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黒い陰

 倉庫の大部分を焼き尽くした炎は徐々に収まり、ついには消え去った。辺りは焼け焦げた臭いに包まれ、炎が展開していた場所は真っ黒になっている。


 「ふぅ…大丈夫だって分かってても肝が冷えるなこれは…」


 俺は、火球の中心部だった場所からゆっくりと立ち上がる。その周りには炎が揺らめいている。


 「私もですよ!いくら火が効かないと聞いていても仲間に魔法を撃つなんて…」


 「悪い悪い、けど上手くいっただろ?」


 俺はメイルの方を向き、笑顔を見せる。


 「それは確かに上手くいきましたよ…」


 「まぁなんにせよこれで…」


 「…嬉しそうね。私も混ぜてくれる?」


 後ろからの声に振り向く前に俺は爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされた。


 「なん…で…」


 「自分の周りの空気を爆発させて相殺させたのよ。…それでも死ぬかと思ったわ」


 「ワタル!」


 「うるさいわね…!」


 メイルのいる空間が爆発され、吹き飛ばされて悲鳴を上げる。


 「メイル…!」


 「ここまで気に障ったのは初めて…。楽に死ねると思わない方がいいわ。一本ずつ手足を無くしていってあげる」


 ゆっくりとこちらに近付く。完全に油断していたため、もろに爆発に巻き込まれた俺は床に跪くことしかできなかった。


 「畜生…最初から無理だったってことかよ…お前を倒すのは…」


 俺は呟くように


 「…俺達がお前を倒せてさえいれば…」


 俺へ手を伸ばしたイズリクスの横を雷光が走った。


 「助ようとしていた奴に助けてもらうことなんて無かったのにな」


 そこにはサリアによって拘束具を破壊されたフルストラが立っていた。


 「なっ…!?」


 「迷惑をかけたね。大丈夫、あとは私に任せて」


 「ははっ…そりゃ頼もしいや。時間稼ぎは終わり…ってことで」


 「あら…これはちょっと想定外ね…」


 俺の目の前で光が走った。フルストラが一瞬で近付いており、剣を振るう。


 イズリクスが俺の前から飛び退き、倉庫に積まれた木箱の上に移動していた。寸前で躱していたように見えたが、腹部には剣先が触れたことを示す血痕が残っていた。


 「流石に、何の用意もなく貴方と戦うのは骨が折れるわ。また今度遊びましょう?」


 「…逃がすと思ってるの?」


 「そうね、貴方と一対一だったら到底逃げ切れないでしょうね。けど…」


 ゆっくりと手を上げたイズリクスを見て、フルストラがハッと俺達の方を向いた。


 「みんな!伏せ…」


 「さようなら」


 倉庫はそれ自体が一つの爆弾だったかのように大爆発した。周囲に建物の残骸を撒き散らしながら轟々と煙を上げる。


 倉庫があった場所にはもはやその痕跡すらない程、無残な瓦礫があるのみだった。


 「ぐっ…皆、大丈夫…?」


 瓦礫の中から姿を現すフルストラ。


 「あぁ、何とかな」


 とは言っても俺が自分で何とかしたんじゃない。俺の周りを、いや、俺達全員の周りを覆っている半透明の壁のおかげだ。役目を終え、静かに消える。


 「やれやれ、ギリギリ間に合いましたね」


 レアが魔法を展開していた手を下ろす。


 「レア、助かりましたよ」


 「あぁ、まさか自爆覚悟であんなことをするとはな…」


 「そうだ!イズリクスは!?」


 辺りを見回すが俺達以外に人の気配はない。


 「これくらいで死ぬような奴じゃないよ。逃げられちゃったかな」


 「…そうか…そうだよな…」


 「なに暗い顔してるの?私がこうしていられるのは君達のおかげだよ」


 フルストラが俺の手を取る。


 「本当にありがとう」


 「あ、いや、別に俺は…結局、最後は助けてもらっちゃったしな」


 「うん…やっぱり好きだな。君のそういうところ」


 今回の事件は表沙汰にはしないことになった。指名手配をしないのか、と聞いてみたけど意味がないらしい。それでも、もしこの街で誰かが襲われたりしたらするらしいが。フルストラはそれから、何事もなかったかのようにギルドマスターの仕事に戻っていた。魔物除けの彫像がすぐに自動修復されなかったことを疑問に思う人もいたようだが、笑顔ではぐらかしながらどうにか誤魔化していた。…受付嬢の人には怒られていたが。流石に可哀想だと思った。


 「俺達が知らなかっただけで、今までもこういうことあったのかもな」


 レアに治療を受けながら話しかける。


 「こういうこと、と言うと?」


 「ギルドメンバーに心配かけたくなくてフルストラが背負い込むことが、さ」


 「そうなのかもしれませんね」


 「ギルドマスターってのも大変だよな~」


 「そう言うあなたも似ていますよ。全部背負い込もうとするところが」


 レアが微笑みながら言う。


 「ははっ、確かにそうかもな。じゃあ、レアが半分背負ってくれるか?」


 「嫌ですよそんなの。まぁ…一割くらいなら考えてもいいです」


 「少ねえなぁ…」


 レアはもちろん冗談で言ってる。今までだって俺が助けを求めなくたって助けてくれた。そんな仲間だから俺も助けたい。そう思った俺の心は清々しかったが、一瞬、脳裏に映った黒い魔女の姿が、俺の心にほんの少しの陰を落とした。

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