62話 家でのありす
「ごちそうさまでした」
お母さんの作ってくれたお弁当を食べ終えて、お茶を飲んで一息つく。隣を見ると、てれすも食べて終わったようで、礼儀正しく手を合わせていた。
「ごちそうさまでした」
「はーい。お粗末さまです」
お母さんはお弁当箱を片付けながら返事をする。
それにしても、てれすが来てくれてほんとによかった。お昼ご飯はてれすがいると仮定して準備してもらったから、かなりの量になっていた。てれすがいなかったら、きっと今夜の最上家の食卓はお弁当の残りになっていたに違いない。
てれすと一緒に食べるとすごく美味しく思えるし、一石が二鳥にも三鳥にもなった気がする。
そんなことを思っていると、てれすがお母さんにまた頭を下げた。
「あの、ほんとにありがとうございました」
「いいのよ~。あ、そうだ。またいつでも家に来てね」
「はい」
「今日来る? いや、いっそのこと今日は泊まっちゃう?」
「い、いや、それは、えっと……」
お母さんは本気と冗談が半分半分くらいで言っていると思うけど、てれすはどう答えればいいのか困っている。
「ちょっとお母さん。てれす困ってるから……」
「あ、ごめんね。でも、ありすもてれすちゃんが来てくれたら嬉しいでしょ?」
「それは、そうだけど」
わたしの返答を聞いて、お母さんはふふっと笑う。
てれす本人が隣にいるから少し恥ずかしい。お茶でも飲もう。
「でしょー? ありす、家でてれすちゃんの話ばっかりだもんね」
……!?
お母さんの言葉に、わたしは口に含んでいたお茶を盛大に吹き出しそうになって、げほげほと咳き込む。
ぐっ、気管にお茶が……。
「な、なんでそんなこと言うの!」
「だって、本当のことじゃない」
「そ、そうだけど……」
たとえそうだとしても、てれすがいるのに。もう、お母さんのバカ!
なんでそれをここで言っちゃうんだろう。恥ずかしいったらありゃしない。てれすのほうをちらっと見てみる。
「……?」
てれすはわたしの視線に、きょとんと首をかしげた。
なにも思ってないなら、それはそれでちょっと寂しいこともないけど、よしとしようかな。
もう一度お茶を飲んでいると、放送が流れた。
『まもなく、午後の部を開始します。部活動対抗リレーと、二人三脚に出場する生徒は、入場門に集まってください』
その放送を聞いて、わたしとてれすは立ち上がる。
「それじゃ、お母さん。わたしとてれすは行くね」
「うん。がんばってね」
「ありがとうございました」
「てれすちゃんもがんばってね」
「はい」
お母さんとわかれて、てれすと入場門をめざす。すると、てれすが「ありす」と尋ねてきた。
「さっきの話なんだけど」
「さっきの話?」
「ええ。ありすがおうちで、わたしの話ばっかりしてるっていう」
い、いまそれについて言及するの……? さすがに恥ずかしい。
「ああああえっと、そうだ! 二人三脚がんばろうね!」
「え、ええ……。それでさっきの話――」
「わ、わー。二人三脚、楽しみだなぁ」
「ありす?」
……うぅ。わかった、わかったよ。うなずけばいいんでしょ! わかりました!
「そうだよ! わたしはおうちでよくてれすのお話をしてるよ! 今日だって、帰ってからするもんね!」
開き直ったわたしに、てれすは一瞬ポカンとしていたけど、すぐに返答する。
「そ、そう……」
「うん」
「なんだか、恥ずかしいわね」
「うん。たぶん、一番恥ずかしいのはわたしだから……」
てれすも恥ずかしいなら、どうしてこの話を掘り返したの……。
「二人三脚がんばりましょう」
「うん!」
結城天です。こんちには。
ありすとてれす62話、読んでいただき
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体育祭午後がスタートです。
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