95話 心配と連絡
てれすが心配ないと言うし、あのまま保健室にいてもわたしにできることはないので、わたしはおとなしく教室に戻った。
そして放課後。てれすが戻ってくることはなくチャイムがなって、みんな部活や帰る準備を始めた。わたしも帰る用意をして、カバンを肩にかけて立ち上がる。階段を下りて、靴箱へと向かっていたはずだけど、足は自然と保健室の方向へ向かっていた。
……もしかしたら、まだいるかも。
そんなことを思いつつ、保健室の扉をノックする。「どうぞ」という返事が聞こえたので、扉を開いた。また保健室にやって来たわたしに、先生は微笑む。
「あら、最上さん」
「あの、てれすは」
「高千穂さん? 高千穂さんなら、さっきお母さんが迎えに来て帰ったわよ」
「あ、そうなんですか……」
家には誰もいないと言っていたけど、安心した。寝るだけなら学校でもできるけど、やっぱり病院に行って、自宅でゆっくりと療養するのが一番だと思う。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ? 明日はさすがに無理かもしれないけど、今週中には治って学校にも来られるようになるわ」
「はい。そうですね」
たしかに先生の言う通りだ。だいだい、保健室に来てどうするつもりだったのだろう。てれすがいても、わたしにできることなんてないのに。
あとはてれすの両親に任せて、わたしは待つことにしよう。そうだ、てれすの分のノートもとっておかなければならない。
よしっとうなずいて、わたしは先生にあいさつする。
「じゃあ、今日はいろいろとありがとうございました。さようなら」
「いいえ。最上さんも風邪には気を付けてね? さようなら」
保健室をでて、わたしは帰路についた。
それから帰宅したわたしは、自分の部屋で携帯とにらめっこしていた。画面には「高千穂てれす」の文字が映し出されている。
通話のボタンを押そうかどうか少しの間悩んで、ため息をつきながら指を画面から離す。
「やっぱり、迷惑だよね……」
今頃てれすは寝ているだろうから、さすがに電話をするのはダメだろう。寝ていなくてもあまり常識的ではないような気がする。風邪とかは寝て身体を休めることが一番大事だと思うので、電話は絶対ダメだ。
それなら、連絡でメッセージを送るくらいはいいかな……。
でも、てれすのことだからわたしが連絡したら、わたしを安心させるために電話をくれそうだ。
先生も風邪って言っていたし、ここで無理をさせるのが最もよくないことだろう。このせいで一日でもてれすが学校に来るのが遅くなるのは嫌だ。できるだけ早く元気になってもらいたい。
「よしっ」
とにかく我慢だ。
携帯の電源を切って、机の上に置く。
すると、そのタイミングで一階にいるお母さんに名前を呼ばれた。
「ありすー? ご飯よ」
「はーい! すぐいくー」
短く息を吐いて、わたしは腰を上げる。そして、階段を下りて、夕食のためにダイニングへと向かった。




