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闇のカラス・改訂版  作者: 黒田明人
闇烏1
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10

 

 どうしてこうなるのだ。


 パスポートを取得し、トラチケも準備し、旅行代理店にまで行ってツアーに混ざったと言うのに、今オレは船に揺られている。

 確かに航空機は成田を飛び立った。

 荷物は最小限で、基本的には手ぶらに近く、靴底や服のあちこちに隠し武器はあるけれど、かなり身軽な格好で旅に出たはずだった。

 急にエンジントラブルに見舞われ、最寄の空港に緊急着陸する。

 それは良いのだが、そこから船便で英国までの旅に変更された訳だ。

 トラブルと言うか壊れた訳で、修理を待っているとどれぐらい掛かるか判らないと言われ、急遽の変更になったって訳だ。

 本来なら別便を用意すべきところだが、代理店が悪かったのかそれもやれず、しかも場所が場所だから航空機以外は道が無い。つまりは島だ。

 緊急着陸だから仕方が無いと言えばそうだが、どうして大陸のほうにならなかったのか。もっと手前で気付けよと言いたくなる話だ。

 それはともかく、幸いにも英国には2日もあれば着くらしい。

 旅のスケジュールは日程をやりくりしてどうにかするが、ラストの船での観光と船中泊が先に来たようなものなので、それが無くなるらしい。

 客は不満を訴えていたので、もしかすると金銭での補填があるのかも知れないが、そんな事はどうでも良い。


 そんな事より問題は、島から乗った20人。


 今現在、船長以下乗員は拘束され、乗客も不自由な思いをしている。

 まさかシージャックとかさ、ケチは付くと付きまくるのかと思ったが、ちょうど夜という事もあり、ちょっと調査をしてみる事にした。

 深夜に蠢く闇夜の烏……即応訓練では敵役を務め、闇烏の二つ名を頂戴したオレだ。

 そして人数を確認しての現在。夜出発して翌日の夜半に到着予定という船旅なので、到着寸前に殲滅を計画した。

 そして闇烏は行動を開始する。夜陰に乗じて見張りを1人ずつ、首をキメて海に捨てる。

 時には頚動脈を切断し、血は本人の服に吸わせる。共に死体は海に投棄。

 そうやって数を減らしていき、半数を超えた辺りで犯人グループは不審に気付いたようだ。

 調査の為に更に数人がデッキに出るが、数人相手の白兵戦は散々やったのだ。遅れを取る事もない。


 特に今は夜、ならば闇烏の天下だ。

 無音で無力化して殺して海に捨てる。

 そんな調査の人員を2組抹殺した後、残りの奴らに突撃し、同じように全員を無力化して殺害して投棄。

 死人に口無し、下手に生かすから色々言われるのであって、殺してしまえば何とでも言える。

 と言うか、久しぶりに殺したかったんだけどな。


 それにしても、飛び道具に頼る奴らは白兵戦に弱かったみたいだ。

 拘束されていた船長以下の船員を解放し、騒いでいる隙に人質の群れの中に合流。

 そのまま寝た振りをして殺しを思い出して堪能していた。久しぶりだったけど楽しかったぜ、クククッ……

 船が港に着き、誰が解放したのかが判らないまま、人質となった乗客は船を降り、ロンドンの市街まで臨時バスに乗る。

 まあ、偽者が名乗り出たからそいつに任せたんだけどな。

 いかに緊急避難だったとは言え、犯人を全員抹殺したのは問題になるかも知れん。

 特に日本はそういうのに厳しいお国柄。なのでとぼけてさっさと逃げ出したって訳だ。

 もっとも、隊の奴らにはバレたかも知れんが。それにしても通算34人か。死ぬまでに何人殺す事になるのやら。

 けどいいな、こういうのも。大っぴらに殺せる仕事とか無いものか。そんな物騒な事を考えながら、ロンドンの指定宿に宿泊する。


 翌日からは遅れた日程を消化しようとばかりに駆け足観光。

 ちょっと慌ただしいままに日程は消化されていった。

 ドーバーを渡って観光をして、また戻ってロンドン市街。

 そこで本来なら船で夜景を楽しんだ後に船中泊、翌日にエディンバラ観光云々ってのが消えてホテルに宿泊。

 帰国当日の朝、スコットランドヤードの刑事が部屋を訪れる。

 何の用かと思えば船の事件の件だとか。

 あれから偽者は暴かれ、船客名簿から元陸自のオレの名が挙がり、ついでに闇烏の二つ名までバレちまい、恐らく間違い無いと思っての訪問だとか。


 ダークネスクロウと言われたらもう、隠すだけ無駄だ。なので素直に白状した。

 そしてそのまま同行する事になり、ツアーコンダクターにはここで別行動にする旨を報告する。

 さて、有罪判決になるとヤバいから本当は逃げたいんだけど、闇烏までバレている以上、何処に逃げても国際手配されちまう。

 日本には戻れず復隊もやれんか。やれやれ、親切が仇になっちまったな。まあ、殺したかっただけなんだけど、クククッ……

 ヤードでは取調室に行くものと思っていたのに、何故か他の部署に回される。

 調書も取らずにいきなりの起訴かと思っていると、何やら様相が異なる様子。

 確証が欲しいと模擬戦が開始され、ヤードの特殊部隊を相手にする事になる。手に持つは炭の棒。

 それをナイフに見立てて、相手の首に印を付けていく遊戯のような模擬戦。


 屋内だが軽い迷路のようになっていて、部屋の照明が落とされる。昼でも暗くなる部屋というのも便利だな。

 しかし、闇になれば早々負けんぞ。闇烏、いざ出陣。夜目の効くオレに対し、あちらはどう出るつもりかな。

 死角から首にチョイと印を付け、またしても闇に潜る。しかしさすがは特殊部隊。

 10人中、7人までは何とかやれたが、残り3人で捕縛された。

 もっとも、突撃しての殲滅がやれなかったからではあるが。

 貫手や急所攻撃での白兵戦が仕上げだが、それをすると洒落にならないから首に印を付けようとしてそのまま捕縛に至ったと。

 しかし、何でこんな事になったのかを聞くと、隊長が自慢したらしい。

 あいつは闇ならそちらの特殊部隊にも負けんとかって、冗談じゃねぇぞ。


 それでも7人抜きは素晴らしいと賞賛されたが、殺しの件はどうなったのかと聞いてみた。

 そうしたら緊急避難でお咎め無しとか。やれやれだな。

 複数での制圧ならともかく、単独での制圧は無理がある。

 今回の模擬戦でも7人までしか抜けなかった。

 あれが殺しだったからこそ、20人全てを制圧出来たのだろうと判断したらしい。

 特に相手は銃器で武装していたという事もあり、それも鑑みての結論だとか。

 そうして歓迎ムードとなり、ヤードの見学が許可された。

 いやさすがに外国。日本なら絶対、過剰防衛とかが付いて、有罪判決になるような案件だ。


 だから誰もやらないんだ。


 下手に手を出して、成功しても過剰防衛だの何だのと言われ、うっかりにでも殺したら殺人犯呼ばわりされる。

 いくら複数の犯人が相手だとしても、元自衛官なら間違いなく、元プロ云々……という風に言われるはずだ。

 結果論なのに殺さずに対処出来なかったのか? とか、やりすぎじゃないか? とか色々言われるに決まっている。

 もちろん新聞や週刊誌には実名で載るし、無責任な噂は世間を飛び交う事になる。

 どうにもあの国では国防の勇士に対するバッシングが酷く、それが他国の思惑だとしても安易に乗せられる民衆につくづく愛想が尽きる。

 まあそれはともかく、ヤードの部署の見学は実に有意義であり、訓練に参加させてくれたりもした。

 言葉の壁が無いのですぐに馴染み、こういう職場も面白そうだなと感じた瞬間だった。


 本来なら即日で終わる予定の見学だったが、こちらが除隊したばかりであり、仕事も決まってないという事を知り、それならビザのギリギリまで本格的に訓練に参加してみないかって話になり、それがどう間違ったのか事件の制圧に参加する事になったりした。

 部隊の中でも特に馴染んだ相手の家にスティさせてもらう事になり、家事の手伝いをやったりしていたんだが、料理の腕前を見込まれて食事担当になったりした。

 そんなこんなでビザの期限が迫ったある日の事、しばらくうちで働いてみないかと言われた。

 確かに面白い職場だったからその気になり、大使館に相談に行って正式に入隊の運びとなる。

 そうなれば専用の個室を与えられ、口座を作成しての給与振込み。

 またしても女っ気無しの生活になると思われたが、ひょんな事からセフレを獲得した。


 休暇には彼女の家に赴き、食事の支度をしたりして夜は行為。

 彼女はオレとの行為をいたく喜び、オレも発散になるからありがたく享受した。

 部隊での訓練は厳しかったが、元隊の訓練レベルと似たようなもの、なのですぐに生活にも慣れ、隊での実績を積み重ねていく。

 筋トレが趣味のようだと言われ、たまにはと飲みに誘われるが、アルコールは余り好きではないと、主にソフトドリンクを飲んでいた。

 まあ、酒場でのオレの役柄は主に、愚痴の聞き役だ。

 ふんふんと相槌を打って聞いてやれば、上司の事から生活のあれこれと、本当に色々な愚痴があふれ出す。

 時に同感してみたり、同情してみたり、そんな対処が気に入ったのか、部隊の皆に誘われるようになる。


 そうして数年が経過した。


 30才になったオレは特殊部隊の一員として、紛争地帯の最前線に赴く事になる。

 現地での調査や探索、時には強行偵察も含んだ過酷な任務。

 隊長の推薦なので快く受諾して、大使館ともやはり相談の後、現地に赴いた。

 鉄さびの匂いの漂う環境は、どういう訳か血が滾る。なのに心はとても静かだ。

 危険な程に冷静になり、速やかに任務をこなす男と言われるようになった。

 闇烏だったオレは、クールガイと呼ばれるようになる。

 数年後、状況悪化……速やかな撤退を指揮し、隊員を逃がす為に殿を勤め、もう少しで完了という寸前で進退が窮まる。

 やれやれ、ミスったか。

 撤退不可となり、現地に潜伏する事になる。


 時に33才の秋……


 

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