71話 はじめてのおつかい
「てれす」
「なに?」
靴を脱ぐことなく、わたしが玄関で話しかけたので、てれすは不思議そうにわたしのことを見た。それはそうだ。招待されて、家の中に上がることなく買い出しに行くとは誰も思わないだろう。
「来てもらってすぐのところ申し訳ないけど、行こうか」
「へ? どこに?」
「スーパーマーケット」
「……?」
てれすは状況がまったく呑み込めていないらしく、眉をひそめて首をひねる。
「おつかいだよ。おつかい」
「おつかい? もしかして、やっぱりわたしは迷惑だった……?」
てれすは自分のせいで材料が足りなくなっているとか、うちの献立にはなかったけどてれすが来るから奮発しようとしているように見えたのか、申し訳なさそうに目を泳がせる。
「そんなことないよ」
「でも……」
このままではてれすが帰ってしまいそうだったので、わたしはなんとか気にしないように引き止める。わたしからさそっておいて、そんなのは嫌だし、なによりもてれすと一緒に打ち上げがしたい。
すると、わたしとてれすの会話を聞いていたのかお母さんがやってきててれすに言う。
「ほんとに気にしないでいいのよ、てれすちゃん」
「そうだよ。今日はお父さんは仕事で遅くまで帰ってこないし、気にしなくていいよ」
「うん……」
わたしとお母さんの説得で、てれすはようやく首を縦に振った。てれすの気が変わらないうちに、買い出しに再びさそう。
「よし、それじゃあ行こうか」
「え、ええ……」
てれすは少し戸惑っていたみたいだけど、わたしに促されるようにしてうなずいた。てれすの滞在時間はほんのわずかなもので、わたしがてれすと同じ立場でも同じような反応になったと思う。ちょっと申し訳ないと思いつつも、てれすの背中を押して、出発することにした。
「出発!」
「いってらっしゃーい」
お母さんに見送られて、わたしとてれすは玄関から外に出る。近場のスーパーマーケットまでは、歩いて10分くらいだ。全国チェーンってほど大きなお店ではないけど、このあたりの地域に展開されている中くらいのお店である。
てれすとたわいのないおしゃべりをしつつ歩き、スーパーマーケットまでの距離が半分くらいになったところで、てれすがわたしに尋ねてきた。
「ねぇ、ありす」
「なーに?」
「なにを買うの?」
「お肉。焼肉だよ」
わたしがそう答えると、その答えを想像していなかったのか、てれすは「えっ」と驚いた声を零した。
「ほんとにいいのかしら……」
「いいのいいの」
わたしはてれすの腕に自分の腕を絡めて組み、笑顔を向ける。せっかくてれすと一緒に買い物なんだから、楽しくいきたい。
それをてれすも感じてくれたのか、いつものてれすと同じ笑顔で答えた。
「……わかったわ。ありがとう」




