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ありすとてれす  作者: 春乃
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96話 てれすのいない学校

「いってきます」


 いつもと変わらない時間に、わたしはお家から出て登校する。

 天気予報では今日も雨がふると言っていたけど、運がいいことにこの時間帯はまだ降っていなかった。


「今日降らないなら、昨日降らないでよ……」


 てれすがびしょびしょに濡れてしまって、その結果風邪を引いてしまったので、そんな言葉がつい口から出てしまった。

 そのてれすだけど、果たして今日は学校に来るだろうか。保険の先生は、明日つまり今日はさすがに無理で、今週中には復帰できると言っていたけど、どうだろう。登校中にてれすと会ったことはないから、たぶん学校に行ってからじゃないとわからない。


 さすがに昨日の今日では無理かな。そう思いつつ、雨に降られることもなく学校にやって来た。わたしの登校時間は少し早めの時間なので、まだ人はあんまりいない。

 靴箱で上履きに履き替えて、自分の教室へと向かう。教室の扉を開けると、この時間にはあまり見ることがない山中さんの姿があった。山名さんがわたしに気づく。

 

「あ、最上さん。おはよ」


「おはよう、山中さん。今日早いね」


「いやー、今日わたし日直なんだよね」


「そうなんだ。大変だね」


「うん。あ、そういえば、高千穂さんはやっぱり休み?」


「うーん、わかんない」


 わたしがそう答えると、その回答が意外だったらしく、山中さんは少し驚いたような表情を浮かべた。


「あれ、最上さんも知らないの?」


「え? うん」


「そうなんだ。てっきり最上さんは高千穂さんから連絡もらってるかと思ってた」


「どうして?」


「どうしてって、最上さんと高千穂さん、すごく仲いいから」


 山中さん、というか他の人にそう見られているとは思ってもいなかった。たしかにてれすと一緒にいることは多いけど、そう認知されるほどだったとは。山中さんだけでなく、他の人たちからも、わたしとてれすは仲がいいって思われているのだろうか。だとしたら、なんだか嬉しい。

 しかし、わたしとてれすは昨日から電話どころかまったく連絡をしていない。


「実は昨日から連絡してないんだ」


「え、そうなの? なんで?」


「んー、迷惑かなって」


「えー、迷惑じゃないよ」


「そうかな?」


「そうだよ……って、ヤバ! 日直の仕事しなきゃ!」


 山中さんは壁にかかっている時計を見て、慌てて声を出した。

 ショートホームルームまでにはまだ時間はあるけど、それまでにしなければならないことを考えると、ギリギリかもしれない。


「ごめんね、山中さん」


「ううん、大丈夫大丈夫。じゃあね」


 問題ないよと山中さんは言いつつも、大慌てで教室を飛び出した。

 その背中を見送って、わたしは自分の席に移動して腰を下ろす。


 それから時間が経過するとともに、生徒たちが増えていって活気があふれていくけど、てれすが現れることはなかった。

 チャイムが鳴ってショートホームルームが始まっても、てれすは教室にやってこない。やぱり、休みなのかもしれない。

 そしてその推測は、担任の彩香ちゃん先生が連絡事項を述べて、確実なものへと変わった。日直の山中さんの掛け声で起立礼をして、彩香ちゃん先生が連絡を始める。


「はい、まず連絡だけど、高千穂さんが風邪でお休みです。みんなも気を付けてね?」


 今日はてれすがこないことが確定して、隣のてれすの席を見た。

 授業をまじめに受けているかどうかはおいといて、いつもいるてれすがいないのはすごく寂しい。


 だけど、普段通りに授業は進んでいって、お昼休みになった。いつもはてれすと食べているから、どうしよう。今日だけ他の子のグループに混ぜてもらうのは、迷惑だろうか。そんなことを考えていると、前方から声をかけられた。


「最上さん」


 顔を上げると、そこにいたのは高井さんと赤川さん。二人の手には、お財布が握られていた。


「どうしたの?」


 わたしが首をかしげて尋ねると、赤川さんが笑顔で答える。


「今日さ、一緒にご飯食べない?」


「いいの?」


「もちろん。って、高井が提案したんだけどね」


 赤川さんにそう告げられて、高井さんは「ちょっと」と赤川さんのことを小突きつつ、わたしに笑顔を向けた。


「そういうわけだから。さ、いこ?」


「う、うん。ありがとう」


 お礼を言いつつお弁当を用意して立ち上がると、赤川さんは首を振る。


「気にしないで。高千穂さんがいないから今日は寂しいよね」


「うん」


 まさか二人にさそってもらえるなんて思ってなかった。けど、すごく嬉しい。

 こうして、わたしは高井さんと赤川さんと一緒に学食へと向かった。


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