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認識【挿絵】

 ふとしたきっかけで今まで気が付かなかったことに気付くことって結構あると思う。例えば…


 「なあ、アレ。前からあったっけ?」


 俺が指差したのは街の入口の上にある大きな像のような物だ。丸い形をした彫刻のようだが何だ…?


 「あぁ、あれか?言われてみれば何なのだろうな」


 ほぼ毎日、街を出入りしていた俺だったが今頃になって気が付いた。そして改めて見るとそれは街を囲う壁面の上に規則正しく配置されていた。


 「私も詳しく聞いたわけではないですが、確か、街に魔物が近付かないようにする物だったと思いますよ」


 「へえ、そうなのか。どうりで街の周りにはモンスター達がいないわけだ」


 そんな大事な物に今まで気が付かなかったのは結構間抜けな話だ。まぁ、目立つ必要もない物なのだろうが。


 「よく見ると少し宙に浮いてないか?もしかして魔法で動いてるのか?」


 「そこまでは分かりませんが間違いなくそうだと思いますよ」


 「ん?あそこ…」


 話をしながら何となく球体を眺めていたが、人影が見えた。


 「この上って登れるんだな。暇な時にでも覗いてみるかな」


 「それは出来ないな。修繕の時以外に外壁の上へ登るにはギルドの許可が要る」


 「えっ、じゃああの人は…」


 サリアに向けていた視線を再び戻すと、人影は消えていた。見間違いか?


 「何でもない。さ、依頼の報告して来よう」


 と言っても今回は収集が目的で、小袋に収まる程度の荷物しか無かった。


 「…って、別に全員で行くまでもないか。俺が行って来るから今日はここで解散にしよう」


 三人が頷き、俺はギルドへと向かった。




 「さてと…ささっと報告だけして帰るかな」


 ギルドへと着いた俺はそう言いながら小袋を…


 「あ、あれ?ここに入れたと思ったんだけどな…まさか、途中で落とした!?やべっ、探しに…」


 後方を確認もせずに急に後ろを振り返り走り出そうとした俺は、人の気配に気が付かず、勢い良く誰かにぶつかり尻もちをついた。


 「痛ったた…悪い、考え事してて。大丈夫か?」


 俺は相手の安否を気にしたがむしろ逆だった。倒れたのは俺だけで、相手の女性は普通に立ったままだった。俺は男なのに…情けない話だ。


 「そっちこそ大丈夫?」


 黒い服を着た女性が体を屈め、じっと俺を見た。なんだ?どこかおかしいだろうか。


 「…」


 真っ直ぐに俺の瞳を見つめたまま、俺の顔に手を伸ばし…


挿絵(By みてみん)


 「大丈夫大丈夫!」


 俺は触れられる前に、飛び退くようにして立ち上がった。


 「無事なら良かった。ちょっと探し物してて」


 「もしかして、これかしら?」


 女性が差し出したのは見覚えのある小袋。俺が探していたものだ。


 「それそれ!」


 「さっき落としたのを見かけたの。気をつけないと駄目よ」


 「ああ、これからは気をつけるよ」


 歩み寄って袋を受け取ろうとした俺へ、逆に向こうから近づいてきた。近い。手の届く距離だ。


 「素直なのね。その綺麗な瞳…とっても素敵。それに…」


 女性が俺の心臓の部分を指で触れる。


 「真っ直ぐな心。とても素敵…けど、少し綺麗すぎるわね。もう少し邪を知っていれば、欲しかったかも…」


 「何を言って…」


 話している間、俺は自由を奪われたわけでもないのに、体を動かすことが出来なかった。


 「こっちの話よ。はい、これ」


 俺に触れていた手を放すと、小袋を差し出す。


 「あ、ありがとう…」


 「お礼なんていいわ。報告して来ていいのよ」


 俺は頭を下げて、その場を後にした。得も言われぬ不快感が胸を覆う。彼女の言葉はどういう意味だったのだろう…




 「はい、これ。依頼の品」


 俺はギルドへ入ると、真っ先に受付へ向かい。完了の報告をする。受付嬢が処理をする間、ぼーっとギルドの中を見回していた。


 ギルドの中の喧騒はいつものことだが、その中で目を引くものがあった。黒で覆われた服に黒く長い髪。見慣れぬ姿に目を奪われるはずだが、まるでそこに存在しないかのように、周りの人は彼女に関心を示さない。そのことが無性に気になった。


 そのまま真っ直ぐに階段へと向かう彼女。二階に用事?あそこには…


 「…さん……ワタルさん?」


 「えっ」


 「先程から何度も呼んでいるのですが。どうぞ、こちらが今回の報酬です」


 「ありがとう…」


 このまま報酬を受け取って帰ってもいいのだろうが、どうしても彼女が気になった。


 「さっき、二階に誰か行ったみたいだけど。フルストラのお客さん?」


 「え?聞いていませんが。どなたか行かれましたか?」


 「ああ、女の人が一人上がっていったよ」


 「本当ですか?私も見ていたと思うのですが…間違えて行ってしまったのかもしれませんね。あの、すみません。私は今はここを離れられないので、こちらに来るように声を掛けてきてもらっても良いですか?」


 「もちろんいいよ、ちょっと行って来る」


 俺は足早に、階段へと急いだ。この嫌な予感はなんだ?とにかく早く二階へ行こう。

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