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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏2
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15

  

 幼稚園から戻って散歩に行くと称してバスに乗り込み、県警本部前で降りて入って聞いてみる。

 先日、園児バスにナイフを持った人が乗り込んできたんだけど、お芝居なのを知らずに怪我させちゃったんだと。

 そう話すとちょっと来てくれと言われ、あれが県警の差し金なのを知る。


 どうしてあんな事をしたのかと、真面目に聞かれて呆れたが、現行犯は刑事じゃなくてもやれるからですと答えた。

 妙に詳しいねと言われるが、事前連絡も無しにいきなりのバスジャックの演習とか、それを芝居と見抜けと言うのは無理が無いですかと言ってやった。


 ナイフが玩具というのは後で気付けたけど、当時はそんな事は思えなかった。

 運転手を脅しているように見えたから、後ろから蹴飛ばしてやったんだと。

 お尻を打ったら痛いから、蹴飛ばしたら凄く痛がって、だからいけると思ったんですと。

 この年齢の女児に男の股座の事など判らないのが普通だし、下手に睾丸とか言わないほうがいいはずだ。

 しかし、本当なら罪になるとか言うものだから、なると思えば調書を取って書類送検すれば良いじゃないですか、と言ってやった。


 やってみなさいよ、5才女児の拘留を。


 罪になると言うならやれるはずよ。やれないのなら、いい加減な事を言わないでよと言うと、

 生意気な事を言うと本当にそうするぞと、まだ誤魔化せると思っているところが救われない。

 隣の警官が困ったような顔をしているので、この人は本当に採用試験受かったの? と聞いてやった。

 言った奴は怒っていたが、隣の警官は苦笑い。


 ああ、新人さんか。


 新人教育も大変ですね、ご苦労様ですと言うと、あはは、本当に賢いお嬢ちゃんだと。

 男のほうはもう何と言うか、5才児相手に殺気送るなよ。

 先輩にあんまり苦労かけんじゃないわよと言い、もっと法律を勉強しなさいと言ってやった。

 でも危険だからそういうのは気を付けるんだよと言われ、改めて無罪放免となった。

 犯人役の人には申し訳なかったですと、お伝えくださいと告げて本部を出た。


 うん、本当に申し訳無い。

 あんな生殺しにしちまって。


 戦場で出会ってたら止めを刺してあげてたんだけど、生憎とここは日本。

 罪にはならなくても補導されるからさ。

 そういうの、世間は色々と煩いからさ、今はまだおとなしくしてないとダメなのさ。


 タマは散々蹴飛ばして、恐らくは潰れたと思うから、今後の人生は恐らく暗いとは思うけど、考えようによってはお得だぞ。

 相手が居なくても発散の必要が無いし、男性ホルモンが無くなればハゲないぞ。

 多少身体が女性化するかも知れんが、今は男性用のブラもあるから問題あるまい。

 あんまり悪いほうにばかり考えずに、良いほうに考えて生きて行けばいい。


 なんて、加害者が言う事じゃなかったな、クククッ。

 しかしなんだね、このバスという乗り物は大人向けに拵えてあるのだね。

 5才児が使うと乗り辛いのなんのって。


 園児バスとは訳が違うな。


 よじ登って座った後は、降りる時に背伸びしてボタンを押し、降りる時には飛び降りる勢いで降りないといけないんだな。

 土足でソファに立って悪かったと思うが、降車ボタンの位置が届かないんだから仕方ないだろ。

 それはともかく、家に帰ると、何処に行っていたのかとしつこく聞かれる。

 散歩と答えたのに、バスに乗り込むところを近所の奥さんが見たとか言うんだよな。

 それなら最初から、バスに乗って何処に行ってたのかと聞くべきだ。

 子供に対しては、退路を断ってから言わないと、浅知恵を使って誤魔化せと言っているようなものだ。

 退路を断てば逃げ道が無いから素直に話すのに、色々あるからその場しのぎをしてしまう。


 その結果、嘘ばっかり言ってとかって事になるのだ。


 しかしな、お前らはそう言う事をしないか?

 井戸端会議の時、ひたすら誤魔化しているのを聞いた事があるぞ。

 自分の事を棚にあげて、偉そうに言うんじゃねぇよ。

 まあいい、ここはこう言ってやろうな。

 興味があったから乗ってみたけど、園児バスと違って乗り難かった。

 あれは大人向けの乗り物なのね…と。


 そして、次の停車場で降りて、反対側のバスで帰ったと。


 母親はしばらく考えていたようだけど、賢いのねと考え方を変えたようだ。

 どうやら興味と好奇心のままに、色々自分で考えて行動していると思ったようだ。

 普通は試行錯誤になるんだけど、かつての経験からそれが極端に少ないだけだ。

 まあいい、そう言う事ならひとつ、おねだりなるものをしてみるか。

 習い事がしたいので、幼稚園は止めたいんだと話す。

 あんなのつまらないし、先生達も猫なで声で気持ち悪いと。

 あそこは勉強をする環境にないので、やれる場所に行きたいのだと。


 ますます考え込む母親。


 かつての弟をしのぐ秀才と思ったかな。

 もう底辺作戦は止めだ。

 あれは自由があるけど、この日本じゃ住み辛い。

 だから英国永住なんて事になっちまったんだ。


 まあ、日本で死んだけど。


 秀才の名の影で何かしたほうが良いかも知れん。

 全く逆のプランだけど、どうせ2回目の人生だし、違う事をやったほうが面白いに決まってる。


 ◇


 その夜、両親はオレの事について色々話し合い、そう言う事なら何か習わせてみるかという結論に至ったようだ。

 習い事をやれば幼稚園に行く暇は無くなるだろうし、本人も嫌がるなら無理に行かせる事もあるまいと。

 そんな訳で翌日、母親に連れられて市街地にお出かけだ。


 さすがに英語はパスだ。


 この国で英語と言えばキングスだけど、オレが馴染んだのはクイーンだ。

 確かに両方喋れなくもないけど、混ぜるな危険ってやつだ。

 どうにも混ざるんだよな、両方いけるにしても。


 だからもうクイーンで統一しようと思うから、英語はパスだ。

 しかしな、外国語講座は良いが、英語しか見ないと言うか。

 出来ればイタリア語とかスペイン語とかやってみたいが、どうにも無いようなんだよな。

 案内所で色々と見てみるが、本当に…あった。

 ここに行ってみたいと母親に告げ、イタリア語? と変な顔をされた。

 てっきり他の習い事だと思ったらしい。

 ううむ、あんまり奇を衒った習い事は拙いか。


 仕方が無いが、ここは路線変更だ。


 とりあえず体力を付ける目的で、身体を動かす系の習い事を探す事にした。

 女向けと言うのも嫌だが、ここは一応男女がやらなくもない、エアロビを選ぶのだが。


 むむむ、何でそんなに渋い顔? 仕方が無い。


 フィギュアスケート…ダメか。

 ならば柔道…論外か。

 剣道…ダメか。

 長刀はどうだ……ダメか。


 どうにも指差すと変な顔をしたり渋い顔をしたり…口で言えよな。

 しかし、弱ったな。

 身体を動かす系の習い事は嫌なのか?

 だが、やるのはオレなんだぞ。

 ダメ元で拳法を指差すも、母親は他の所を指差してくる。


 茶道、生花、習字、算盤、礼儀作法…花嫁修業かよ。 


 よし、これでどうだ。


 お、笑顔になったな…あれ、しまった、隣を指差しちまったぞ。

 待て待て待て、申し込みに行くんじゃない。


 隣だ、隣。


 あああ、話を聞けよコラ……それじゃねぇぇぇ…


 護身術なら良いだろうと指差すつもりが、隣のピアノになっちまった。

 楽器はあんまり好きじゃないと言うか、そりゃ全然って事も無いが。

 ピアノはかつて、ちょっとしかやった事が無いんだぞ。

 ロンドン郊外に居を構えた時、老後の手習いにと買いはしたが、1年も使わないうちに観光旅行であんな事になっちまって。

 だから腕前のほうも大した事が無い。

 所詮は暇潰し用に過ぎなかったんだから。


 それをやれと?


 はぁぁ、なんでオレ、指差し間違えたのか。

 つい、かつての指の長さのつもりで距離感が狂ったに違いない。

 そりゃ確かに今の指も短くはないが、成人男の指には敵わない。

 まあいい、とりあえず始めてみますかね。

  

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