昇級
「ってわけでさ、ちょっと実力が見たかっただけ、ごめんね」
俺の仲間にもただの腕試しだったことを説明したギルドマスターは、一緒に街への帰路につきながら俺達に謝罪をしてきた。といっても軽い感じだったが。
「ホント冗談キツイって、本気でやられると思ったんだからな」
「そりゃそうだよ、本気じゃなきゃ意味がないからね」
悪びれもせずに言い放つギルドマスター。
「そういやあんた…じゃなくてギルドマスターさんの名前聞いてもいいか?」
「フルストラだよ。呼び捨てでいいよ、変に気を使われるのは苦手なんだ」
名前を教えてくれたフルストラに俺達も軽く自己紹介をして名前を伝える。
「へえ、四人でパーティを組んでるんだ。バランスも良いしいいパーティだね」
「フルストラ一人にまるで敵わなかったけどな」
「フッフッフ、まだまだ若い者には負けんよ」
「若い者って…一体何歳…」
剣先が俺の前髪を掠めた。見えなかったが間違いなく掠めた。
「女の子に年を聞くのはマナー違反だゾ」
笑顔でそう言ったフルストラだったが目が笑ってない。少なくとも女の子という年では無さそうだが命の危険を感じたので心の中に留めておいた。
「そういやフルストラはあんな森の中で何をしてたんだ?」
「何って程のことでもないよ、依頼を終えて森を抜けて街に帰ろうと思ったら偶然、猪型のモンスターに遭遇してね。あとは君達に説明した通り、魔法で片付けたというわけさ」
俺達が話しながら歩いていると街が見えてくる。
「私はギルドへ行くけど君達は?」
「俺達もクエストの報告に行くよ、ちゃんと依頼は達成してるからな」
「そうか、じゃあ一緒に行こう」
そう言って俺達は街の中をギルドに向かって歩き出す。フルストラは街の中を見回すように歩いて行く、久しぶりに戻ってきた、といった様子だ。
ややゆっくりと歩みを進めた俺達はギルドの前へ到着する。
「あっ、悪いんだけどさ、私は裏から入るからここでお別れ。何かあったら受付で話して貰えば私に伝えてくれると思うから、それじゃあね」
フルストラは俺達に別れを告げると足早にギルドの裏側へと歩いて行った。やはりギルドマスターが表から入ると目立つからだろうか。
「はい、確かに。クエストの完了を確認しました」
俺はギルドに入り、受付嬢にクエストの完了を報告し、報酬をもらう。
「そういや、ギルドマスター帰って来てたね」
「…?どうしてあなたがその事を知っているのですか?」
気軽に話しかけたつもりだったが受付嬢は訝しげだ。
「実は今回の依頼の途中でさ…」
俺は森であったこと、そして一緒に帰ってきたことをを受付嬢に話した。受付嬢は黙って聞いていたがどことなく不満気に見える。そして俺の話を聞き終え、
「面識があったのなら話が早いです。ちょうどあなた達のシルバー昇級の話をギルドマスターにするつもりでした。ご一緒願えますか?」
「あっ、そうだった。元々、シルバーに上げてもらうって話でギルドマスター探してたんだった。行く行く、ちょっと待ってて仲間に声掛けてくるから」
俺は受付嬢にそう言うと、仲間に話を伝え、一緒に来てもらった。そして、受付嬢に案内されるまま、ギルドの二階へと移動する。
「二階って初めて来たな」
「私もだ。どうやら特別な場所のようだな」
「なんだか静かですよ」
俺達は一階の喧騒から離れ、慣れない場所に少し緊張していると、前を歩いていた受付嬢が大きな扉の前で足を止める。
「失礼します」
受付嬢が扉をノックし、声を掛け、扉を開け中に入り、俺達も続いて中に入る。部屋の中は殺風景だった。最小限の家具に本棚が置かれているのみで余分な物が一切ない。まさに仕事のためだけの部屋といった感じだ。
「ん?おや、君達は…」
俺達の顔を見たフルストラは思ったより早い再会に驚いているようだった。
「今回は彼らのブロンズバッジからシルバーバッジへの昇級の許可を頂きに参りました」
そう言って受付嬢が数枚の紙をフルストラに手渡す。俺達の情報でも書かれているんだろうか。
「ふむふむ…うん、十分シルバーへの条件を満たしてるんじゃないかな。君もそう思うだろう?」
「はい、マスターも彼らの実力は知っているのですよね?」
「え゛っ」
受付嬢の言葉にフルストラが動揺の声を上げる。
「聞きましたよ?森で彼らにギルドマスターであることを隠して襲いかかったと」
「あ、いや、それは…あはは…」
「『あはは』じゃないです!ギルドマスターとはギルドの象徴なのですよ!そんな蛮族紛いのことをされては困ります!」
受付嬢は机を叩きながらフルストラに怒号を浴びせる。怖い。どうやら森でのことは言ってはいけないことだったらしい。ごめんなフルストラ。
「今はほら、その…私の威厳とかがさ?彼らの前でお説教はちょっと…」
「…あとでゆっくりお話を聞かせてもらいますからね」
「はい…」
露骨にしょんぼりとするフルストラ。ギルドマスターってあんまり偉くないんだろうか。ちょっとイメージと違ったな。
受付嬢は咳払いをすると
「では彼らのシルバー昇級は承認ということで、バッジの交換をお願いします」
受付嬢がそう言うとフルストラは立ち上がり、俺達の前へと歩く。俺達の前まで移動したところで、握った手を前に出し、手を開く。
「さあ、これがシルバーのバッジだ。なくしたりしないでくれよ」
「ありがとう、大事にするよ」
俺はフルストラの手からシルバーバッジを受け取り、仲間に渡し、胸に付ける。
「うん、似合ってるよ。それじゃこれからも精進してくれたまえ」
そう言ってフルストラは元の席に戻った。どうやらこれでシルバーへの昇級は終わりらしい。だが俺にはまだ用事があった。
「なあ、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ん?私に答えられることなら何でも聞いてくれていいよ」
「そもそも俺達がシルバーに上がりたかったのは女神と対話するアイテムを探してるからなんだ。それについて何か知らないか?」
「女神と対話…」
フルストラは顎に手を当てて考える。これは駄目かと思った時、フルストラが口を開く。
「正直、不確かな話をするのは気が進まないんだけど、この国の南東の方角に大きな森林があって、そこに小さな国がある。そこに住む”巫女”と呼ばれる少女は人ならざる存在から天啓を得ることができると聞いたことがある」
「巫女…人ならざる存在…」
「不確かなことだらけの情報だからあまり期待はしない方がいい、それに…」
「それに?」
「巨大な木々が生い茂り、光の差し込まない広大な森林はこう呼ばれている」
「…常闇の森」




