87話 友達なわけだし……
「は~、お腹いっぱい」
さくっとジューシーだった鶏のから揚げ定食を食べ終えて、わたしは満足の息をつく。前に座っているてれすも和風ハンバーグランチを完食したようで、紙ナプキンで口を拭いていた。それからてれすはコーヒーを一口、優雅に飲む。
「ねぇ、てれす?」
「ん?」
「てれすってコーヒー好きなの?」
「そうね、嫌いじゃないかしら」
「なんかすごいね。わたし、コーヒーってあんまり好きじゃなくて。ほら、苦いし」
砂糖とかミルクをたっぷり入れれば飲めるけど、そこまでするくらいならわたしは炭酸飲料を飲みたい。わたしが言うと、てれすは謙遜するように首を横に振る。
「すごくないわよ。別にこれ、ブラックではないし」
「でもかっこいいよ。なんていうのかな、大人っぽい」
「そ、そうかしら」
「うん」
てれすは少し照れたように頬を染めて視線をそらす。まぁ、こうおうところがあるから、大人っぽくてもてれすはてれすだ。そう思って、ニヤついてしまうのをてれすに悟られないように、わたしはメロンソーダを飲む。
それから少しおしゃべりをして、ふとスマホで時刻を見ると、それなりに時間が経過していた。お昼を過ぎた時間にご飯にしたから、お客さん自体はそんなに混雑していないけど、あんまり長居するのもあれだろう。
「てれす、そろそろ帰る?」
「そうね」
てれすも自分のスマホで時間を確認してうなずく。端っこに置かれていたお会計伝票を持って立ち上がると、てれすがわたしの服の袖を引っ張った。
「ありす、お金はわたしが」
「え、いいよいいよ。今日はわたしに付き合ってもらってるわけだし」
てれすと一緒に休日を過ごせたというだけでわたしは満足だ。てれすの時間をもらっているわけだし、てれすにお金を払ってもらうわけにはいかないだろう。しかし、てれすはわたしの言葉に不服そうにほっぺたを膨らませていた。
「その言い方、なんか嫌だわ」
「へ?」
「別にわたしはありすに付き合ってるわけじゃないもの。わたしはわたしの意思でありすと一緒に映画を観たいと思ったし、そんなに気を遣ってほしくないわ」
「……」
「だから、そんなのは公平じゃないっていうか、おもてなしみたいなことは嫌。わたしとありすは一緒っていうか、同じっていうのかしら、と、友達なわけだし……」
……てれすの言う通りだ。少しでもてれすに楽しんでほしかったという気持ちは嘘じゃない。でも、気を遣いすぎていたのも事実だ。なんでだろうか、てれすに嫌われたくない、離れていってほしくないから自然とやってしまったのかな……。てれすはそんな子じゃないって、他でもないわたし自身が一番知っているはずなのに。てれすは嫌だったら嫌ってはっきり言ってくれるだろう。
「ごめん、てれす」
「いえ、わたしのほうこそ偉そうにごめんなさい」
「ううん、そんなことない。それじゃあ、てれすに甘えちゃってもいいかな?」
「ええ、任せて」
てれすは嬉しそうにうなずいて、自分の胸に手を当てた。それからてれすに伝票を渡して、レジへと向かう。てれすがお会計を済ませてくれて、お店を出る。
「それじゃあ、帰ろうか」
「ええ、そうね」




