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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏2
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19

  

 男の格好のせいか、女の家出っぽくないので多少は誤魔化せている様子。

 だがこの夜をどうするかだが、下手に宿に泊まる訳にはいかん。

 子供では泊まれないのが日本の宿、となると公園とかで一夜を明かすしか無いだろう。

 緊急対策に銀行を使わなくて正解だな。


 こんな時に銀行など、止められるのがオチだ。


 浮浪者の爺さんを発見し、泊めてくれとお願いする。

 家出かと聞かれてそうだと答えるが、親が心配しているから帰れと言うが、その親に反対されて家を出た事を話す。

 モデルにと誘われて仮契約、親同伴での本契約に両親が反対。

 説得しても頑固なままで、子供服のモデルは今しかやれないのに、仕事はまだ早いの一点張りなのだと。

 子供は仕事をしなくても良いと爺さんは言うが、それなら子供服のモデルは誰がやるのかと逆に聞いてみる。

 しなくても良いだけで、やりたいならやってもいいはずだと。


 子供は雇ったら罪になるんだよと、知った風に諭してくるが、無知だと言っているのも同じだ。

 児童就労はモデルや芸能人などは、親の承諾があれば埒外になっていて、だからこその承諾願いだったのだと話す。

 どうやら自分の学識が及んでない事を悟ったか、説得は無駄だと思ったらしく、一晩だけなら構わんが、明日には家に帰れと言われた。

 ダンボールの家は質素だが、片隅で丸くなって眠る分には問題無い。

 こっちを男と思っているのか、その手の欲は感じなかったので素直に眠ったが、何かしたら殺していたかもしれん。

 浮浪者を殺めても発覚に時間が掛かるだろうし、下手人を探すのも大変だろう。

 行きずりとなると見当が付かないし、かと言って怨恨にもなりそうにない相手だ。

 確かに必要なら殺めるが、今それをするのは緊急避難のみ。


 おや、残念だね。


 早朝に何も起こらずに目覚めたが、爺さんはまだ眠ったままだ。

 老人は朝が早いと言うが、まだ起きないようなのでとっとと出よう。

 手持ちは厳しいが、3000円を置いてやるからな。

 子供の素泊まりだからそれぐらいで良いだろう。


 さて、何処に行くべきか。


 残金2万じゃ何もやれん。

 念の為、毛染スプレーを購入しておく。

 黒から金は難しいが、短時間なら何とかなるはず。

 後は伊達メガネと帽子だな。

 それと、上着の安いのを買う。

 やれやれ、5000円が消えちまったな。


 何とかしないと本当に拙いぞ。


 ダメ元で芸能事務所に赴き、両親が反対した事を話す。

 荷物は一応、コインロッカーの中だ。

 家出と思われるのは拙い。

 それじゃあ無理だねと言われるが、何とかならないかと聞いてみる。

 親が反対したら雇えないのだと、残念そうに言う。

 内緒で臨時でアルバイトみたいにやれないかと聞いてみるが、そこまで裏に染まってないのか、そういうのはやれないんだと言われた。


 やれやれ、使えんな。


 ちょいとでも裏に染まっていれば、ツラ隠してのモデルならそうそうバレはしないと、乗り気になる奴もいるはずだがな。

 どうやら声を掛けられたものの、健全っぽい会社だったようで、運が無かったと言うべきだろう。

 もう少し裏っぽい会社とか、今更探す訳にもいかないし、それならそれで別の方法を模索してみるか。

 果たして子のほうから親を切れるかって話だが、この年齢では恐らく無理だろう。

 いくら聞き分けの無い親だとしても、いくら理不尽に感じても、一桁な児童は本当に社会的地位が無いものなのだから。


 やはり裏に潜るしかないんだろうなと思うが、それでも念の為にと、児童相談所で聞いてみる。


 モデルになりたいけど両親が反対するので、親との縁を切って仕事がしたいと言うが、それは無理だと言われる。

 やはり日本の法律は窮屈だな。

 なら仕方無いですね、と言うと話は終わりと思ったのか、席を立とうとする。

 表の社会が拒絶するなら、裏の社会のお世話になりますと言って走って出る。


 さあ大変だ。


 またまた追いかけて来るぞ。

 必死に逃げるが、妙に足が速い。

 くそっ、親のようにはいかないか。

 余計な事を言うんじゃなかったな。


 なんとか公園まで逃げ込み、相対する事になる。

 掴みかかろうとする手を跳ね除けて、横に回って…うっ、アゴに手が届かん。

 仕方が無いので膝を横から蹴って機動力を落とす。

 ふふん、その足では追いかけられまい。

 まだ武器を使わないだけありがたく思え。


 何とか逃げ切ったが、息がもう…はぁはぁはぁ…


 あいつ、普段からその手の奴らの専門員か何かかよ。

 妙に心得のある動きをしやがって。

 前の人生の経験が無かったらヤバかったぞ。

 物陰で金髪に染めて帽子とメガネ。

 着ていた上着を脱いで裏返す。

 リバーシブルにしておいて良かったぜ。


 コインロッカーに荷物を取りに行き、その足で列車の切符を買う。

 誰何すいかに対しては流暢なクイーンで翻弄し、親は隣の県に居ると答えてみる。

 日本の教育の弊害か、まともに答える奴が居ない。

 あたかも日本語が喋れない風を装い、クイーンのみで相対する。

 カタコトの相手に対し、早く帰らないといけないと訴えてみる。

 相手も困った様子で、カタコトで理解しようとしていた結果、何とか意思疎通が可能となり、そう言う事ならと解放される。

 やっとの事で列車に乗り込めたので、後は隣の県までのんびりするだけだ。

 何駅か過ぎた頃、数人の外国人が乗り込んで来たが、そいつらの言語が何故かクイーンだ。


 珍しいな、この国でクイーンとか。


 興味から聞き耳を立てるが、どうにもかつての同業者な雰囲気。

 当たり障りのない会話のようだが、符丁込みの話なので、どうにもヤバい話が透けて見えちまう。

 何かのトラブルで来日したものの、日程がずれて手待ちになって云々……暇なのか?


 あんまり真剣に聞いていたら、盗み聞きがバレちまった。


 お前、オレ達の話を聞いていたなとか言われ、この国の言語事情で幼子に言う事かと思ったが、よく考えたら外人の振りしていたんだった。

 やれやれ失敗したなとは思ったが、寝た振りして欠伸の振りして、おじさん何の用? ってやってみた。

 それでとぼけられたと思ったんだけど、つい符丁込みの内容に対する反応を見せちまって、理解出来ないはずの対話の中身が本当に漏れていたと気付いたそいつらの雰囲気が急に変わっちまうとか、いくら懐かしいからと言っても、やっちまった感が半端無い。


 何してんだよ、英国特殊部隊、こんなところで。


 ◇


 次の駅で同行する事になり、共に列車を降りる。

 日本人なのはバレたが、女だと言うと驚かれた。

 符丁の件に困ったが、転生などというファンタジーを話す訳にはいかん。

 夜のランニングで怪しい人達を見て、隠れていたらそういう風な事を話してたと言ってみた。

 どうにもバレバレだが、一応話としては筋が通っている。

 もっとも、夜中に児童が外出する事自体があり得ない事なんだけど。


 なのでどうにも信じてない様子。


 まあオレでもそんな話は信じないわな。

 そこでこの際とばかりに、混ぜてくれないかと聞いてみる。

 日本の法律は窮屈で、親に反対されたらモデルもやれない。

 風聞は悪いが拉致ってくれたら、組織として表向きはモデルって仕事をやっても良いと。

 とんでもない申し出にさすがに困っている様子だったが、上司に相談してみるらしい。

 確か組織にそんな奴も居たから、そいつを真似ての提案だが、年齢がやたら低い以外は問題無いはずなんだがな。


 それにしても同行は良いが、さすがにこの年齢の女は殺さないか? まあ、日本だしな。


 成人女性なら拉致って始末もあり得るのが特殊部隊の掟だけど、生憎とここは日本だからその可能性は低い。

 それでもセーフハウスに連れて行くようだが、そんな知られては困る場所に連れて行くとか、まさか殺すつもりなのか。

 処理は反対と言ってみると、さすがにそんな事はしないよと。

 それでも話の内容によってはそうなる可能性もある訳だし、用心するに越した事は無い。

 串はまだ5本ありはするが、プロ相手にこの体格でどこまで通用するか判らん。


 同じ体格なら負けはしないんだがな。


 適度な緊張と身体はリラックス……視野は広く保ち、神経は研ぎ澄まして僅かな気配の変化にも対応出来るように待機。

 懐かしいな、本当に…心が静かになる…2人の気配を鋭敏に感じるようになり、当時の雰囲気が戻って来る。


 おや、そう緊張するなよ、クククッ。


 臨戦態勢を知られたのか、2人が妙に緊張している。

 武器は当然あるんだろうな。

 単なる処理のつもりなら、何人かは道連れにしてやるから覚悟しろよ。


 気配の変動を知り、膝裏を蹴って後方に退避。

 後ろに倒れた男の眼前に、抜いた串を置いて懐にやった手を動かすなと。

 隣の男にも動くなと告げて、動くとこいつは失明するぞと。

 拳銃かと思えばケータイだったが、人騒がせな事をするなよな。

 やれやれ、武器がバレちまったか。


 串を戻して解放する。


 ああ、そんなにしょげるなよ。

 子供に制圧されたと思ってやけにしょげてるが、実戦経験の差だと言えないのが辛いな。

 どうやらこいつら、下っ端もいいとこだ。


 セーフハウスに連れ込まれ、上司の…女かよ。

 まずは日本語で挨拶を受けるが、クイーンで構わないと告げる。

 日本での活動は黙秘するから、素直に解放する気は無いかと聞いてみる。

 うちは貿易会社の調査員で、あいつらは新米だから変な反応をしただけだ…か。

 そう言う事にしておけという忠告なら、それを受け取るのも良いが、この分じゃ雇ってはもらえなさそうだな。


 もっと裏の部隊じゃないと無理か。


 ダメ元で紹介してくれないかと尋ねてみるが、貿易会社の調査員だからそんなのは無理だと言う。

 さすがにこいつの制圧は厳しそうだな。

 物腰からして2人よりは強そうだ。

 それでも知れている強さだけど、せめて中学ぐらいの体格があれば可能性も高くなるんだがな。

 握り込んだ串はバレてないようだが、なんせリーチが足りん。

 首に打ち込むにはそれなりの背丈とリーチが必要だ。

 体勢を崩そうにも正面ではちょっと難しい。


 着いて来いと後ろを付いて行くなら何とでもやれるが、正面となるとちょっとな。

 これからどうなるのかと聞いてみると、この国の司法に連れて行くとか言うが、家出中だから困るんだよ。

 やるだけやって逃げるしかなさそうだなと、覚悟を決めて臨戦態勢。


 察知したのか軽い緊張。


 右手には串を握り込み、左手には毛染スプレーだ。

 掴みかかる手を掻い潜り、太ももに串を叩き込む。

 呻いた隙に膝裏を蹴り、頭が下がったところに目潰しスプレー。

 串のお代わりを受けて男達を制圧。

 2人の男は下腹部に串を刺されて悶絶中。

 女に追加の串で耳から根元までグサリ。


 はい、さようならだ。


 悶絶している男達にも同様に、耳から串でご臨終。

 ふうっ、殺人童貞捨てたっと。


 全員の串を回収してこいつらの服で拭うが、ルミノール反応が出るから処分しないとな。

 現場にあったティッシュで串をまとめて包んでひとまずポケットに入れておく。

 手袋をして重要そうな資料を纏めてリュックに詰めて、財布から金を抜いてそのままセーフハウスから立ち去る。


 しばらく移動した先の一般家屋。


 中から笑い声が聞こえ、勝手口は無用心にもカギが開いて無人の状態。

 どうやらテレビに夢中になって、馬鹿笑いしながら何かを食べている存在が居る。

 平和な日本の大衆の一員たる主婦は、バラエティ番組を見ながらお菓子を食べている様子。

 そろりと潜り込み、テーブルの上に盗ってきた書類を無造作に置き、串を包んだティッシュをゴミ箱に入れる。

 後はちょっと物色すると出て来る竹の串に、お代わり確保とばかりに目薬の容器にセットして、残りは予備にとリュックに入れる。 


 後はもう逃げるだけだ。


 留守に潜り込むなど、それだけで犯罪行為になっちまう。

 だからこういうトラップを仕込むには、有人のほうが正解だ。

 見つからなければ留守と同じだし、見つかっても素人なら言い含める事も可能だし、脅しという非常手段も使えるからな。

 

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