60話 体育祭開幕!
ついに体育祭当日。天候にも恵まれて、雲一つない快晴で暑い。少しくらいは曇っていてもいいのではと思う。
「てれす、がんばろうね」
「ええ」
そう答えるてれすは、長い髪を一つにくくっていた。球技大会以来のポニーテールなてれす、略してポニてれすである。
いつものてれすも可愛いけど、ポニーテールをピコピコさせているてれすもなかなかいい。
午前10時。保護者の人もたくさん集まって、予定通り体育祭が始まった。入場行進、開会式、ラジオ体操と、みんなでこなしてから各クラスに分かれて、いよいよ競技開始となる。最初の競技はかけっこだけど、わたしもてれすも出ないのでのんびり応援することにした。
パンッと音がして、第一レースがスタートする。始めこそ横一列だったものの、すぐに一人がダントツの早さで抜け出した。涼しい顔で駆け抜けていくのは北川さんだ。やっぱり速い。
「北川さん速いね」
「でも、リレーはチームの連携も大切だから、大丈夫よ」
「そうだね」
てれすの口からチームなんて言葉が出てきたことに驚いたけど、これならほんとに心配はなさそうだ。てれすと高井さんの一件から、わたしたちはいい感じでまとまってきたと思う。これならいけるかも。
そんな会話をしながらかけっこを眺めていると、ふいに後ろから、てれすの名前が呼ばれた。
「高千穂さん、借り物競争の人は入場門に集まれって」
え、てれす借り物競争に出るの? ホームルームで決めたときは、そんなことはなかったはず。が、てれすは、謝りつつ立ち上がる。
「ごめんなさい、忘れていたわ」
「てれす、借り物競争に出るの?」
「ええ。出る予定だった子が、準備の係と重なって出られなくなったから代わりに」
「そうなんだ……」
まったく知らなかった。わたしの知らないところのてれすに、なんだか複雑な気持ちになる。別に、嫌とかそんなんじゃないけど。
「それじゃ、行ってくるわ」
「がんばってね」
てれすはわたしに手を振って、入場門へ向かう。てれすが行ってしまうと、一人になってしまい、ちょっぴり寂しい。
てれすは順調に友達というか、交友関係を広げているみたいだけど、うーん。
「最上さん、隣いいかしら?」
かけられた声のほうを見ると、かけっこを終えた高井さんが汗をタオルで拭っていた。
「うん、いいよ」
「ありがとう」
高井さんは、わたしの隣に腰を下ろすと、おもむろに口を開いた。
「最上さん、ありがとうね」
「え?」
隣に座っていい? のお礼はさっき聞いたし、なにに対してのありがとうなのか、唐突すぎてわからない。わたしが首をかしげていると、高井さんは続けて説明した。
「練習のとき、わたしと高千穂さんがけんかみたいになったでしょ? あれが早く収まったのは最上さんのおかげだから……」
「そんなことないよ。けんかのとき、わたしいなかったし」
「それでも。最上さんがいなかったら、まだわたしと高千穂さんは気まずいままだったと思う」
今グラウンドで行われている競技を見ながら、高井さんは少し照れくさそうに話す。
「そうかな。それなら、どういたしまして」
「うん。あ、見て? 高千穂さんの番みたい」
高井さんに言われてグラウンドを見ると、ちょうどてれすがスタートしたところだった。お題書かれたのカードまで走っていって、拾ったカードを見つめる。そして、周りをきょろきょろと見渡して、わたしと目が合った。
「あれ? 高千穂さん、こっちに来てない?」
「う、うん。お題はなんだったんだろ」
わたしたちのほうに来るということは、わたしたちの近くにあるもの。たとえば、高井さんのタオルとか?
そんなことを考えている間に、てれすがそこまで来ていた。
「ありす、一緒にきて」
「わたし?」
こくっとてれすはうなずく。
お題がなにかはわからないけど、とりあえずてれすと一緒にゴールして、てれすはみごと一番をとった。
わたしってことは、クラス委員とか友達とか、そんな感じかな?
「てれす、おめでと!」
「あ、ありがとう、ありす……」
お題が関係しているのかはわからないけど、てれすはなぜか、ほほを少しだけ赤く染めていた。
結城天です。こんにちは。
読んでくださったみなさま。
ありがとうごさいます。
いよいよ体育祭が始まりました。
借り物競争といえば、学校によって
特殊なお題がありますよね。
てれすはなにを引いたのやら。
では、今後ともよろしくお願いします。




