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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏2
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 アクシデントで始めたピアノだが、やり始めると夢中になってしまう。

 習熟の必要のあるものに対しては、オレはそうなっちまうのだ。

 家でも指を広げる練習や、床の間の段をピアノに見立て、指使いの練習に明け暮れたりしていた。

 ピアノが欲しいかと聞かれたが、習いに行けばあるから良いと断った。

 プロならまだしも、素人の下手糞なピアノとか、近所迷惑だろ。

 ロンドン郊外だからまだ良かったんだ。


 市街地なら絶対、苦情が来てるって。


 確かにピアノも意外と体力を使うが、それならとなるべく歩いて移動する事にした。

 自分で買えるからと金をせしめて、買わずに歩いての習い事。

 バス代とか些少だけど、金が目的じゃないからな。

 あくまでも体力作りの一環だ。

 そのうちに走るようになり、公園を突っ切る時にお腹の調子がおかしくなった。

 公衆トイレで用を済まし、手を洗っていると知らないおじさんに個室に押し込まれる。


 おお、これが世に言うロリコンか。

 弟もこの部類だったんだな。

 うん、確かに犯罪の匂いがプンプンするぞ。

 え? 今から出すモノを舐めろって?

 予想は付いたので、うん、と答えるとニヤニヤと見苦しい顔。


 カチャカチャとベルトを下ろし、イチモツを見せ付けようとする。


 やれやれ、そんなもの、見飽きてんだよ。

 まあいい、保険もある事だし、扱いてやろうな。

 左手で握ってやると上を向いてヘラヘラと。

 でかくなったところで保険をおもむろに、尿道にグサリと挿してやる。

 派手な声をあげて、抜こうとして更なる激痛に悶えている隙に、カギを開けて逃げ出す。


 ふうっ、保険の串が役に立ったな。


 あれなら力の無いガキでも反撃出来ると、服に縫い付けておいたんだけど、あんなものに刺す羽目になるとは思わなかったぜ。

 欧州での任務の中で知った、現地の拷問方法のひとつだ。

 実際に紛争地帯でやった事もあるが、あの時は無理矢理抜いてやったがな。

 まあいい、幼女に対するわいせつ行為で検挙されるよりましだろ。

 血の小便で親告しないでおいてやるからありがたく思え。

 それでも普通ならそこまでの事も無いんだろうけど、生憎と竹の串で途中に切り目を入れると抜けなくなるんだよな。

 尿道自慰に慣れている奴でも、抜こうとしたら竹が刺さるのは想定外だろうが、あいつはどうだったのかな。

 更に言うなら本当はあのまま根元まで差し込んでやる方法もあるんだよな。

 まあ、あれを本格的にやるならもっと派手な道具もあるが、さすがにそんなのを持ち歩くのは嫌だぞ。


 一番細いタイプのワイヤブラシとか、プロでも泣きが入ると聞いたな。


 それはともかく、小学生になってもピアノは続け、床の間での個人練習に見かねたのか、遂にピアノを買っちまった親。

 頼んでないのに余計な真似をと思ったが、母親も全然弾けない訳でも無かった。

 もう忘れたわねと言いつつも、始めた当初のオレぐらいの腕前だった。

 60の手習い数ヶ月と同じ腕前と言うのも情けないが、あれば弾いてみるといい。

 次はオレの番だと言われ、最新の練習曲を弾き始める。

 どうしてだかクラッシックばかりなんだけど、この曲は比較的気に入っているのだ。

 一通り弾き終わると、妙に顔が上気しているような。


 そう興奮すんなよな。


 やっぱり私の子ね、と言われても困るんだが。

 もっと弾けと言うので、近所迷惑も顧みず、次から次へと弾いていく。

 ああ、そのうち苦情が来るんだろうな。


 ◇


 小学生になっても歌の時間はあった。

 音楽の時間というやつだ。

 歌は嫌いなので何とかしようと一計を案じた。

 何故かピアノはあるのに弾かない教師。

 アカペラで歌わせる授業と言うのも変わっているが、もしかして弾けないのか?


 聞けば確かに弾けないらしい。


 本当は国語の先生だったようだが、枠がこれしか余ってなかったらしい。

 教科書を使えば何とかなると、先輩に言われての事だと。

 なのでオレは提案した。

 ピアノなら私が弾いてあげるよと。

 それからオレは歌わなくて良くなった。

 楽譜を見ながら弾くだけで終わる授業。


 ああ、これで助かった。


 ◇


 2年生になったが、ピアノ教室はまだ続いている。


 何度か発表会がありはしたが、講師には出るつもりはないのだと話してある。

 あくまでも趣味なので目立ちたくないので、出すなら辞めると言えばそれで終わった。

 他に出したいと願う親が多過ぎるらしい。

 うちの親もそれは同じで、出ろと言われてそれなら辞めると言えばそれまでだった。

 そして今年の発表会も辞退するつもりでいる。


 将来、これでメシを食うつもりなど無いんだしな。


 それはともかく、学校というものは身体を鍛える道具が色々あって良い。

 懸垂もやれるし、広いからランニングには最適だ。

 懸垂のついでに逆上がりも早々にやれるようになり、そこでまた夢中になって体操部門に片足を踏み入れた。

 鉄棒の上での逆立ちまでやったが、ジャージでやらないとスカートじゃ丸見えになるから止めた。

 オレはズボンが良いのに何故かスカートを履かされ、冬とか足が冷たくて弱ったぞ。


 それにしても、精神年齢は男のほうが女より低いと言うのを実感した。

 それに単純で愚かな奴も多いようだし。

 チラリとでもパンツが見えれば鼻の下が伸びるのだ。

 別に性器が見える訳でもなし、パンツが見えるぐらいで何を興奮しているのか。

 スカートめくりなるものが流行ったが、冬は寒いから止めろよな。

 真冬にされてイラっと来たので、お返しとばかりに股座を蹴飛ばしてやった。

 だけど、本当はベルトを切ってやろうと思ったのだ。

 同じパンツを見せる行為だから良いと思ったが、刃物を持つと先生も煩いだろうから止めた。


 股座を蹴られた男子?


 反撃は簡単に撃退してやったさ。

 トロトロ殴るから、掴んで巻き込んで一本背負いだ。

 叩き付ければ泣き出して終わりだ。

 悪いが柔道や拳法、マーシャルアーツなんてのは、散々特殊部隊でやらされたんだ。


 自衛隊でもやったしな。


 そんな訳で、この身体では違うが、かつては黒帯寸前にもなったんだ。

 検定を受けなかったから黒帯にはならなかったが。


 ◇


 最近、クラスでの力関係が変な事になっている。


 手を出せばこっ酷く反撃を食らうが、何もしなければおとなしいと言うのがオレの評価。

 ガキ大将っぽい奴もオレには手を出さず、男はそいつ、女はオレという感じに別れたのだ。

 そのせいか、男が女を苛めるという、世間で良くある話はうちのクラスでは発生しなくなった。

 どちらが強いかとか、そんな噂は止めて欲しいんだが、女達は無責任に煽る日々。

 喧嘩は未知数、勉強はオレ、運動は両方、となればどちらが強いかってなるのも判らんでもない。


 だがそんな事を決めてどうするよ。


 意味が無いからやりたくなかったが、ガキ大将から果し合いのような申し込みが来た。

 河川敷でとか、男同士の喧嘩じゃないんだから。

 いくらか鍛えたが、まだまだ幼い身体にきついトレーニングは向かないせいもあり、技巧はともかくスタミナが足りない。

 となると短期決戦しかない訳であり、ジャージの上下で相対する事になる。

 早めに走ってきてストレッチで身体を温めて、柔軟をしっかりやっていると相手が来た。

 軽くボクシングのシャドーをやり、フットワークのテストも終わる頃、あいつは目の前にやって来た。

 どうしてもやるらしいが、妙に腰が引けてないか。


 あれっ、まさかさっきのシャドーでびびったんじゃ?


 よし、ならボクシング風に始めるか。

 軽いステップを踏み、構えてジャブを打つ。

 スイスイと避けながら、ジャブで距離を測ってストレート。

 よろよろと後ずさりするけど、反撃はどうした。

 早く掴みかかって来ないと、決めれないだろ。

 あんまりこの指で喧嘩をしたくないんだよ。

 何度か殴っていると、埒が明かないと思ったのか掴みに来た。

 その腕を掴むと腰が引かれる。


 ふふん、投げ対策か。


 オレが一本背負いだけと思ったか。

 小内刈りで倒れたところに腹に膝蹴り。

 うぐっ、と呻く奴に対し、腕ひしぎで決めてやる。

 さあギブアップしないと腕が終わるぞ。

 必死で我慢していたようだが、痛みの限界を超えたのか、参ったから止めてくれと言って勝負は終わった。

 おめぇ強いな、やっぱり勝てなかったぜと、どうやらあんまり勝てる気はしなかったらしい。


 女連中の煽りに単純に乗せられたのかもな。


 まあいい、戦いの褒美をやろう。

 そんな事無いよ、君も強かったよと、頬にチュッ…ほら、鼻の下が伸びた。

 単純な奴、クククッ。

 じゃあまた学校でね、と言うと、おお、またな、とそれで終わった。


 ◇


 家には夕食前のランニングと言ってあるんだし、早く帰らないと。

 帰るとジャージの汚れを言われたが、ちょっと転んだと言って誤魔化した。

 服を着替えて手を洗い、傷の有無を確かめてみる。

 実に柔らかい手なので、簡単に擦り傷になるのだが、幸い特に傷は無かった。

 食事の時、珍しく父親がピアノの発表会の話をする。

 どうやらオレが断りまくるので、母親が相談したらしい。


 どうして嫌なんだと聞かれ、目立ちたくないからと答える。

 将来、ピアニストになれるぐらい上手なんだろうと言われても、そいつは親の欲目というやつだ。

 近所迷惑と苦情は未だに来ないが、きっと我慢しているに決まっている。

 まだまだ発展途上なオレのピアノなど、聴くに値しない低レベルなもの。

 そんなものを不特定多数に聞かせられるかよ。


 頑なに嫌がるから遂に諦めたらしい。

 

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