本題 【挿絵】
城についた俺達は、使用人に用件を伝えるとすぐに国王の元へ通された。大きな扉を開けると見覚えのある光景だ。どこの城も玉座の間は似たような作りなんだろうか。
「よく来てくれた。君達がレオムントの依頼を受けた者だね?」
ジルスタン国王は、俺達に話しかける。レオムント国王と年は大差ないらしいが若く見えるな。
「そうっす。どうぞ、これが依頼された小箱です」
俺は近くに居た使用人に小箱を渡す。
「ありがとう、ところで道中なにか問題はなかったかな?」
「問題どころじゃないっすよ、賊に襲われるわ盗人に盗まれるわで大変だったんすよ」
国王が口の端を歪めて笑う。
「そうだろうね、なんたってその賊は私が差し向けたのだから」
「はぁ!?」
俺は思わず声を上げてしまった。なんで国王がそんなことを…
「いや、なに、君達の力が知りたかったのさ。おっと、レオムントはこのことを知らないよ。私が勝手にしたことだ。結果は想像以上だったがね、素晴らしいパーティだ」
褒められるのは嬉しいがなんだか釈然としない。
「あの盗人も国王様が?」
「それは知らないな、偶然目をつけられただけだろう」
ルトラは違ったのか、単純にめぐり合わせだったってわけだ。
「用件は済んだっすか?小箱も無事届けたんでもう帰ってもいいっすかね」
「小箱?あぁ、そういえばそういう依頼だったね。その小箱は君に差し上げよう」
「へ?じゃあなんでこの小箱を…」
俺は聞かずにはいられなかった。
「今回の依頼はね、君達が小箱を奪われずに、そして約束通りに開けずに運ぶことができるかを試させてもらったものなんだよ」
俺は言葉を失った。ちょっとそりゃ意地悪なんじゃねーか?国王様よ。
「まぁそう気を悪くせずに、これで本題に入れる」
「本題…?」
「君達に本当に頼みたいことは別にあるんだ、それは…」
国王が話そうとした時、扉をノックする音が聞こえ、扉が開かれる。そこには
「クライス!?」
「貴様は…」
扉から現れたのはさっき別れたはずのクライスだ、そしてその横にはもう一人…誰だ?
「ちょうどよかった、君達には今夜一日だけ彼女の警護をお願いしたい。そう、私の愛娘…アイヴィスのね」
平然と言い放った国王だが、俺は理解が追いつかなかった。警護?なんで俺達が?警備兵なんていくらでもいるだろうに…俺が疑問を浮かべているのを察した国王が説明を加える。
「アイヴィスの希望でね、年の離れた者や、ガチガチの警備兵を自分の部屋に置きたくないと言うんだ。なのでレオムント国王に相談し、勧められたのが君達だ。見たところ年もアイヴィスと変わらないようだし、聞いた話によるとブロンズバッジだそうじゃないか?だが、実力があることはこちらで試させてもらった。つまり、全て都合が良いということだよ」
なるほどな、国王の言ってることはわかった。まぁどうせ今日はこの国に泊まる事になるんだ。一日くらい構わないか。それにジルスタン国王に恩を売っておくのも悪くない。
俺は三人に目で確認を取る。三人とも頷いてくれたので俺は国王に向き直り
「いいっすよ。お嬢様の警護引き受けるっす」
「おぉ、そう言ってくれるとありがたいよ…。そういえばまだ君の名前を聞いていなかったね」
俺は名前を告げる。
「ワタル君か、アイヴィスをよろしく頼むよ」
そう言われ、俺はアイヴィスに近づき手を差し出す。
「よろしくな、アイヴィス」
が、無視された。おかしいな、聞こえなかったかな?
「お、おい。アイヴィス!」
アイヴィスは目の端で俺を見ながら
「気安く話しかけないで、あなたは黙って私を守る盾になっていればいいのよ」
あっ、なるほどね。こういう感じのお嬢様ね。なんかイメージ通りで逆に安心したわ。エレナが優しかっただけで普通お嬢様って言ったらこんな感じだよな、アハハ。
「まぁとりあえず顔合わせは終わりということで、詳しいことは警備の者と決めてくれたまえ」
そう言われ、俺達は玉座の間をあとにする。
部屋から出た瞬間、俺は後襟を掴まれ、壁に向かって叩きつけられた。痛い。
「おい、貴様。王女様を呼ぶ時はアイヴィス”様”だ。わかったな?」
クライスは俺を壁に押し付けたまま忠告してくる。俺は黙って首を縦に振る。するとクライスが手を離す。
「警備の指揮は私が執っている。貴様達は…そうだな、お前達はアイヴィス様の希望通りアイヴィス様の部屋の警護をしろ。残り二人は他の者と同じく城内の警備だ」
有無を言わさぬクライスの言葉に正直、あまり気分は良くないが仕方がない、一日だけ我慢することにしよう。俺はサリアとメイルに気をつけるよう伝え、二人と別れた。何事もなければいいんだが…まぁそれはそれとして
「なぁクライス」
「なんだ」
気安く話かけるなといった様子だが、一応仕事仲間なんだ、気にしてられない
「なんで今夜一日だけなんだ?」
「それは今夜、この城を襲うという計画が立てられているという噂が入ってきたからだ。ただのデマなら良し、だが警戒するに越したことはない」
「へえ、クライスはどこの警備するんだ?」
「私も当然、アイヴィス様の部屋だ」
「ははっ、クライスが居れば安心だな、アイヴィス…様も頼もしいだろうよ」
俺は冗談交じりに言ったがクライスは
「どう…だろうなアイヴィス様には私など…」
クライスはハッとして俺を睨みつける
「貴様には関係のないことだ。さっさと持ち場につけ」
俺はそう言われ、アイヴィスの部屋へ向かった。




