61話 借り物競争のお題は
午前の部が終わって、楽しいお昼ご飯の時間がやってきた。体育祭のときはいつも、お母さんと一緒にご飯を食べているので約束した場所に向かう。
てれすも誘いたいけど、てれすはてれすでご飯を誰かと食べるのかもしれない。てれすに予定を聞いてみる。
「てれす、誰かと一緒にご飯食べるー?」
「いいえ」
「なら、一緒に食べようよ!」
「え、ええ。……でも、いいの? ありすも家族と食べるんじゃ……」
てれすは一度はうなずいたものの、周りをちらっと見て、わたしに遠慮してか確認してきた。他の子が家族と合流しているから、わたしに気を遣ったのだろう。
「そうだけど、てれすなら大歓迎だよ」
「お邪魔じゃないの?」
「うん。むしろてれすが来てくれないと、最上家の食卓は始まらないよ」
昨日の夜、お母さんにてれすと一緒にご飯を食べてもいいかと聞いたら、笑顔で了承してくれた。
「それなら、お言葉に甘えて……」
よし、てれす確保。2人でお母さんのところへ向かう。
そういえば、借り物競争のお題がなんだったのか、てれすはまったく教えてくれない。
「ねぇ、借り物競争のお題なんだったの?」
「あ、いや。ふつうよ……?」
「友達とかクラス委員とか?」
ふつうっていうのなら、やっぱりこの2つくらいが無難だと思う。でも、ふつうなら別に言ってくれてもいい気がする。
が、わたしの推理は外れたらしく、てれすは首を横にふった。
「いえ、どちらも違うわ」
「え、じゃあなんだろ……」
わたしが必要で、ふつうで友達でもクラス委員でもないもの。
あ、ちょっと待って。さっきから、私は良いほうでしか考えてなかったけど、そっちではない? ってことはまさか……嫌いな人?
「てれす、嫌いにならないで……」
「えっ、どうしてそうなるの?」
わけがわからない、という表情でてれすがわたしに尋ねる。
「お題、嫌いな人とかそんな感じなんだよね……? ごめん、気づいてないところで、てれすを傷つけてたのかも……」
そんなわたしに、てれすは慌てたように手をあわあわと胸の前でふって、否定する。
「嫌いになんて、なるわけないわ」
「……ほんと?」
「ええ。わたしがありすを嫌いになるなんてことは、絶対にない。それに、お題はむしろ逆だし……」
よかったぁ……。嫌われたわけではなかったみたいでほっとひと安心だ。……逆?
「逆って?」
わたしが首をかしげるとてれすはしまった、とはっとした顔になる。そして、これ以上ごまかすのはできないと感じかのか、小さく口を開いた。
「…………な人」
「へ?」
「す、好きな人……」
ぷいっと顔をそらしたてれすのほっぺたが、ほんのり赤く染まる。
……わたしもなんだか気恥ずかしい。でも、嫌われたわけではなかったし、好きと言われて悪い気はしない。
「わたしもてれす好きー!」
「ちょっ、暑いからあんまりくっつかないで……」
「えー? いいじゃん」
「……はぁ」
てれすはため息をついたけど、それ以上はなにも言ってこない。
疑問だったてれすの借り物競争のお題もわかったところで、お母さんと約束した場所の近くまでやって来た。おそらく、この近くにいるはず。
「ありす~! てれすちゃ~ん!」
人混みの中からわたしとてれすを呼ぶ声が聞こえた。きょろきょろと探すと、お母さんが手をふっている。
「お母さ~ん!」
わたしも手をふって、それに返す。
合流すると、てれすがまずお母さんに尋ねた。
「あの、ほんとにわたしもよかったんですか?」
「いいのいいの。それより、さっきの見たわ~。ありすと一緒に、一番でゴールしてたわよね?」
「は、はい……。ありすのおかげです」
「おめでとう! あ、てれすちゃんもリレー出るのよね? がんばってね~。さっ、ご飯食べましょ!」
腹が減ってはなんとやら。体育祭の午後にむけて、しっかり食べてがんばるぞー! おー!




