謎に満ちた世界、その光となるは…
更新が遅れてすいません、これからも忙しいですが時間の合間合間に投稿していきますのでなにとぞよろしくお願いいたします
「ここを通るのは初めてだね」
リョウが静かなメンバーに気遣うように声を発した。
僕らが黙っていたのは主に2つが理由しているだろう、疲労と彼女。
彼女の底知れない力に僕たちは驚き、ただ見ているしかできなかった。
誰だってそうだろう、目の前にいきなり強い人が現れたらその人に対して抱くのはこうだろう。
敵か味方か
僕たちを取り巻く不安もそうなのだ。
彼女が味方ならこの最悪の状況を好転できる存在になりうる。
しかし敵であるなら…
なんて考えが頭によぎるのだ。
「そうだね、ここに来るのも久しぶりだし」
あたりには住宅街が広がっている。
手入れがされていないせいか雑草が伸びている。
その中に見つけてしまった。
「え…」
思わず声を漏らした。
目の前にあるものが不思議で、ありえなかった。
その声を聴き漏らさなかったリョウ達が尋ねる。
「どうしたんだよ」
僕はそれを指差した。
「あれ…」
他のメンバーも驚いているようだ、いや、驚かない方がおかしい。
目の前に人間の頭蓋骨が2つも転がっているのだ。
それ自体、この終末の世界にある事は珍しくはないのかも知れない。
しかし、ここは死神達がうろつく世界、人間は死んだら残さず死神になったはずだ、そしてまたも殺された死神は何も残さず無にかえる。
そう、人間の頭蓋骨なんてあるはずがないのだ、この世界に。
もしあるとすれば、その死因は死神による干渉ではないことを意味する。
「なんで…」
「わからない、とりあえず帰ろう、もうすぐ日が暮れる」
僕達はリョウの掛け声に合わせその場から去った。
しかし、僕達の頭からそれが去る事はなく。
また沈黙が流れるのであった。
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深夜、僕は彼女のいう通り、ブラックボックスの中心、つまりはユグドラシルに向かっていた。
深夜とあり、外には誰1人人はいない。
僕がそこにたどり着くとすでにそこに彼女はいた。
彼女は僕に気がつくと僕がそこに追いつくのを待った。
「やぁ、ちゃんときたんだね」
「念を押したのはそっちだろ」
「うん、そうだね」
僕の目の前に彼女がいることが出来るということはつまり、彼女は少なくとも死神ではないということは明らかになった。
しかしそれでも彼女については謎なことが多すぎる。
「で、どうしたんだよ」
「んー、いきなり本題に入るのもなぁ。君この事件が起こる前は何年生だったんだい?」
「そんなことはどうでもいいだろ」
「まぁそう硬くならないでよ、打ち解けるための話みたいなものだし」
「高一だよ」
「おー、なら私と一緒だ、つまり私の方がオネーサンてことだね」
いーくんなのる彼女は不気味な笑顔をこちらに向けて来る。
僕は目の前にいるものが何者か全くわからないものの不思議と敵意なるものは感じなかったし、抱かなかった。
「なんでだよ、同い年なんじゃないのか?」
彼女は災厄の前までは僕と一緒といった。
それはつまり、彼女が生霊になったのは災厄の後ということだ、死神ではない自称生霊。
こんな都合のいい存在がはたして存在するのだろうか。
「違うよ、君はずっとここにいるんだろ?ここは時間的干渉はされない。つまり、時は止まったまま。ずっと外で生きる私だけ年をとってるのさ、つまり、私が1つ年上ってこと」
「何言ってんだ、君は生霊なんだろ、年は取らないじゃないか」
その言葉を聞いた瞬間彼女は一瞬ピクリと体を動かし、驚いたような表情を見せた後、悲しげな表情を見せた。
「そうだね、うん、そうだよ…」
今の発言に一体どこに悲しんだのだろうか、生きていたい、時がとまるという死を自覚したくないからなのだろうか、だから生霊といった。本当はもう死んでいて、無でしかないのではないか。
「君は一体何者なんだ、瑠璃のこともなんで知っている」
僕の発したこの言葉を彼女は一度飲み込んでこう口にした。
「ボクは生霊って言ったじゃないか、まぁ生霊だからってなんでも知っているわけじゃないんだけどね。ボクは全てを知っているよ。おそらく君が知りたがっていること全てをね」
「な…」
驚きに何も言えなかった。
なんでも、つまり、瑠璃の事や、この世界のこと全てを知っているのだろうか。
しかし彼女が今ここでそれを僕に告げる必要がどこにある、隠す気なんてないということなのだろうか。
「君は…敵なのか、味方なのか」
「やっぱりそこが気になるよね、正直その質問には答えられないよ、だって自分でもわからないのだから」
「どうしてだ?」
「んー、それを言ったら君は全てを知ることになるからね。まだボクの事を全部話すわけにはいかないさ。まぁ1つだけ言えるのは、ボクは君たちの敵ではないということさ。ボクの目的は君たちの言う死神達を殺していくこと。その点では一緒だし、君達を殺したりとかは全くする気がないから安心して」
僕は今まで伸ばしていた背筋を少し曲げたような気がした。
正確には自分でもそうしたのかなんてわからない。
でも、その言葉に少し安心した自分がいるのは確かだったんだ。
敵じゃない、それがわかっただけでも今日会う意味はあったのだろう。
もちろん、彼女の話を鵜呑みしたに過ぎないが…
彼女は嘘なんてつかないのだろう。
それは全てを知っていると話した時点でわかっていた。
わざわざ全てを知っているなんて話すのは嘘を付くには必要がない。
もし彼女の全てを話す時、それには合理性が伴わなければいけないと言うハードルになるからだ。
だから彼女の言うことには逆説的かもしれない整合性があった。
それに、それを信じなければ僕たちに待っているのは絶望でしかないのだから。
「そうか…まぁその言葉をひとまず信用するよ。いーくんだったよね、よろしく」
「これは驚いた、僕の言葉を鵜呑みするんだね、信じてくれるのはうれしいけれど」
「まぁいくつか聞かせてもらうよ、どうして今日あんな事を起こしたんだい」
「ほーう、気付いていたのかい、君なかなか鋭いね」
あんな事というのはあの化け物の事だ。
間違いなくあの化け物が僕たちに気付いたのは彼女のせいであった。
僕はそれを確信していた。
「聞かせてくれるかな、どこで気付いたんだい?」
「窓ガラスだよ。化け物がこちらに気付いたきっかけ、それは窓ガラスが割れた事だ。もちろん、僕たちが割ったのではないだから君がやったなんて言わないよ。あの窓ガラス、割れた破片は全部向こうに落ちたんだよ」
「なるほどね、君たちが割れる要因といえばドアに思い切りぶつかることくらいだ。ドアの衝撃で割れるのであればその要因は振動だ、破片はどちらにも降るはず、ということだね?」
「うん、まぁね。向こうに落ちるということは窓ガラスに直接危害を与え、なおかつ相当の威力でなければいけない」
「ご名答、あれはボクがやったものだ」
「なんでそんな事をしたんだ?」
「ボクがやったと断定できた君ならもう想像がついているだろう?」
その通りだった。
彼女は最終的には僕たちに変わってあの化け物を倒した。
つまり彼女の目的は僕たちを殺すことでもないし、あの化け物の性能を確かめるのでもない。
僕たちの能力を見極めたんだ。
もし協力して死神を倒すのであれば、お互いの戦力を知る必要があるだろう。
つまりはそういうことだ。
「ならもう1つ…瑠璃を知っている理由を教えてくれ、彼女との関係は?」
「ごめん、言いたくない…」
「そっか…」
もしかしたら彼女の事について知れたのにななんて考えていた。
しかしそんなことは今更必要ない、そう思った。
なぜなら彼女はこのブラックボックスを作って死んでいったのだから。
もちろん、僕の勝手な予想でしかないが。
彼女の家を中心にこの箱が出来るのであればそうとしか考えられない。
「君悩んでいるんだろ、瑠璃の事と姫奈っていう女の子のことで」
「なんで知っているんだよ、誰にも話していないのに」
「いや、まぁここは私も勘だったんだけどね」
「私?」
「いや、君に私と瑠璃に関わりがあると伝えた以上、もう一人称を変えて明らかに繋がりはないように見せる意味もないからね」
「確かに思い出してみればそうだったな」
「いや、やっぱりボクにしておこう、君が誰にもいっていないのならパーティメンバーも知らないのだろう?ボクが私に戻して変に思われても困るだろうからね」
「なんか悪いな」
「いや、いいよ、気に入ってるし。それよりも本題だ、君のその悩み、聞かせてくれないかな」
僕は空を見上げた。
今まで誰にも相談なんてしたことがなかった。
誰にも相談できなかった。
この世界に関わることだし、彼女がかりにも何か異能力てきなものを持っているなんて相談したって相手にされないだろうと考えていた、この災厄で頭がおかしくなった、そう考えられて終わりだと思っていた。
しかし、目の前にいる彼女は生霊。
異能力てきな類にもカテゴライズできるのかも知れない。
彼女なら信じてくれるかも知れない。
正直自分1人で考える事に行き詰っていた。
僕は満天の星空に向かって1つ長いため息をついた。
「わかった…」
僕は彼女に全てを話した。
瑠璃が異能力じみたものを持っているかも知れない事、死んでしまったかも知れない事、姫奈が気になり始めた事、瑠璃が忘れられない事、自分が憎い事、全てを吐き出した。
「なるほどね、正直驚いたな」
「なににだい?」
「秘密。君は彼女が死ぬところを見たのかい?」
「いいや、見てはいないよ、飲み込まれるのを見ただけ、彼女のあの意味深な発言も死ぬ前だと考えると妥当だし」
「これはいってもいいかな…この世界に異能力じみたものがあるかないか、それの答えはイェスだ」
「そうか…やっぱり彼女は」
「考えてみなよ、死神なんて類の生き物普通に生きていて発生するわけがない。そこを考えれば答えを出すのは簡単だろうに、君たちは科学を信用しすぎだよ、非科学的なものは信用しない、そんなのは間違い。それともう1つね、君はもう2つ考えを誤っている」
「それはなんなんだ?」
「それは自分で考えなよ。まぁ1つは魔術的なものを知らないのに答えを出すのは難しいかも知れないけど」
「もう1つは?」
「彼女がこの世界に生き残った人間を守るためにこの世界を作ったっていったよね、確かにそれは正解だ、しかし完全な正解ではない」
「つまり、不十分てことなのか?」
「その通りさ、彼女は確かにこの世界、いや、川崎を守ろうとした。しかし、それは後半だ。前半が抜けている」
「そうなのか…」
「まぁ結論にたどり着くには難しいだろうからね、2つともそのうちボクから伝えるかも。ヒントを言うのであれば…この世の中に絵に描いたような正義の味方なんて存在しないってことかな」
絵に描いたような正義の味方
僕はその言葉を頭の中で唱えた。
不思議だ、僕はその言葉を悪い意味でしか捉えられなかった。
彼女のやった行い、それは間違いなく客観的にみても正義のはずだ。
そんな事をおこなった彼女、正義の味方、存在しない。
それはつまり、彼女は正義の味方なんかじゃなかったと言う事なのだろうか。
「ま、この世の中に絶対的正義なんてない時点でこのヒントは破綻してるけどね。でも、この言葉が一番適当だ、それともう1つ、2人で悩んでるって言ったね」
「あぁ」
「なら、問題を先送りにすればいい。なにも今解決しなければいけない話じゃない、この死神退治なるものが終わるまで、考えるのはよしな、全てを知ってからでも遅くない、むしろその方がいい」
「でも、そんな事をして生きていられるかなんてわからないじゃないか」
「大丈夫だよ…」
彼女は俯いた。
そして、立ち上がった。
僕に顔を向け、その表情は決意に満ち溢れているように見えた。
月明かりに照らされ、彼女の青い目は昼間よりも綺麗に見えた。
彼女はしばらく僕の顔をみた後、こう告げた。
「君たちは、ボクが守り抜いてみせるから…」