63話 二人三脚
午後の最初の競技である、部活動対抗リレーを見ながら、わたしたちは入場門の近くにいた。グラウンドでは、陸上部とテニス部が熱戦を繰り広げている。
「うぅ、緊張する……」
「大丈夫よ、ありす」
「てれす……」
そうだよね。わたしとてれすは息ぴったりだったからきっと大丈夫。練習もやったし。
周りには、続々と二人三脚に出場する人たちが集まってきていた。とはいっても、まだ全員ではないのか、結ぶためのひもは配られていない。まぁ、ひもを結んで入場するわけではないからいいんだけど。
「あ、高井さんだ」
グラウンドの部活動対抗リレーは、室外の運動部が終わって、室内の運動部のリレーがスタートしていた。バスケ部の高井さんと、バレー部の南山さんが走っている。
このあと文化部のリレーがあって部活動対抗リレーは終わる。そしたら二人三脚だ。
高井さんのバトンが赤川さんに渡されたのと同じタイミングで、準備の先生がやって来て、二人三脚の説明を始めた。
「はい、それじゃあひもを配ります。まだ結ばないでね」
そう先生は言うと、前の方から順番にひもを配る。
二人三脚は6ペアで直線50メートルくらいを走って順位を決めると言う、とてもわかりやすい競技だ。それだけに、転けちゃったら目立ってしまう。
「はい、最上さん」
「ありがとうございます」
先生からひもを受けとると、そのひもは練習のときに使っていた、赤いひもだった。なんだか運がいいように感じる。
「もうすぐだから、みんな並んで。まだ来てない人はいないわね?」
最後の確認をして、先生はぴっと笛を鳴らす。
『続いての競技は、二人三脚です』
「はい、いくよー」
アナウンスと先生の声で、いよいよ入場となった。先生の案内に、出場する生徒がみんなついていく。
第一レースの以外の人は、スタート位置のストし後ろで体操座りをしてら自分たちの番を待つ。わたしとてれすは3レース目だから、わりとすぐだ。気持ちの準備をしておかないと。
わたしが深呼吸をしていると、てれすにちょんちょんと肩をつつかれた。
「ありす」
「どうしたの?」
「あっちにお母さんが」
てれすに言われた方向を見ると、お母さんが手を振っていた。ではないのか、が教えてくれなかったら、気がついていなかったかもしれない。とりあえず、お母さんに手を振っておく。
「てれす、ありがとね」
「いえ」
「ちょっと緊張が和らいだかも」
さっきまでは、もし転けちゃったら……なんてことを考えていたけど、もう大丈夫。いつもどおりのてれすを見ていたら、そう思えた。
「次の組」
先生に呼ばれ、わたしとてれすを含む、第三レースの生徒がスタート位置について、足首にひもを結ぶ。
「がんばろうね」
「ええ」
てれすがうなずくと、スタート係の先生が、スターターピストルを持つ手を上げて、片耳をふさいだ。
「よーい」
パンッ! 音と同時に走り始める。
「いっち、に! いっち、に!」
そんな掛け声をてれすと掛け合いながら、右、左、右、左と順番に足を前に出す。
おぉ、なんだかすごくスムーズだ。練習のときよりも速い気がする。
わたしたちはそのまま止まることなく、ゴールテープを切った。後ろを見ると、他のどのペアもまだ途中にいる。つまり、ダントツの一番でゴールした。
「やった! やったよてれす!」
「ええ。よかったわ」
ひもをほどいて喜ぶ。すると、てれすが右手を少しだけ上に上げて、少し照れながら口を開いた。
「い、いえーい……」
「いえーい!」
パチーン!
わたしとてれすのハイタッチの音が、歓声のなかに溶けていった。




