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やっと手に入れた男の服。
これからこいつを愛用してやろうな。
そうすれば親の気も変わるかも知れん。
それにしても、さすがに小2じゃ金にも余裕が無い。
確かに小学に上がってお年玉なるものをくれるようになったが、初めてもらった時に親が預かるとかのたまったのだ。
これぐらい自分で管理すると断ったが、あれを渡すと消えてしまうという話を知っている。
前回の人生でそれを実感したのだ。
将来の為とか言うが、将来は将来に稼げば良いだけの事。
金の無い時期に取り上げようとするんじゃねぇよ。
そんな訳でオレの机の引き出しの中には、親戚連中と親からのお年玉の分と、毎月の小遣いの金が納まっている。
さて、レシートを参考に収支決算やっとくか。
出納帳につらつらと書き込んで、マイナス470円か、これぐらいなら余裕だな。
小1のお年玉合計が7000円ぐらいで、小2になって8000円ぐらい。
親戚連中も見栄があるのか、1人出したら次々と出したものだ。
毎月の小遣いが小1で500円、今年は600円。
なので今現在、2万余になっている。
小遣いをもらっても一切使わないから、貯まる一方なんだけどな。
普段、財布には端数の小銭を入れているが、家への緊急連絡の必要も無いので電話代すら掛からない。
以前のバス代に500円使ったぐらいのものか。
あの頃は小遣いと言っても200円とかそれぐらいで、小学に上がる頃には殆ど無かったな。
あのバス代が意外と響いたのと、運動用の靴を買ったのもきつかった。
女の子向けの靴なんかで運動出来るかよ。
その靴は今でも引き出しの一番下に入れたままになっている。
もう履けないが、下が出来たら使わせようと思っているんだが、ヤったのかよ、2人共。
せっかく不在にしてやったんだから、ちゃんとヤったんだろうな。
まさか1人で終わりにするつもりでピアノとか買ったんじゃ無いだろうな。
養育費が少ないからとか、冗談じゃないぞ。
絶対に婿とか取らんからな。
男の意識で男に抱かれるとか、気分は同性愛だぞ。
かと言って女もダメだ。
気分は良くても見た目が百合だ。
そんなアブノーマルは目立つからパスだ。
まあそれが商売ならいくらでも抱かれてやるが、結婚とかはごめんだな。
男の子向けの服を得た事で、図書館へはその服を着て行くようになる。
確かに学識はかなりあるが、未来情報みたいなものなので、刷り合わせが必要になる。
現在の学識に重ね合わせないと、予知とか言われるとヤバいのなんのって。
そんな訳で暇さえあれば図書館通いになっている。
もちろん、歩くか走るかであるが。
そろそろ自転車に乗りたいが、まだ早いと言われるばかり。
自転車も中々高いので、今の全財産では少し厳しいのだ。
さすがに年齢一桁ではアッチの商売もやれん。
初経もまだなのにそんなのやれるかよ。
もっとも、特殊な趣味の奴ら相手なら可能かも知れんが、ちゃんと決まりを守ってくれる保証が無い。
弟の趣味を知って少し調べた時に判ったんだけど、イエス・ロリータ・ノー・タッチって決まりがあるらしいな。
ロリコン達の決まりとか、本来知った事では無いんだけど、ちゃんと守ってくれるなら問題は無い。
だけど以前のような変なおっさんの事もあり、自主規制じゃ保証にはならん。
そう毎回保険を使う訳にもいかんしな。
それでもこのままと言うのも何なので、少し探してみようかと思った。
次の休みになって朝からバスに乗るが、今の手持ちの金は3000円余り。
ピアノの稽古は昼からなので、午前中に少し買い物をするからと親に言っての事だ。
バスはピアノ教室のバス停を通り過ぎ、繁華街へと走っていく。
バス停で降りて雰囲気の怪しい場所を探しながら歩く。
今日も保険は持っている。
ちゃんと手を保護する為に、持ち手のところに緩衝材を付けた特製だ。
と言っても単に、空になった目薬の容器に挿してあるだけだ。
容器を握って刺した後は、引き抜けば串だけが残るって寸法なのだ。
そいつを5本、服に挿している。
目が疲れるのか、よく親が目薬を使うのだ。
そして鞘はボールペンの本体だ。
なので引き出しには中身が5本、入れたままになっている。
当時はもっとプロ仕様みたいな武器だったが、今ではこんな玩具みたいなのしか手に入らん。
だが取り回しは覚えているぞ。
人体の急所に付いてもな。
竹串は当時でも有効な武器だった。
エックス線の検査もクリアする優秀な刺殺武器として、かつてのオレの暗器の部類に入っていたものだ。
まあ、焼き鳥として持ち込めば問題無かったし。
食った後は武器になるという、とてもコスパの良い食品として有効利用していたが。
それはともかく、怪しい場所は判ったが、どうにも取っ掛かりに困る。
いきなり乗り込むとか、下策にも程がある。
こういうものはやはり、勧誘されての誘致が望ましいのだが、居ないのか、スカウトは。
こんなツラじゃ無理かも知れんが、特殊な趣味の奴らに顔は要らんだろう。
そう思ってうろうろしていると、獲物が網に…違うか。
呼び止められて話を聞く。
モデルか…つまり、特殊な趣味のモデルだな。
詳しい話は事務所でと、ますますその可能性が高くなる。
親の事を聞かれるが、親とか知られないほうが良いんじゃないのか。
今日は1人で来たと言うと、契約の時には親にもと、どうにも話が変なほうに向かっているような。
事務所に行くのだが、どう見ても裏の組織っぽくない。
おっかしいな。
よくよく話を聞いてみると、服飾モデルって、おいおい。
特殊な趣味のモデルじゃないのかよ。
女だと言うとかなり驚かれたが、そんなに男顔に見えたのか。
それなら男女どちらの服もやれそうだと、好都合とまで言われてしまう。
仮契約って事になり、次は親を連れて来て欲しいと言われるんだが、親に内緒の金稼ぎの目的がぁぁぁ…
当てが外れたが、一応金にはなるから良いか。
昼飯をザックリ食って、ピアノ教室に行く。
講師が妙に驚いていたが、服のせいだった。
そしてレッスンの時、他の奴らが妙に騒がしくて参ったな。
オレの男装がさまになっているとかってよ、男装のつもりじゃねぇよ。
動き易いから着ているだけだってのに。
目立つのが嫌ならその格好で出てみないかと、講師もしつこいな。
だがモデルをやるなら教室もそろそろ終わりにすべきだし、それも良いかも知れん。
2つの掛け持ちなど、忙しいだけだ。
あくまでも趣味だから、仕事を得たらそっちを優先すべき事。
だが、教室を止めてもピアノは続けるさ。
弾き終わった後の気だるさが、とても心地良いのだから。
◇
家に帰ってモデルの件を話すと大反対。
仮契約をしたから、明日にでも一緒に来てくれと言うが、そんなの止めなさいの一言。
さすがにこの年で独り立ちは無理だし、と言って他人の世話になる訳にもいかん。
どうしてもダメなのかと聞くが、絶対にダメだと頑固にも程がある。
それなら父親も交えて話をするかと、帰宅を待って話を再開。
父親も反対しやがった。
つまり、1生、生活の面倒を見てくれるのかと聞いてやる。
死ぬまで働かなくても良いんだねと。
仕事はまだ早いと言われるが、大人になってからの契約とかやれる訳が無いだろう。
子供服のモデルに大人とか、頭がおかしいと言われるだけだ。
そんな事をつらつらと話すが、両親共に頑固だね。
やはりかつての親なのだと実感した。
似た世界だと思うようになっていたが、これは間違いなく元の世界なのだと。
今ならまだ間に合うと言ってやるが、それでもダメだの一点張り。
何がいけないのかと聞いてみるが、子供は働く必要が無いと言うばかり。
自分の人生なのに強制するんだねと、それが最後の忠告だったが聞く耳持たなかったので諦めた。
どうしても許さないなら覚悟があると、両親に言って物別れとなる。
これでも一応は譲歩もしたんだけど、もう限界だぞ。
部屋の引き出しから金を全て出し、荷物纏めて家を出る。
走ればそれなりに速いんだぞ。
追いかけてくるが必死に逃げていく。
このまま家を出ても、恐らくモデルにはなれない。
ならば裏の仕事に従事して、成人になるのを待つしかない。
そうして生きて行けば良いだけの事。
熟練だったはずの家族芝居もこれで終わりか。
巧くいかないものだな。




