85話 美月ちゃんと妹
「面白かったね」
「ええ、とてもよかったわ」
映画を観終えて、わたしとてれすは感想を言いつつシアターから出て、フロントへと戻ってきた。映画はほんとに面白くって、感動した。それに、てれすも楽しんでくれたようで、ほんとによかった。
ポップコーンもてれすが一緒に食べてくれたから、お腹いっぱいになっていない。いい感じに空いている。
「てれす、ご飯に――」
行こうか。そう言おうとしたとき、わたしを呼ぶ声でわたしの言葉は遮られた。
「あ、最上先輩!」
声のした方に振り返ると、そこには美月ちゃんが手を振っていた。わたしとてれすのほうに駆け寄って来る。
「美月ちゃん」
「はい。最上先輩も映画ですか?」
「うん。てれすと一緒にね」
わたしが言うと、てれすはペコッと小さく頭を下げる。どうやらてれすと美月ちゃんは、まだ仲良くなれそうにはないみたいだ。ぎこちないてれすに苦笑いを浮かべつつ、美月ちゃんのほうを見ると、美月ちゃんの隣にぴったりとくっついている小学校低学年くらいの女の子がいることに気がついた。
「あれ、美月ちゃんその子は?」
わたしがニコッと微笑みかけると、女の子は美月ちゃんの後ろに隠れるようにして、顔だけをこちらにのぞかせる。まぁ、知らない人に話しかけられたわけだから、人見知りというか、そういう反応になるのもしかたないだろう。とても可愛らしい。
「えっと、わたしの妹です。ほら、あいさつして?」
美月ちゃんに妹がいたとは初耳だ。でも、言われてみるとどことなく二人は似ているような気がする。美月ちゃんに促されて、美月ちゃんの妹はもごもごと伏し目がちに言葉を発する。
「ふくはらみおです」
「美央ちゃん。何年生?」
「三年生です」
「そっかぁ」
とても可愛らしい。
「美月ちゃんと美央ちゃんは、これから映画?」
「はい。美央がどうしても見たいっていうので」
「そういえば、美央ちゃん学校は?」
「美央は土曜日運動会だったから、今日は休みなんです」
「そうなんだ」
美月姉妹と話をしていると、不意にわたしの服の裾が引っ張られた。
「てれす?」
どうしたのかと思っててれすを見ると、てれすは口をつまらなさそうにとがらせて、ちらちらと目配せする。
「いえ、その……」
てれすはとても言いにくそうに、視線を泳がせながらもごもごと言う。あ、わたし、美月ちゃんと話しすぎたかもしれない。そう思って、美月ちゃんに尋ねる。
「美月ちゃん、時間大丈夫?」
「あ、ほんとだ! すみません、じゃあこれで」
「うん。じゃあね、美月ちゃん、美央ちゃん」
「はい、また学校で」
美月ちゃんと、小さく手を振る美央ちゃんに手を振って、わたしとてれすは映画館を後にした。ご飯屋さんが並んでいるエリアに向かいながら、どこで食べようかてれすに質問する。
「てれす、何食べる?」
「……」
しかし、てれすは聞こえていないのか返事をしてくれない。それに、なんだかてれすの歩くスピードが速い気がする。
「てれす? てれす、待ってよ」
てれすの横に並ぶように、少し駆け足で隣まで行く。てれすはふくれっ面だった。
「てれす、どうしたの?」
「だって、ありすが……」
「え、わたし?」
「ええ。またあの子と仲良くしてたから、わたしはどうでもいいのかって思っちゃって」
美月ちゃんとお話をしていたことが、あんまりよくなかったらしい。うーん、たしかにご飯に行こうねって話をてれすとはしていたし、一緒にいたのはてれすなのに、そのてれすを置き去りにするようにして話をしてしまったかもしれない。
「てれす、ごめんね」
「――て」
「え?」
てれすはほっぺたを赤く染めて、立ち止まってか細い声で言う。
「なでて」
「う、うん。よしよし」
てれすのさらさらの髪をよしよしとなでる。さっき美月ちゃんの妹の美央ちゃんを見たからか、てれすがわたしの妹になったみたいだ。なんだかおかしくって、笑ってしまう。
「もういい?」
「もう少し」
「うん。よしよしよし」
「……ありがと」
「ううん。わたしこそごめんね」
てれすも機嫌を直してくれたので、お昼ご飯を食べるご飯屋さんを探すことにした。




