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川崎ブラックボックス  作者: 超速のうどんシャイン
1/11

終わりの始まり

茜色に染まった川崎の町。

そんな時彼女は僕を呼び出した。

「しーくん…しーくんの事がずっと前から…昔から大好きだったんだ…」

それはいきなりの告白だった。

驚いている僕に対し、彼女は僕の唇に彼女のを重ねた。

彼女は目を閉じ、そっとその柔らかい唇を重ねたまま動かない。

なぜ夕暮れに呼び出しわざわざ告白したのか、それはいまこの状況になったからこそ分かるのだった。

彼女は涙目だった。

「返事は言わなくていいから…」

彼女はそう重ねた。


俺もお前のことがずっとずっと前から好きだった。


あの時にそう言えばよかったのかもしれない…いや、言わない方がよかったのだ。

彼女が返事を聞くのを躊躇った理由なんて今の僕には自明だった。

きっと彼女はあの時返事を聞かなかったことを後悔してはいないだろう。

あの日あの時あの場所で起きた出来事について言えることは彼女の告白も僕の後悔も決まりきっていたということだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕はりんごの木の下で眠りに落ちていた。

「またこの夢か」

この世界に来て何度この夢を見たのだろうか?

僕はおもむろにりんごの木になったりんごに手を伸ばし1つとってかじった。

これもまた木の下で寝た後のルーティンだった。

この世界に空腹なんて概念は存在しない。

空腹はおろか、満腹や、痛みなどの人間的な活動は何一つ体験できないのである。

ここは通称ブラックボックスと呼ばれる場所である。

一年前、少なくとも日本を黒い雨が襲ったのである。

これがなんなのかは分からない。

これにより人類は壊滅的被害にあい、川崎以外の全ての村、町が滅んだのである。

川崎だけが生き残った理由、それが彼女だった。

彼女が黒い雨が降り出した時川崎の町を覆う籠の様なものを作り出したのである。

彼女は神社の巫女をやっていた。

彼女がこの川崎という、一つの都市を守り抜いたのである。

しかし、守り抜いたにも関わらず川崎にも災厄が降り注いだ。

それは死神の出現である。

死神と言っても僕らが名付けただけであるのだが、黒い姿に赤い目、無慈悲な殺戮(さつりく)はその名に相応しいだろう。

そんな僕らを救ったのが彼女を飲み込んだ存在でもあるこのブラックボックスである。

この世界には死神はおらず、また太陽まがりのものや草むらだってある。

この世界に初めて入り込んだのは僕である。

ここに入った明確な理由は覚えていない。

恐らく彼女を失った悲しみとこの世の終わりを見て死にたくなり、このいかにも死に繋がっているであろう黒い塊に入りたくなったのかもしれないし、彼女の飲み込まれた所にいって彼女とともにいたかったのかもしれない。

僕がその時覚えていることは「死にたかった」ただそれだけだったのだ。

そんな死を覚悟した人間達にとってこの世界は砂漠にあるオアシスだった。

外に出れば死神がいるがこの中では死ぬこともなければ、歳をとることもなく、さらには食事の心配まで無くなる。

ブラックボックスは死の覚悟をした人間に対して、生の喜びを与えたのである。

人間にとってこれ程都合のいいことは無いだろう。

しかし人間というのは欲深い生き物である、人間としての営みを失うとそれが逆に恋しくなってしまうのである。

よってこの世界に生き延びた人々は故郷を…川崎の町を死神の手から取り戻すために外に出て戦うのだった。

それは基本的に僕も変わらなかったのだが、僕が彼らと戦う理由はもう一つあった。

それはこの川崎の地を彼女が護ったということからだった。

「しゅんくん、またこんな所で寝てたの?」

背後から姫奈の声がする。

姫奈とは僕がこの世界で初めてあった女の子である。

彼女は目の前で両親を死神に殺され、1人ここに生き延びたのである。

僕の両親もあの災厄の日にはまだ生きていたのだが、このブラックボックスに逃げず1年経っている時点でお察しである。

僕は姫奈に拠り所を求めたのだ。

そして姫奈も僕に拠り所を求めた。

親を失い、彼女を失った僕と、両親を失った姫奈。

そんな僕らにとってはお互いを支えられる良い仲になれるのだ。

良い仲といっても恋人ではない。

それを超えた家族と言った方が相応しい。

姫奈がそう思っているのかは分からないが、僕にとって姫奈はそんな存在だった。



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