65話 激闘のクラスリレー! 後編
「まかせて!」
てれすからのバトンを、左手でしっかりと受け止めてわたしは走り始める。ふつうに走ったら南山さんには勝てっこない。でもわたしには、みんなが粘ってくれて、てれすがつくってくれたリードがある。
わたしはバトンを右手に持ち変えて、必死に足を前に進めた。わたしがスタートしてすぐに南山さんが追いかけてきたことは、周りの歓声でわかった。
「南山! いけーッ!」
走り終わった北川さんたちが、南山さんに声援を送る。
なんだかすぐ後ろに南山さんが迫ってきているようで怖くて、後ろを振り返ることはできない。わたしにできることは、とにかく前に進むことだけである。
「ありす! がんばって!」
いっぱいの歓声と声援のなか、てれすの応援がはっきりと聞こえた。ちらっと声のほうに視線を送ると、てれすだけでなく、山中さん、赤川さん、高井さんが一生懸命わたしを応援してくれていた。
もうこれはがんばるしかないだろう。
いきなりわたしの足が速くなるということはありえないので、気持ちだけでも負けないように、足を前へ前へと進める。やがて、最後のコーナーを曲がり、ゴールテープが見えてきた。
それと同時に、南山さんがすぐそこまで迫ってきていることがわかった。
歯を食いしばって、ラストスパートをかける。
それでも、ただのクラス委員のわたしとバレー部部長の南山さんでは、距離がどんどん縮まって、南山さんのバトンを持った手が見えた。
残りの距離は少ないけど、逃げ切れるか……。
そしてわたしと南山さんは、ほぼ横一線でゴールテープを切った。
どっちが早くゴールしたのか気になって、審判の先生のほうを向いたけど、それがまずかった。
「あっ……」
足がもつれて、わたしは体勢を崩す。地面がゆっくり、スローモーションのように近づいてくる。
わたし、コケたんだ……あー、痛いんだろうなぁ……。
そんなことを察しつつ、ズサァァァと思いっきり転んだ。
「いたた……」
まさか体育祭で、こんなに派手に転ぶなんて……。いろんなところを擦りむいた気がする。痛い。
「ありす大丈夫!?」
「うん、大丈夫だよ」
てれすと高井さんたちが慌てて駆け寄ってきたので、わたしは安心させようと起き上がって答える。てれすたちに続いて、先生も慌ててやってきて、わたしに声をかけた。
「最上さん、大丈夫?」
「はい、このくらいなら大丈夫で-ー」
す。と言おうとした瞬間に、わたしの身体がふわっと宙に浮いた。いきなりのことでびっくりしたけど、てれすの顔が近くにあることと抱きかかえられた感覚から、てれすにお姫様だっこされていることを理解する。
「てれす!?」
わたしの驚く声にてれすはうなずくと、先生に言う。
「ありすを保健室に連れていってきます」
「そうね。お願い、高千穂さん」
先生も同意して、てれすは保健室に向かってわたしを抱えたまま急いだ。転んだときよりも目立っている気がするのは気のせいだろうか。
「て、てれす?」
「なに?」
「あの、自分で歩けるよ?」
「大丈夫よ。わたしにまかせて」
え、えぇ……。でも、てれすがそこまで言うのなら、てれすにまかせよう。
あれ? そういえば、結果ってどうなったの?
「ねぇ、てれす? わたしたちって勝ったの?」
「さぁ、わからないわ」
「え?」
「先生たちが審議してたみたいだけど」
わたしとてれすが戻ることにはきっと、結果はもう出ているだろう。ものすごく不安だ。
「……たぶん大丈夫よ」
「ほんと?」
「ええ。ありすのほうが少し早くゴールしたように見えたわ」
「そっか……」
今はてれすの言葉を信じるしかない。てれすの言ってる通りでありますように、と祈って、わたしは抱きかかえられたまま保健室にやってきた。




