92話 小テストの名前
その後もてれすはいつもと同じように授業を受けていた。艶やかな黒髪を耳にかけて板書をして、先生に問題を当てられたら見事に答えて見せる。まさにさすてれだった。
しかし3時間目。
「よーし、じゃあ今から小テストするわよー」
科学の教科担任の先生が、突如としてそんなことを言った。完全に抜き打ちテストだ。
そうはいっても、いままでにやってきたことの復習だろうから、多分大丈夫だと思う。てれすももちろん大丈夫だろう。
てれすのほうを見ると、てれすはただぼーっとしていた。
てれすの前の席の子がテスト用紙を配ろうと、やや遠慮がちにてれすに差し出しているがまったく気がついていない。
「てれす、前」
「……え?」
わたしが声をかけると、てれすははっと我に返った。謝りつつ。前の子からテストを受けとる。
窓の外を見ていたのなら、いままでに何回かあった。けど、今回はそういうわけではなくて、ただぼーっとしているように映った。今朝のことがあるので、どうしても心配になってしまう。
テストが始まる前に、てれすにもう一度確認する。
「てれす、ほんとに大丈夫なの?」
「ええ。問題ないわ」
「ほんと?」
「ええ」
「それならいいけど……」
なんだか腑に落ちない。もやもやとした気持ちを抱えつつテストを解き始める。
少しして、わたしよりも先に隣のてれすが解答を終えたようでペンを置く音が聞こえた。今日のてれすは変な気がしていたけど、これはいつも通りだ。やっぱり、心配しすぎなのかもしれない。
わたしも解答を終えて、見直しをゆっくりとしてからペンを机上に置く。
それから制限時間となって、腕時計を見ていた先生がクラス全体に聞こえるように言う。
「はい、そこまで。後ろから前に回してきて」
小テストとはいえ、テスト特有の緊張感から解放されて、教室からため息が漏れる。後ろから前の人へとテストは渡って行き、一番前の人から先生に渡された。
先生は教卓で、集められたテストを確認していく。と、その作業の途中で先生の手が止まった。
「あら、誰か名前を書くのを忘れてるわよ」
そう言って先生は、誰が名前を書き忘れたのかを具体的に探していく。列ごとに集められたから、前後を見ればすぐにわかるはずだ。
問題を解くことに集中しちゃって、名前を書き忘れるのは、たまにあることだ。わたし自身は経験したことないけど、3,40人もいれば起こることだろう。
「山中さんの列だから……あ、高千穂さんね」
先生に名指しされて、てれすは驚きの表情を浮かべる。もちろんわたしもびっくりしている。てれすが名前を書き忘れるなんて、今までなかったのだ。てれすも信じられないようで、首をかしげる。
「……わたしですか?」
「うん。はい、書きに来て」
「はい」
先生に促されて、てれすは前のほうへと足を進めていく。そして先生からペンを借りてテストに名前をさっと書いて戻って来た。その足取りは、なんだか頼りなさげというか、若干ふらついているようにも見える。
しかし、先生や他の生徒が気づくことなくてれすは自分の席に座った。それを確認して、先生は教卓に戻りながら口を開く。
「皆さんも気を付けてくださいね。中間テストや期末テストだったら、0点になりますからね」
たしかに、小テストでよかったとは思う。でも、それ以上にてれすのことが心配だった。どう考えても、てれすは体調がが悪いのに強がっているようにしか見えなくなっていた。




