76話 プチお菓子パーティー
買い出しを終えて、わたしとてれすはお家に帰って来た。
「ただいまー」
「お邪魔します」
玄関で靴を脱いで、今度こそてれすもお家の中に入る。前回もそうだったけど、やっぱりてれすは几帳面に靴の向きを整えてから、リビングへとやって来た。そのまま買い物袋を持って、キッチンへと向かう。
「ありす、てれすちゃんおかえり」
キッチンで野菜の下ごしらえをしていたお母さんの横を通って、わたしは冷蔵庫へと向かった。てれすから受け取ったお肉やプリンを冷蔵庫のわかりやすいところにしまう。お菓子はお腹が空いているのでてれすと一緒に少しだけ食べようと思い、レジ袋に入れたまま持っていく。
「よし。それじゃあてれす、向こうで少し遊ぼー?」
「え、ええ」
我が家の夕食の時間まではまだ少しあるし、お母さんの準備もまだ終わりそうにないので、てれすをさそって、リビングに戻ろうとした。が、その途中。お母さんの近くを通った時、お母さんに呼ばれた。
「ちょっと待ってありす」
「へ、なに?」
「それなに?」
「それって?」
「今ありすが手に持ってる袋」
「え、これ? お菓子だけど」
お母さんが何を言いたいのかがわからず、わたしは首を捻る。そんなわたしを見て、お母さんは短いため息をついた。
「お肉がないからお肉を買ってきてって言ったはずよね?」
「うん」
「じゃあ、それはなに?」
「あぁ……まぁ、ほら。ついね?」
「もう……。てれすちゃんと仲良く食べるのよ」
「はーい」
もちろん最初からそのつもりだ。
「てれす、いこ?」
「ええ」
うなずいたてれすを連れて、わたしはダイニングキッチンを出て、わたしの部屋に行くことにした。一時間もしないうちに晩ご飯になるから、ここに近いリビングで遊ぼうと思ったけど、お母さんの近くだとなんだか恥ずかしいのでわたしの部屋にした。
階段を上ってわたしの部屋を目指す。てれすがわたしの家、部屋に来るのはこれで三度目だ。ドアをガチャッと開けて、てれすを招き入れる。レディーファーストならぬ、てれすファーストである。
「どうぞどうぞ」
「ありがとう」
てれすは中に入って、テーブルの置いてあるすぐ横にちょこんと正座した。わたしもてれすの正面に座って、てれすに苦笑いする。
「あの、そんなにきっちりしなくても。もっとリラックスして?」
「えっ、あ、そうね」
わたしに指摘されて、てれすは足を崩す。てれすは真面目だなぁ。そう思いながら、わたしは袋からラムネを取り出して、てれすに一つ渡す。
「はい、てれす」
「ありがとう」
わたしも一つ口に含む。もぐもぐ……。
ラムネの爽やかな味が口の中に広がる。でも、このままだと口の中で溶けて美味しいだけで終わってしまうので、ラムネをくわえて、それを吹いた。
ピー、ピー。
ラムネの楽しい音が部屋に響く。
「てれすはやらないの?」
「や、やったほうがいいかしら……」
「うん。楽しいよ?」
「そうね……」
わたしが促すと、てれすは少し恥ずかしそうにしながらも、ラムネをわたしと同じようにくわえて息を吹き込む。
ピー。ピー。
てれすが奏でる音に合わせて、わたしも音を出す。そして、ある程度経って飽きてきたら、ラムネを噛んで飲み込む。何度かそれを繰り返して、他のお菓子も食べたくなったので、わたしはレジ袋を探りながらてれすに尋ねた。
「ほかのも食べる?」
「やめといたほうがいいんじゃない?」
「それもそっか。すぐ焼肉だもんね」
「ええ」
てれすの言葉をわたしは首肯して、ガサゴソとしていた手をレジ袋から出した。少し時間は早いかもしれないけど、お皿とかの準備をしていればちょうどいい時間になるだろう。
「じゃあ、いこっか」
「そうね」
わたしとてれすはダイニングキッチンへと向かった。




