才になっていた。

 オレも遂に17才、後3年で成人になるな。

 それにしても、ジュニアの相手はまだ決まらないのか。

 あいつもすっかり女の身体に慣れ、テクニックも色々教えてやったから熟練になっているし。

 もう何時でも問題無いとは思うが、仕事がまだ甘いのが原因かな?


 そんなある日の事、社交界デビューって?

 21才でとはまた遅いが、何か都合があったらしい。


 ああ、遂に相手が決まるのか。


 偶然を装っての出会いを演出し、そこで婚約になるんだな。

 頑張れよ……と、思ったら、オレも出席しろって言うが、まあ、友人として出るか。


 控え室で騒ぎになる。


 なんでオレがドレスを着るんだ。

 女装は嫌だと騒いでいたら、親父さんから教わったらしい。

 聞いているから諦めて着なさいと言われ、仕方なく着る事になる。

 やれやれ、ドレスとか動き難くて嫌いなんだけどな。

 ダンスは前の生で少しやったが、男性パートしか知らんぞ。


 まあいいか、壁の花で。


 なんて思ってたら、エスコートはジュニアってどういう事だ。

 おいおい、婚約者はどうするんだよ。


 どうにも変な事になってないか。


 社交界と言うか、これは内輪のパーティか。

 確かに広いフロアだけど、どいつもこいつもただならぬ雰囲気の奴らばかり。

 しかし、はぁぁ、コルセットがきついぜ。

 タングステン針も1本しか仕込めなかったし。


 武器無しは不安だぞ。 


 確かに足に小型拳銃は仕込んであるが、そんなの誰でも分かる事。

 何かあったら没収されるに決まってる。

 きついコルセットの中に何とかセラミックの板は押し込んだけど、それが圧迫して痛いぞ。


 脱いだら跡になってるんだろうな。


 ハート型の板とか、どんな洒落なんだよと当時は思ったが、ハート型の跡とか恥ずかしいぞ。

 でもまぁ、ハート型を逆にして身に付けないと、四角の板じゃ乳房に当たるからだろうけど。

 心臓は左とか言うけど、大抵狙うのは真ん中だ。

 肋骨の破片で心臓を傷だらけにして殺すのが、一番確実に死ぬ方法だしな。


 手術しようにもどうしようもないから。


 エスコートはされたものの、婚約者に悪いから、壁の花になって気配を殺す。

 もしかして、ジュニアのガードのつもりなのかも知れないしな。


 心鎮めて神経を研ぎ澄ます。


 あれ、誰かを探しているようだけど、まだ婚約者は来ないのか。

 おっかしいな……親父さんも一緒になって探しているぞ。

 目の前に来たので気配を出すと、うおっ、とか驚かれた。

 誰を探しているのかと聞くと、何をしている、早く来いってどういう事だよ。


 えええ……どうなっている……これは……どういう意味……?


 ◇


 ジュニアの婚約者として発表?

 話が違うと親父さんに詰め寄る。

 虫除けじゃなかったのかと。


 どうやら地位目当ての求婚者が多く、それへのけん制の意味での虫除けだったんだけど、ジュニアがオレが良いと言ったってよ。

 あのなぁ、オレは出向と言うか、戸籍捨ててんだぞ。

 そんな流民みたいなの、立場ってものがあるだろ。

 こんな新参者の下賎な女とか、格式に傷が付くだろ。

 散々言うんだけど、聞く耳持たないんだよな、これが。

 なら、暫定って事にして、相応しい女が見つかったら差し替えろと言って、何とか納得させた。


 オレはいわゆる、あてがい女で良いんだよ。

 次期ボスの嫁とか、面倒で仕方が無いぞ。

 もっと身軽に生きたいのに、そんなのになっちまったら身動きが取れないだろ。


 披露が終わってドレスを脱いで、また元のように男装する。


 ああ、肩凝った。

 あんなのもう着たくないぞ。

 元の姿になって表に出ると、さっきの面々が勢揃い。

 皆一様に驚いているようだけど、何故か好印象。


 どうやら満場一致で賛成になったとか。


 よくよく理由を聞いてみると、墓穴だったと知った。

 発表して喜ぶと思えば、話が違うと詰め寄ったり、自分をひたすら卑下して取り消せと騒いだり。

 最初は新参者だから地位が目当てだと思っていたらしく、そんな態度が新鮮だったとか。


 くそぅぅ、必死で逃れようとしたのが拙かったのか。


 後はいかにボスの妻でも、いざと言う時には戦えないと困る。

 その点、オレはジュニアよりも腕が上ぐらいなのが良いとか。

 普段がそれならドレスに無駄に金をかけたり、宝飾品も欲しがらないだろうし、質素なのが良いとか。


 もう、どうにでもしてくれ。

 泥沼の墓穴で疲れたよ。


 ◇


 アジトに戻ったら、皆さんに性別がバレた訳で、見えないとか、今でも信じられんとか、姐さんとか……最後の奴、取り消せ!

 やれやれ、何の因果でこんな事になっちまったんだ。

 そりゃジュニアとは仲が良いし、アッチも別に嫌とは思わんよ。

 確かに精神は男だけど、そこまで拘るつもりは無いしな。

 男だった時も行為は奉仕の意味合いが強かったし、女になった今でもそんな感じだし。

 だからこそ、虫除けと女慣れのつもりでいたってのに、騙されたなぁ。


 それにしても、おやっさんって、こんな組織とも付き合いがあるんだな。

 それはともかく、どのみちまだ婚約だし、決定事項って訳じゃない。

 そのうちきっとジュニアが誰かに一目惚れして、相手も一目惚れして、相思相愛になって婚約解消に、なるかも知れないと。


 空しいけど、そうなる事を祈っておこうか。


 そうなると少しでも好感度を下げないとな。

 よしよし、おねだりだ。

 欲しい物があるから買ってくれと、親父さんにおねだりする。

 態度が急変したから、思い直せ、思い直せ。


 そう思っていたら、二つ返事で買ってくれたぞ。


 おっかしいな、態度が急変して、好感度を落とす作戦が……ううむ、ならば次だ。

 これなら高いからきっと好感度が下がるぞと思ったのに、どうして二つ返事で買うんだよ。

 かくして、オレの部屋には狙撃銃……M24と、ピアノが置かれるようになった。

 二つ返事でもきっと、好感度は下がっているに違いない。


 そうと決まれば、弾いてみるか、久しぶりに。


 気持ち良く弾いていたら、妙に部屋の前の廊下に気配が増えていく。

 お、煩いとか言いに来たんだろうがそうはいくか。

 そこで突っぱねて好感度を落とす作戦だ。

 さあ、止まらないぞ、早く言いに来いと、そう思ったのによ、疲れるまで弾いたのに、誰も文句を言いに来ないんだ。


 ああ、我慢しているんだな。


 これで反対者が増えるに違いない。

 そう思ってたのに、メシの時に見かけによらんとか、相応しいとか、まさかこれも……墓穴……なのか?


 うがぁぁぁぁぁ。


 ◇


 数日後、申込書が渡される。


 組織の関連の会社が主催の、ピアノコンクールに出ろって言われてもな。

 組織からも以前から出てたけど、箸にも棒にもかからないらしい。

 そんな中でオレの演奏を聞いて、今まで義理で出ては選考外になっていた奴が辞退したらしい。


 仕方が無いな。


 オレも下手の横好きだから同じ結果になるとは思うけど、ピアノを弾くのは好きだしな。

 潜伏にも似た出だしと、殲滅にも似た山場。

 時には静かに時には激しく、クライマックスはバーサーカー。

 そして全てを殲滅した後にも似たフィナーレ。


 うん、最高だな、クククッ。


 曲目は指定と自由があるのか。

 指定はコンクールの審査に有効だけど、自由は特典の無い対象って感じで、参加する事に意義があるってやつか。

 つまり、今まで自由のほうに出てたんだな。

 得意曲ならそれなりに弾けるらしいし。


 で、指定は……と。


 こりゃまた激しい曲だな。

 いいねぇ、大量殲滅を彷彿とさせる、あのクライマックスが良いんだよな。

 よーし、そうと決まれば楽譜を確保だ、確保。


 そうしてコンクールの日まで、仕事の合間を縫って演奏しまくったのでした。

 

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