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ありすとてれす  作者: 春乃
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91話 てれす、大丈夫?

 急ぎ足で階段を上って、教室の扉を開ける。黒板の上の壁に設置されている時計を見ると、ショートホームルームまであと3分ほどだった。教室にはすでにほとんどの生徒……というかわたしとてれす以外はみんないるかもしれない。


 てれす、大丈夫かなぁ。

 そんなことを思いつつ、自分の席に行ってカバンを置く。この時間はいつもてれすは来ていないから、隣のてれすの席が空いているのは見慣れた光景だ。だけど、今日はそのことがすごく心配に繋がってしまう。


 席に座って少しして、担任の彩香あやかちゃん先生がやって来た。教卓にプリントの束を置いて、わたしたちのほうに顔を向ける。


「よし。それじゃあ始めましょうか」


 先生の言葉で、今日の日直の生徒が「起立、礼」と声をかけた。

 梅雨だろうと雨が降っていようと変わることのない「おはようございます」と元気よくあいさつをして、先生はまず点呼を始める。


「えーっと、全員――」


 先生は廊下側から視線を送っていき、窓側のわたしやてれすの席がある列を見て首をかしげた。


「あら? 高千穂たかちほさんは?」


 4月の始めのほうは、てれすがいなくてもサボりということで、先生も特には誰かに尋ねることはなかった。しかし、遅刻こそはするものの、わたしと友達になってからてれすはズル休みをしていない。特に最近は遅刻することも少なくなってきていた。


 それだけに、少しだけ教室がざわつく。

「またサボりかしら?」なんて悪いうわさが流れないように、てれすのことを説明しないと。わたししか、てれすがびしょびしょになっていたことを知らないので、当然のことだ。


「保健室にいます」


「保健室? 体調が悪いの?」


「あ、いえ。雨でびしょ濡れになっていたので」


「そうなのね。ありがとう、最上もがみさん」


「はい」


 しれならしかたない、と先生は納得して連絡事項を始める。

 ……それにしても、てれす遅いなぁ。あれだけびしょびしょだったから、着替えるのに時間がかかっているのだと思う。けど、まさか、本当に体調を崩してしまったのだろうか。


 結局、先生の連絡事項や保護者あての授業参観のお知らせプリントが配られても、てれすは教室にやってこず、ショートホームルームは終わった。

 

 てれすの分のプリントをてれすの机の中に入れて、教室の扉を見る。すると、ちょうどそのタイミングで扉が開かれて、てれすが入って来た。

 ショートホームルームが終わっておしゃべりをしていたクラスメイト達は一瞬てれすのほうに視線を集めたけど、すぐに談笑に戻る。てれすが不真面目で話しかけにくいという印象は少しずつ改善されたとは言っても、クラスに溶け込むのは先のようだ。

 扉までの距離がある分、高井たかいさんや山中やまなかさんも声をかけにくいのだろう。


 そんなことは気にした様子もみせずに、てれすはわたしの隣の自分の席にやって来る。


「てれす、大丈夫?」


「ええ」


 うなずくてれすの髪はさらさらとしていて、保健室で借りた制服はからっと乾いていた。

 そのことに安堵していると、てれすはカバンを置いて席に座った。そして、


「くしゅん」


「てれす、ほんとに大丈夫?」


「ええ。問題ないわ」


「そう?」


「ええ」


 まぁ、くしゃみをすることくらいは誰にでもあることだし、本人であるてれすが大丈夫と言っているから大丈夫なのだろう。

 雨に濡れていただけに、すごく心配してしまう。


「ありす、1時間目はなんだったかしら」


「日本史だよ」


「日本史ね。ありがとう」


「いえいえ」


 このあと、1時間目が始まるまで、てれすと話をしていたけど、普段通りに見えた。よかった、よかった。やっぱり、変に心配しすぎていたみたいだった。

 日本史の授業が始まったので、ほっと息を吐いて、先生の話に耳を傾けることにした。


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