褒美 【挿絵】
「なんだ…騒々しいな…」
アルスター城で迎える朝、俺は物音によって目覚めた。レアは寝ているが。
俺は服を着替え部屋の外に出る。するとたまたま俺の部屋の前でナタリアに会った。
「おっ、おはよう。ナタリア」
俺は笑顔で挨拶をしたがナタリアは真剣な顔をしている。
「旦那様が目を覚ましました!」
国王の部屋へ行くとメイド達が集まっていた。もちろんエレナもだ。
国王は俺に気づくと声をかけてきた。
「おぉ、君はあの時の…」
「すんませんでしたああああああ」
俺は土下座した。今までの人生で最速の土下座をした。周りの人も国王もポカンとした顔をしている。
「屋敷に置いてもらってる身なのに国王様にタメ口聞いたりおっさんとか言っちゃたりして…」
俺は怒られる前に謝罪をする主義だ。これで少しでも溜飲が下がれば…
そんな俺の謝罪を見て国王は笑い出した。ひとしきり笑ったあと
「あまり笑わせんでくれ、傷口が開く」
あれ?怒ってないみたいだ
「たしかに君の私への態度には驚いたものだ、だが君は私を助けてくれた。それが一番重要なことだ」
良かった。話のわかる国王様で。話に聞いていたより全然優しそうだ。
「君には何か褒美をやらねばならんな、おや?ところでその怪我は…」
「あぁこれっすか?これは昨日ナタリアに…」
バシンッという音が部屋に響く、国王がナタリアをぶった音だ。俺が驚いていると
「中途半端なことをするな!おい、今すぐ治癒魔法の使える者を呼びなさい」
「申し訳ありません…」
ナタリアが謝罪をする。なんでだ?ナタリアは何も悪くはないのに。
「全く、役に立たんメイドだ。今すぐこの屋敷から…」
国王がナタリアに向けて屋敷から追い出す言葉を口に…
「ちょっと待てよ!」
「何かね?」
国王はさっきまでと打って変わって険しい表情だ。
「褒美…くれるって言ってたっすよね?」
「あぁ、言ったが。何が望みだ?言ってみるといい」
「俺達をこのまま屋敷に居させてくれること、そして…」
俺は口をつぐみ、ナタリアを指差し、告げる。
「ナタリアを俺の専属メイドとして屋敷に置くことだ!」
俺は国王から目をそらさずに言い放った。国王はしばらく黙って俺を見つめ返していたが…
「ふっ…ははははは!面白い少年だ、よかろう。その二つを今回の褒美とすることにしよう!」
ふぅ…よかった。国王様に啖呵きっちまってどうなることかと思ったが…
そのあと、「もう大丈夫だ、下がりなさい」という国王の言葉により、エレナ以外は部屋から出された。俺も国王に用があるわけではないので一度部屋に戻ろうとする。が、袖を掴まれた。こんなこと前にもあったな。
「…して…」
振り向いた場所にはナタリアだ。俯いたまま何かを言っている。
「どうしてあんなことをしたんです!」
ナタリアは顔を上げ、声をあげる。その目には涙がこぼれていた。
「私なんて放っておけばよかったんです…!それなのに私なんかのために旦那様にあんな…!私なんかの…」
俺は泣きながら怒るナタリアの肩に手をかけ、話しかける。
「俺は俺の心に従ってそうしただけだ。あと”私なんか”なんて言うな。俺はナタリアが俺にしてくれたことが間違ってたなんて絶対思わない。それにもうレオムント国王は旦那様じゃないだろ?ナタリアは俺のメイドなんだからさっ」
ナタリアはそれ以上なにも言わずに涙を拭い
「そうですね、旦那様」
そう言うと、泣き続けて赤くなった目を細め、笑顔をこちらに向けるナタリア。その笑顔を見て、俺は自分のしたことは間違っていなかったと確信する。そして俺とナタリアは一緒に部屋まで戻る。今まで一定の距離をあけて歩いていたナタリアとの距離は、今日は少し近づいていた。




