68話 体育祭の帰り道
記念撮影をし終えて、わたしたちは残りの後片付けを行った。てきぱきとみんなで協力して、それもすぐに終わる。一応すべてが終わっていることを彩香ちゃん先生が確認して、集まっているクラス全員に言った。
「はい、みんなお疲れ様。じゃあ今日はここで解散ね」
先生の言葉で、解散する。しかし、みんな着替えないといけないので、教室までは同じだ。みんながおしゃべりして教室に向かっているなか、わたしはてれすを探す。
「てれす」
「ありす、どうしたの?」
「一緒に帰ろ?」
「ええ」
てれすは電車通学なので途中までになってしまうけど、てれすを確保することに成功した。横に並んで一緒に歩く。
教室では、着替えながらみんなが打ち上げの話で盛り上がっている。でも、てれすはきっとそういったことは、あまり好きではないだろう。
靴を履いて玄関を出ると、駐車場から声をかけられた。振り向くと、お母さんが立っている。先に帰ったと思っていたので、どうしたのだろう? とわたしとてれすはお母さんのところへと歩いていく。
「ありす、てれすちゃん!」
「お母さん、なーに?」
「疲れてるでしょ? 乗って帰る? もちろんてれすちゃんも」
わたしたちのことを考えて、待っててくれていたらしい。わたしとしては、筋肉痛がすごいことになっているので、嬉しくてありがたい。てれすに確認するため視線を向けると、てれすは遠慮したようにお母さんに尋ねた。
「えっと、わたしもいいんですか?」
「ええ、もちろん。てれすちゃんを置いていくならありすも置いていくわ」
「えっ?」
わたしとしては完全に車で帰る気持ちになっていたので、思わず声を漏らしてしまった。そして、その反応を見て、てれすは頭を軽く下げた。
「えっと、それじゃあ駅までお願いします」
車が停めてあるところまで三人で向かって、白色の軽自動車に乗り込む。シートベルトをしっかり締めると、車が動き出した。正門から出たところで、わたしはてれすに話を切り出す。
「ねぇ、てれす」
「なにかしら?」
「打ち上げみたいなのしない?」
「打ち上げ? でも、わたしはそういったことはあまり……」
やっぱりてれすの反応はいいものではない。でも、てれすが想像しているのはクラスのみんなとわいわいすることだろう。それをてれすが嫌がるのはわかっているので、わたしがさそいたいのはそうじゃない。
「うちで一緒にやろうよ。お母さん、いいでしょ?」
わたしの質問に、運転しているお母さんはうーん、と少しだけ考える声をあげたけど、すぐに答える。
「いいわよー」
「やった」
すぐにてれすに視線を戻す。てれすはわたしとお母さんの会話を聞いて、申し訳なさそうにわたしに尋ねてくる。
「……ほんとにいいの?」
「いいよ。あ、でもてれすこそ大丈夫? 勝手に決めちゃったけど、うちの用事とかなかった?」
「ええ、大丈夫よ。うちは両親とも仕事で忙しいから」
「そっか、それで体育祭も」
「ええ。でも毎年のことだから」
てれすは何てことないように言うけど、わたしは何も言葉を返すことができなかった。体育祭は毎年、お母さんが来てくれている。お父さんもお休みがとれれば来てくれた。幼稚園の時からわたしにとってはそれが当たり前だった。
「ありす? あまり気にしないで?」
「……うん」
「今年の体育祭はとても楽しかった。今までで一番。それはありすのおかげだし、ありすのお母さんやクラスのみんなのおかげよ」
「て、てれす……。そっか、うん。それならよかった」
それから体育祭のことを、お母さんも交じって話していると、駅に到着した。てれすはお母さんにお礼を言ってドアを開ける。
「ありがとうございました」
「いいえ。どういたしまして」
それからてれすはわたしに言う。
「それじゃ、ありす。また」
「うん。あとでね」
駅に歩いていくてれすを見送って、わたしはお母さんの運転で帰宅した。てれすとのうちあげ、すごく楽しみだ。




