79話 プリンと明日のおさそい
焼肉パーティーは楽しく進んでいく。
お母さんが基本的にはお肉を焼いてくれるけど、お母さんが食べるときはわたしが焼いたりてれすが焼いたりして、臨機応変に上手いこと役割りをローテーションした。
どのお肉もほんとに美味しい。牛、豚、鶏とそれぞれに違いがあって、まさにみんな違ってみんないいって感じだ。体育祭、さらには買い出しを行ってお腹がペコペコだったとはいえ、わたしもてれすも普通の女子高生なので、やがてお腹がいっぱいになった。
「美味しかったぁ」
わたしが感想を漏らすと、てれすもお腹いっぱいになったようで、お母さんのほうに目線を向けて頭を軽く下げた。
「あの、ありがとうございました。ごちそうさまでした」
「いいえ、どういたしまして。お粗末様です」
お母さんはまだ食べるようで、ホットプレートから野菜を取りながらてれすに返す。てれすはお行儀いいなぁ、なんて思いながら、わたしは自分のお皿をカチャカチャと重ねて、シンクに持っていく。そして、てれすの分も持っていこうとお皿に手を伸ばすと、てれすがわたしの手を掴んで「ありす」とわたしの名前を呼んだ。
「自分でやるわ」
「そう?」
「ええ」
てれすはお皿を重ねて、シンクへと持っていく。てれすがうちのキッチンに立っていることに、なんだか変というか不思議な感じを覚えつつ、わたしは大事なことを思い出した。
まだプリンを食べていないのだ。
てれすの後ろを通って冷蔵庫へと向かって、扉を開く。プリンはさっきわたしが置いた場所と同じところにあった。すぐに見つけて二つ取り出す。
「てれす、プリン食べる?」
「あ、えっと、いただくわ」
「おっけー」
お母さんはお肉を焼いていてくれたから、まだ焼肉を食べているので、お母さんの分のプリンは冷蔵庫に置いておく。プリンを二つ持ってテーブルに戻るけど、スプーンが必要になるので、途中で食器棚に向かう。食器棚の引き出しからスプーン二つ取って、自分の席に帰った。
まずはてれすにプリンを渡す。
「はい、てれす」
「ありがとう」
「はい、スプーン」
「ありがとう」
それからわたしも椅子に座って、プリンのふたを開ける。このふたにくっついている部分も美味しいんだよね。忘れないようにスプーンで取っておかねばならない。
「いただきます」
スプーンで一口すくって、口の中に。
「美味しい!」
甘くて濃厚な味わいが口の中いっぱいに広がる。舌触りのいい滑らかな触感で、すぐに溶けてしまう。一番下に隠れていたカラメルソースのおかげで、甘ったるくなることなく、締まるところはきっちりと締まった絶妙なバランス加減だ。
てれすは甘いもの好きなはずだけど、一応尋ねてみる。
「てれす、どう?」
「美味しいわ」
「よかった。やっぱり、プリンも買っておいて正解だったでしょ?」
「ええ。そうかもしれないわ」
甘いものは別腹とはよく言うけれど、わたしは本当にその通りだと思う。焼肉でお腹いっぱいだったけど、すぐにプリンを完食した。きっとプリンはカロリーゼロだ。
プリンのカップも片付けると、お母さんがわたしとてれすに向かって言う。
「片づけはしておくから、いいわよ」
「あぁ、うん。わかった」
あんまり今すぐに手伝えることはなさそうだし、わたしはてれすをさそって自分の部屋に行くことにした。
「てれす、いこ?」
「え、ええ」
てれすはほんとにいいのだろうか、といった顔をしていたけど、そんなてれすの手を引っ張ってわたしの部屋へと向かった。階段を上がって、先にてれすを部屋に通す。てれすファーストだ。
「あ、そうだ。てれす」
「なに?」
「明日なんだけど、暇だったりする?」
「明日?」
「うん」
明日は月曜日だから普段なら学校だ。だけど、体育祭の振り替えで2日間お休みになっている。もしてれすさえよければ、一緒にどこかに行きたいなって思っていた。今は筋肉痛もあるけど、たぶん大丈夫。若いから今日寝ればなんとかなると思う。
でも、これはあくまでわたしの考えなので、てれすに何か予定があれば無理だし、てれすはゆっくり休みたいと考えているかもしれない。
てれすは少しの間考え込む仕草を見せたけど、すぐにうなずいた。
「ええ、大丈夫よ」
「ほんと?」
確認のため、もう一度てれすに尋ねるけど、てれすは再び首肯する。
「ほんとよ。でも、なにするの?」
「映画でもどうかなって。チケットがたまたま2枚あるの」
本当に偶然、お父さんが貰ってきたものだ。詳しい内容は知らないけど、最近流行している映画らしい。
「……いくわ」
「やったぁ!」




