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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
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 今日も銃撃の音が響く、ここは紛争真っ只中。

 何とかセーフハウスのような仮宿を確保し、また一日生き延びた。

 どちらの陣営かは知らんが、食糧確保の為に襲って殺して獲得した。これで数日は生き延びられる。

 武器も何種類か確保しているが、戻れる日が来るのかねぇ。

 まあ、オレはこのままでも良いんだけど。

 住めば都って訳じゃないけど、この環境が実に好ましい。

 いつ殺されるか判らんが、殺し放題なのは確かなのだから。


 現地語もカタコトながらマスターし、更に生存が容易になる。

 時には片方の陣営の食料庫を襲撃したり、もう片方の兵士を殺害したりという日常。

 紛争に参加しているような、邪魔しているような、そんな日常が楽しくて仕方が無くなる。

 状況も戦況もかなり把握し、隙を伺えば脱出すらも可能と思えるようになった。

 双方の重要書類と思しき物をいくつか獲得し、更に詳しい状況を知る。

 どうやらもうじきカタが付きそうな感じだ。となればもう、弱いほうを徹底的に攻撃し、状況を終わらせてやればいい。

 まずは兵糧攻めとばかりに食料を奪う。時には放火もしたりして。見つけた奴は即座に殺し、死体を放置して近寄る奴らも殺す。


 ここに来てもう何十人?いや、もっとかな。たくさん殺せてオレは満足だよ。

 2年の月日が流れ、いよいよ紛争は終わりになる。

 途中、軍の介入もあったが、あえて名乗り出なかった。

 だって、この暮らしが終わりになるのだから。

 それでも紛争が終われば仕方が無い。

 可能な限りの書類を確保し、夜陰に乗じて脱出した。

 最寄の軍に名乗り出て、元の身分を申告する。

 原隊ではオレは死亡になっていて、連絡が届くと即座に迎えが来た。

 実は大使館を通じてオレの死亡が伝えられ、母国でも死亡扱いになっていると。


 やれやれ、たった2年で死亡かよ。


 行方不明は7年とかじゃなかったか?

 まあ、紛争地帯での行方不明だから、死亡扱いも致し方ないのかも知れないが。

 元の部隊の連中は、よくぞ生きて戻ったと言われ、中々刺激的な訓練だったよと笑って返した。

 普通なら苛酷な環境で精神症になる事も多々あると言われたが、オレは特に医者に罹る事もしなかった。

 てか、深層心理を読まれるとヤバいからな。

 しはらくすれば落ち着いて医者に対する対処もやれるが、直後だからまだ心の底に歓喜が残っている。


 そんなの知られたら拙いに決まっている。


 それにしても、あそこでは芝居の必要が無かったから特に楽だったと思う。

 しかも、殺してると発散の必要がなく、行為が無くても苦にならないんだよな。

 ああ、セフレに連絡してみるか。

 数年振りと連絡してみると、死んだと思われたいたらしく、良かったらまたどうって言われて再開した。

 どうやらオレの後釜が見つからなかったらしく、悶々とした日々を送っていたらしい。

 最前線の部隊からヤードの特殊部隊に戻ったオレだが、そうして元のような暮らしが戻って来る。

 しかし物足りない。なのでセフレとの行為は頻繁にするようになり、彼女は持て余し気味となるも、求めれば快く受け入れてくれた。

 それにしても貯金が貯まる一方なんだよな。

 最前線での任務の給与、これがまたやたら高額で、更には2年間の追加報酬まで出て、ある種の賠償まで行われたとか。


 オレは休暇のようなものだったんだけどねぇ。


 ヤードで3年、最前線で2年、戻って5年が経過し、気付けばオレは37才になっていた。

 英国に来てもう10年か……一度帰国してみようと思い立ち、長期休暇を申請する。

 皆勤に近いオレの勤務状況から、それは受理されて帰国の途に着く。

 セフレにはしばらく国に帰ってくると告げ、戻るまであっちは我慢していてくれよと告げておいた。

 成田に着いてバスを経由して列車でメインバンクに赴く。

 口座確認をすれば1億を超えていた。

 貸金庫を解除して英国の銀行に全額移送を依頼して口座の抹消を申告する。

 もはやこの国に未練は無い。オレは10年滞在ですっかりあっちの人間になっている。


 今更、こんなせせこましい国に用は無い。


 それでも弁護士さんには連絡し、今は英国の特殊部隊に所属していると。そして永住の予定だと告げた。

 久しぶりの会話は弾んだが、自分のところに来なかったのは運命なのかも知れないと、やっぱり寂しそうでもあった。

 それから実家の様子を探り、弟は無難に会社勤めをしている様子。ただ、家が何だか寂れているような感じだ。

 更に詳しく調査してみると、母親は既に死亡しており、父親は実家で独り暮らしだとか。

 弟は両親の期待を背負って頑張ったが、近所から色々言われていたたまれなくなって県外に就職したとの事。

 そうしてそのまま恋愛結婚をして新居を構え、2人の子供が居る様子。

 あの親父の性格に愛想が尽きたのか、没交渉になっているような感じだった。

 あの親父は定年退職し、今は自宅で何をしているのか判らないと。

 まあ、数日探ってみたが、盆栽をいじくって終わる日々だった。

 自炊もどきは良いが、レトルト主体の簡単なもの。

 退職金と母親の生命保険で食い繋いでおり、特に目的も無いようだった。


 まあもう他人だけどな。


 そんな訳で英国に戻る前に弟に1度だけ会っておこうと接触をする。

 オレの顔すらも忘れていたようだったが、やはり兄と言う事で会ってはくれた。

 それでも金は無いぞと真っ先に言われ、いかに父親からの洗脳みたいな事をされていたのかがよく判った。

 そこでオレは今は英国に居る事、現地での特殊部隊に所属している事、永住の為の手続きに帰国した事。

 預金は日本と英国合わせて、日本円で3億ぐらいはある事、そしてもう二度と戻らない事などを伝えた。

 弟は相当に驚いていたけどさ、預金で目の色変えるなよ。

 オレは中2の頃からずっと金を貯めていたんだからよ。


 まあもう良いかと真実を話してやる事にした。多少脚色されているが。

 オレは小学高学年で世間の仕組みを少し知り、出る杭は打たれると思い、それからずっと能力を隠してきた事。

 成績もずっと底辺に留め、独学で3ヶ国語をマスターした事。

 夜遊びと称してトレーニングをしたり、バイトに明け暮れた事。

 高校は長距離の自転車通学で身体を鍛え、卒業後に自衛隊に入った事。

 数年後に除隊して欧州旅行の途中、シージャック犯人達を制圧した事が切欠で、ヤードの見学を経て特殊部隊に正式採用された事などを話した。

 ずっと騙してたんだねと言われたが、まあ本当の事だから仕方が無いな。


 そんなこんなで兄弟の、最初にして最後の長話は終わった。


 そしてオレは勘当の身、親父はお前が看取れよと告げて、喫茶店を出ようとすると、何とか留まれないのかと残留を乞う。

 魂胆は見え透いていたのであっさりと断り、再度の懇願も断って店を出た。

 預金で目の色変えといて、そんなあからさまな引き止め、バレないと思ったのかよ。

 そもそも、最初に会って言う事が金は無いぞ、だからな。

 巧く残留させて金を借りれば楽になるとでも思ったか。

 年を食ってからの遊びは止まらないとは聞くが、いい加減にしないと奥さんにバレるぞと言うのがオレの最後の言葉。

 何の事だと言いながらも真っ青になっていた弟。

 女遊びも程々にな……てか、お前、ロリコンだったのな。


 相手は現役女子中学生とか、犯罪だぞ。


 まあ、大量殺人のオレに言える事では無いが、クククッ。

 まあいい。折角調査したんだ、証拠写真を奥さんに送ってやろうな。まあ頑張れよ。

 焼き増しした写真を最寄の所轄にも送ってやるから、楽しい人生を送るといい。

 これがお前に対する意趣返しと知るがいい。散々軽蔑したような視線を浴びせ、親と共にオレを無視した報いと知るがいい。


 まあもう他人だけどな。


 楽しい遊びも終わったところで、所定の手続きも順調に進む。

 数日後にテレビで弟の事をやっていたが、どうやら淫行で逮捕されたらしい。

 奥さんとは離婚となり、慰謝料と養育費がプラスされ、逮捕された弟の運命やいかに。


 まあもう他人だけどな。


 弁護士仲立ちでの離縁だから、オレにはもう何の関係も無い他人だ。

 それでも面会ぐらいは行ってやろうかなと、弟の顔を見に行ってやった。

 かなり憔悴していたが、オレの顔を見るや、いきなり興奮して暴れ出す。ああ、判っちまったか、クククッ。

 ヒラヒラと手を振って所轄を出る。勘当はされたが兄弟は兄弟、一目会わせてくれないかと所轄に申し出て実現したチラ見。

 だけど暴れて話は出来なかったのが残念と言い、出来心かも知れないのでお願いしますと言っておいた。

 まあ出来心だろうと何だろうと淫行は淫行。例え執行猶予が付いたとしても社会的には終わりだろう。

 回数的にはオレのほうがきっと多いだろうけどな。お前は金を払っての行為、オレは貰っての行為だ。

 払うほうは罪になるが、貰うほうはならないんだよ。保護が目的の法律だから、買ったほうが罪になるものなのさ。

 4年間の援助交際のようなあの思い出からすると、あの女の立ち位置が弟か。

 親の期待を一身に浴びていた頃に、お前が後にやるような事の逆をしていたオレ。


 何とも人生は不思議なものだな。


 期待の星が前科者になった父親の顔も見てみたいが、まあもう手続きは終わったんだ。

 後は英国で死ぬまで任務に励むさ。

 手続きの結果を持って英国に戻り、所定の手続きを申請する。

 ヤードにその旨を報告しておいた。

 休暇は数日残っていたので、満了までしばらくぶらぶら過ごしたいと告げ、そのままセフレの家に居候となる。

 メシを作ってやるとやけに上手だと言われ、負けてるかしらと言われたぐらいだ。

 女が働いている間に家の掃除やら洗濯、家の周りの掃除などをやり、壊れていた雨どいを直したり、壁の修理などをして時間を潰す。

 そうして夕方には食事を作って帰宅を待つ。見違えた外観と家の中の様子に驚き、意外とまめなのねと言われる。

 シャワーで身体を洗ってやり、そのままマッサージをして癒してやる。

 メシを食ってのんびりした後、そのままベッドに突入して行為をし、まったりとした時間に愚痴を聞く。

 そうしてまた行為となるが、ペースを落としたのでそこまできつくはない様子。

 今日の出来事を聞かれ、やった事を全部話したら相当驚いていた。


 それでも喜んでくれたので幸いか。


 そして永住にした事を告げ、飽きるまでこのままの関係を続けてもいいと話しておいた。

 同棲にしても良いと言われ、仕事が不定期でも良いならと承諾した。

 かくして彼女との同棲が始まり、任務が終わったら帰る日常。

 出張の後は数日の休暇。その時は家のあれこれをやって過ごし、夜は夜で豊富な満足を与える。

 そんな暮らしが何となく続き、いよいよオレも40代に突入した。


 彼女は仕事が無くなり、ずっと家に居る事になる。

 まあもう働かなくても良いと告げ、オレが養うよと言ってそのままの暮らしが継続した。

 親からの遺産でもあった土地と家なので、小さな住まいだけどそれなりに平穏な暮らし。

 同棲芝居は熟練を極め、表層では円満な内縁生活を楽しんでいた。

 5才年上の彼女だけど、オレは手放す予定は無かったんだけどな。

 だけど、運命はどうやらオレに平穏な生活を望まなかったようだった。

 

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