簡単なクエスト 【挿絵】
アルスター城門前
「交代の時間っす」
時刻は既に夕方、俺は交代のために城門前の警備兵に声をかける。
「さてとっ…」
不審者がいた時のために簡素な防具と剣、そして緊急時を伝える笛を与えられた。まぁ警備をするのだから当然だが、剣を持っていると冒険者っぽくていいな。と剣を軽く振りながら考えていた。
「で?なんでお前は座って休んでんの?」
立って警備をしている俺の斜め後ろで、腰を下ろしたレアが退屈そうにこちらを眺めている。
「だって、一緒に警備しないとバッジをくれないっていうんですよ。ケチですよね」
「当たり前だろ…」
あくまで寄生する気満々だったレアに呆れもしたが、長い時間の警備だ、話し相手は居てくれたほうが助かる。それにもし、不審者がいた時も自分一人だと心細いというのもある。レアが役に立つかは置いておいて。
「それにしてもデカイ城だよなぁ、一体どんな王様、王子様、王女様が住んでんだろうな。メイドとかも居たりして」
独り言のつもりだったがレアにも聞こえていたらしい。
「?、何言ってるんです?、ここの王女様ならもう…」
――ガサッ
「ッ!」
何かの物音が耳に入り、俺は道路脇の草むらを見つめる。よく目を凝らしてみるが異変は見当たらない。だが…
「おい!そこのお前!居るのは分かってるぞ!」
これでいなかったら恥ずかしいな…と思いつつ前方の草むらを指差し、牽制の言葉を暗闇に投げかけてみる。
――ガサガサッ
「チッ、新米の兵士かと思ってたが意外とやるじゃねえか」
いかにも賊、といった風体の男が一人、草むらから出てきた。俺が指差した方向とは別のところから。
「まぁな、こう見えても俺は結構やる男だぜ?」
あいつが持ってるのは短剣と…弓か?正直、俺一人でなんとかできる感じじゃないな…よし!
――ピィーッ!
俺はすぐさま応援を呼ぶ笛を吹く。これで数分もすれば駐屯所から兵士が飛んで来るはずだ。
「コイツ…ん?」
賊が俺に向けていた目を若干横に向ける。門の中に何か…?
「ッ!」
俺は賊が見ている方と同じ方を見て戦慄した。そこには女の子が立っていたからだ。
――ニヤッ
賊は顔を歪めると持っていた弓を少女の方へ真っ直ぐ向ける。
どうする…剣で矢を弾く?…無理だろ!
…鎧の部分なら矢が刺さっても大丈夫か?…そんな狙い通りいくか?
賊が引き絞った矢を放つ。
ちょっと待てよもう少し考える時間を…
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
――ドスッ
結局、俺ができたのは賊と少女の射線上に体を割り込ませることだけだった。
体を走る激痛、だが、この痛みが、少女を守ることができた証拠であると思うと、不思議と…
「おい、お前!何をしている!」
警備兵が駆けつけてくれたようだ。よかった、これであの子は助かる…、俺は…どうかな