73話 他にいるもの
「あ、あれ見て、てれす」
わたしが気になったものを発見して指を差すと、てれすはその方向を見ながら首を捻った。
「なに?」
「ほら、これ」
そのお肉に近寄って、手に取る。パックにはシャトーブリアンと書かれていた。そしててれすに見せると、てれすは驚愕したように声を漏らす。
「え? これ?」
「これも買っとく?」
「ありす? 値段見た?」
「え、見てない」
「それなら、見て?」
「うん」
なんか見た感じが美味しそうだったから適当に言っただけなので、てれすに促されて値段を確かめる。
えっと、いち、じゅー、ひゃく、せん……え?
そのお値段、なんと一万円。
「たかっ!?」
「やめておきましょう?」
「うん、そうする」
普通のスーパーマーケットでは見かけないような値段だった。というか、どうしてここのスーパーマーケットにはこんな高いものが売っているのだろう。それを疑問に感じつつも、わたしはシャトーブリアンをもとの場所に戻す。
「よし。これでお肉は終了だね」
「そうね。次は何を買うの?」
野菜は家の冷蔵庫にあるって、お母さんが言っていたし、あと焼肉に必要なものはなんだろう。あ、たれか。焼肉をする機会なんてあまりなかったから、焼き肉のたれがなかったような気がする。
「次はたれを買おう」
「わかったわ」
うなずいたてれすと一緒に、焼き肉のたれが置いてあるコーナーを探す。ふりかけとか、ドレッシングとかと同じところだろうか。
「あ、お菓子だ」
「え、ありす?」
お菓子のコーナーを見つけたので、そこへ一直線に行こうとすると、てれすが慌てたように声をかけてきた。わたしはてれすの目をしっかりと見て、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「てれす、お菓子買おう」
「たれは?」
「後にしよう」
わたしが言い切ると、てれすは何を言ってもわたしの意思が変わらないと思ったのか、うなずいた。
たれを選ぶ寄り道として、お菓子コーナーに入る。さっきの精肉コーナーはお肉の赤とパックの白しかなかったけど、ここはカラフルだ。見ているだけでなんだか楽しくなってくる。
チョコやキャラメル、ラムネにクッキーなど、色々な種類のお菓子を物色していく。
「あ、てれすてれす」
「どうしたの?」
「これ見て。懐かしくない?」
わたしが見つけたのは笛みたいなラムネで吹けばピーッと音がして楽しいお菓子だった。小さい頃、すごく好きだったのを覚えている。てれすも、わたしが持っているラムネを見て同じようなことを思い出しているのか、うなずいていた。
「これのおもちゃを集めてたわ」
「わたしも! あ、じゃあこれ買っていく?」
「え、でも他にも買うものが……」
「チョコはいるよね」
「き、聞いてない……」
体育祭頑張ったし、優勝もできた。だから、少しくらいはお菓子を買ってもお母さんは許してくれるだろう。てれすの持っている買い物かごに、適当にお菓子を入れていく。懐かしさもあって、テンションがあがっているけど、あまり多くしても食べきれないし、かごが重たくなるとてれすが大変になってしまうので、ある程度で冷静になってやめた。
「よし、こんなもんかな」
「……そうね」
「じゃあ、次こそたれだね」
「ええ」
わたしたちは、お菓子コーナーをあとにして、焼き肉のたれを再び探す。その途中で、てれすがわたしに言う。
「ありす、もう寄り道はダメよ」
「わかってるって」
スーパーマーケットであまり時間を使うと、焼き肉の時間や、そのあとてれすと遊べるかもしれない時間が減ってしまう。
だからわたしは、てれすの言葉にうなずいて焼き肉のたれが置いてあるコーナーに向かった。




