9話 二人のランチタイム
「てれす、お昼どこで食べるの?」
廊下を歩きながらわたしは訊ねる。
「屋上のつもりよ」
屋上か。てれすは、今パンを持っているけど、わたしのお弁当は教室にある。先に行っててもらおう。
「わたし、お弁当とってくるから、先に食べてて」
「ええ、わかったわ」
わたしの言葉にてれすは頷く。
上へと続く階段で、いったんてれすと別れ、教室へと急ぐ。
屋上でお弁当を食べたことはないんだよなぁ。きっと気持ちいいはず。
そんな風に考えながら教室へと戻る。そして自分のお弁当を確保すると、今度は屋上へと急ぐ。
が、途中クラスメート3人に声をかけられた。
「あの、最上さん? よかったらお昼いっしょに……」
嬉しいお誘いではあるが、あいにく今日は先約がいる。
「ごめんね、今日は他の子と食べるんだ」
「いえ、気にしないで」
申し訳ないけど、こればかりは仕方ない。5人で食べる、というのも手ではあるけど、てれすは絶対に嫌がるだろう。
わたしはお誘いを断り屋上へ向かった。
ここで、話しかけたんだっけ。と、階段を小走りで上る。
息を少し切らしながら進み、やっと屋上へ通じる扉が見えてきた。
そして走っている勢いそのままにバタンッ、と扉を開け放つ。
「ごめん、てれす! 待った?」
開放的な空間が広がる屋上に出ると、すぐ近くにせき込むてれすの姿があった。
「げほっ。あ、あなた、急に……ぐっ、や、焼きそばが……げほっげほっ……」
てれすは、サボりのとき寝ちゃったあの位置、扉の近くの日影で焼きそばパンを食べていたらしい。
……これは申し訳ないことをしたなぁ。そう思い、苦しむてれすの背中をバシバシ叩く。
わたしの援護もあり、てれすはなんとか焼きそばとの戦いに勝利を納める。……かなり疲弊していたが。
「はぁ、はぁ……。あ、ありがとう……」
ぐったりとてれすがお礼を言う。
ふむ、ここは1つ冗談で元気を出させますか。
「てれす、鼻から焼きそばが」
「えっ、嘘!?」
慌てて自分の鼻を触るてれす。
しっかり引っ掛かってくれて、嬉しいなぁ。
「冗談、冗談。大丈夫だよ」
わたしが言うとじとっ、と頬を赤らめたてれすがにらんでくる。
「ごめんってば。さ、お昼にしよ?」
焼きそばパンの続きを食べ始めるてれすの横で、わたしもお弁当をひろげる。
今日のメインは、この一口ハンバーグだ。
と、そのハンバーグをてれすが横からじーっ、と覗き込んでくる。
「……それ、ちょうだい」
やはりそうきますか。しかし、てれすは見た目以上によく食べる。
焼きそばパンの謝罪も兼ねて、わたしは箸でハンバーグを1つつかむんでてれすに差し出す。
「はいどうぞ。あーん」
えっ? とてれすは一瞬止まったものの、すぐにわたしの意図を理解したらしく、口を開ける。
「あーん」
「どう? 美味しい?」
「美味しいわ」
もぐもぐと咀嚼し、てれすは答える。
それはよかった。
では、わたしもいただきますかな。
いただきます、と小さく呟いてわたしもハンバーグを口にする。
もぐもぐ……。
「うん、美味しい」
さすが、ハンバーグである。
おもわずハンバーーーーーーグ! と叫ぶところだった。
それにしても、ハンバーグとご飯の相性は最高だ。
ハンバーグの肉汁とデミグラスソースの2つがご飯に絡んでお味抜群である。
うーん、幸せぇ……。