8話 お昼を買いに
4時間目終了を告げるチャイムがなる。すなわち、お昼休みがやって来た。と、同時に前の方からてれすがわたしのところへやってくる。
「さ、いきましょ?」
すごく楽しみにされていたらしい。
パンを楽しみに待つてれす。そのことに少し苦笑がこぼれる。
そんなわたしを不思議に思ったのかてれすが首をかしげて聞いてくる。
「どうかしたの? ちゃんと覚えてる?」
「心配しなくても大丈夫だよ」
そう言って立ち上がると、2人で購買を目指し教室を出る。
わたしは屋上で、てれすに授業に戻る代わりにメロンパンをおごる約束をした。
もしかしたら忘れてくれてるかなぁ、なんて思ったけど天才のてれすはそう簡単には忘れてくれない。きっちり覚えていた。
少しの間廊下を歩く。やがて購買が見えてくると生徒の数が増える。
お昼時は生徒でぎゅうぎゅうである。あんまり得意ではないかもなぁ。
そんなことも言ってられないので、人と人との間をすり抜けなんとか商品の近くにたどり着く。
えっと、メロンパン……。
あっ、あった。近くにあってよかったぁ。
メロンパンを確保して満足していたわたしはふと思い出す。
あれ? そういえばてれすは?
人に流されわたしの隣にはいない。そうは離れていないとは思うけどてれすを探す。
てれすほどの美人である。少し見渡しただけですぐに見つけることができた。
綺麗な黒髪だなぁ。さすがてれす。さすてれである。
そう思いつつわたしはてれすの方によっていく。
「てれす~。メロンパンあったよ」
名前を呼ぶわたしの声に反応して、てれすが振り向く。
「そう、よかったわ」
ぐっ、とガッツポーズ。ではなく、てれすの手にはクリームパンと焼きそばパンが握られていた。
「それ、買うの?」
「ええ。さすがにそれだけだと、お腹空くから」
それ、とあごでわたしの待つメロンパンを指す。
てれすは購買で買う派の人間なのだろうか。
ちなみにわたしは弁当派である。毎日お弁当だ。
いつもこんな感じにパンだと、健康とかよくないよね。なんて考えていると、まだパンのお代を支払っていないことに気づく。
「これ、ください」
メロンパンをおばちゃんへ渡し会計をする。すると
「これも同じで」
すっ、と横からクリームパンと焼きそばパンが置かれた。
財布から120円を探していたわたしは思わず声が出る。
「え?」
困惑して、てれすを見る。てれすはワタシの目を見据えると力強く頷く。
えぇ……。それ、なんの頷きなの……。
払えってことなの?
しかし、何はともあれとりあえずお金は払わないといけないので、この場では仕方なく360円を支払う。
「まいど」
明るいおばちゃんの声。
そして当たり前のようにてれすが手を伸ばしパンを受けとる。
わたしが払ったんだけどな……。いや、てれすのパンだよ。結局はてれすが食べるパンなんだけど、なんだかなぁ……。
わたしがあまりに見つめているものだからてれすが目を向けてくる。
そして苦笑する。
「大丈夫よ、ちゃんと返すわ。……たぶん」
あ、これは返ってこないパターンですね。わたしは諦めをつける。
そういえば、てれすはどこでご飯を食べるのだろう。
できれば一緒に食べたい。
教室だろうか。もし、教室以外なら、わたしはお弁当をとってこないといけない。
わたしはパンの入った袋を片手に上機嫌なてれすに聞くことにした。