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ありすとてれす  作者: 春乃
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6話 友達のはじまり

「あなたとは、まだそんな仲じゃないし……」

 

 やっぱりいきなりの名前呼びは断られる。

 諦めません。


「ダメ、かな……。てれす?」

 

 お願いのもう一押しに加えてちゃっかり初呼び。

 ちょっと緊張したの秘密。

 ただ、てれすは表情一つ変えない。いや、怒ってる? ちゃっかり名前で呼んだから?


「やっぱりまだ…………」

 

 二度目のお断り。

 ……こうなったら仕方ない。


「お願い。てれすてれすてれすてれすてれすてれすてれすてれすてれすてれすてれす―――――――」

 

 連呼してみた。

 するとてれすはぷいっ、とそっぽを向いてしまう。

 

 やり過ぎたかなぁ、とてれすに謝ろうとしたけど、てれすの髪の毛の間から見える耳がほんのり赤い。

 怒ってはないみたい。ひょっとして照れてるの?

 てれすが照れる? (だじゃれ)

 ……ごめんなさい。


「もうわかったから……。連呼するのはやめて……」

 

 頬を赤く染めたてれすが弱々しく、観念したように名前呼びを認める。

 どうやらてれすは攻撃は得意でも守りは弱いらしい。

 ……非常に可愛い。

 

 とりあえず、名前呼び作戦は成功。あとは……。


「わたしの名前、呼んでみて?」

 

 てれすはわたしの言葉にえっ、と視線を反らす。

 そして、もごもごと、小さな声でつぶやく。


「…………あ、ありす」

 

 なんか、あらたまって言われるとすごく恥ずかしい。

 わたしはなんと返事をしたものかと、ただ頬をほころばせていると、ちょうどチャイムが鳴った。

 

 えっと、2時間目が終わったのかな? だったらてれすを連れて授業に戻ろう。1時間サボっちゃったけど、いいよね。こうしててれすと名前を呼び合う仲にまでなったのだから十分おつりがくる。


「さ、てれす。授業に戻ろう?」

 

 3時間目から授業に参加し直そうとてれすを誘う。

 が、てれすはなにを言っているの? と不思議そうにわたしを見ている。


「今の、4時間目開始のチャイムよ……」

 

 え? ほんと?


「りありぃー?」


「え、ええ……。なぜ英語……」

 

 マズい。学級委員が2時間連続でサボり。さらに、3時間目に突入した。まさか、わたしクビになっちゃう?

 それだけは、それだけはなんとかしないと……。

 途中からでも教室に戻るしかない。


「てれす! 教室行こう。急いで」


「……いやよ。あなた一人で行けばいいじゃない」

 

 めちゃくちゃ嫌そうな顔をされた。


「頼むよ。あっ、お昼に購買のメロンパンおごるからさ」

 

 ダメもとの物で釣る作戦。

 さすがに無理かなぁ。てれす、そんなのに興味なさそうだし。

 わたしは半ば諦めてかけていたものの、てれすは腕を組んですごく真剣に悩んでいた。

 そして意を決したように口を開く。


「……仕方ないわね。今日だけよ」

 

 釣れた。

 メロンパンでてれすが釣れた。


「うん、ありがと。じゃあ行こう!」

 

 そう言ってわたしはてれすの手をとる。

 ……やっぱり柔らかいし温かいなぁ。

 

 そんなことを考えているとてれすが困惑してわたしに言う。


「ちょっと……、行かないの?」


「あ、ごめん。行こうか」

 

 てれすの言葉で、我に返る。

 

 今回は立場が逆で、わたしがてれすを引っ張って教室へ向かう。

 ……本当にクビだけは勘弁していただきたい。

 

 わたしは今まで何人も友達と呼べる人たちがいたけど、なんだかてれすはその誰とも違う感じがする。

 てれすはとても魅力的な女の子だ。でも、今日みたいに自分から関わりにいかなかったら、たぶん気付かなかっただろう。

 それだけで、この選択は良かったのだと思う。

 ……我ながらずいぶんてれすが気になっているなぁ、と口角が上がる。


 そんなことを思いながら、わたしはてれすを連れて教室へ急いだ。


 

 


 

 


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