58話 てれすと高井さん
てれすが逃げないように手を繋いで、わたしとてれすはみんなが練習しているグラウンドに戻ってきた。さすがに逃げるなんてことはないけど、一応ね。
「あっ、高千穂さん………」
「…………」
てれすと高井さんはお互い目を合わせると、すぐに気まずくなったのか目をそらした。そんなてれすの背中をわたしが、高井さんの背中を赤川さんがぽんっと押す。
押されて少し近づいた二人。少しの間、静かな時間があって先に口を開いたのはてれすだった。
「あ、あの高井さん」
「は、はい」
二人の空気はギクシャクしているというか、見ているこっちが緊張するというか。とても心配になる。がんばれてれす!
てれすはきゅっと拳を握って高井さんに言う。
「その……。さっきはごめんなさい…………」
「ううん。わたしの方こそごめん、高千穂さん」
それから高井さんはわたしに目線を向ける。
「最上さんもごめん」
「へ……? わたし?」
高井さんに謝られた意味が分からず、わたしは首をかしげる。
でも高井さんが「うん、最上さん」とうなずくので、よくわからないけどそういうことみたいだ。
わたしがいない間にけんかになっちゃったから、けんかしてごめんなさいってことだろうか。……ということにして、とりあえず高井さんに返しておく。
「うん、いいよ」
てれすがほっぺたを少し染めていたのが気になるけど、これで問題は解決。一時はどうなるかと思ったよ………。それに、てれすも素直に謝ってくれてほんとよかった。
「それじゃ、練習しよっか?」
わたしの言葉にみんなが「おー!」とうなずく。さ、気持ちを新たにがんばろう。
と、その時。
――――きーんこーんかーんこーん。
「あ…………」
いざ練習というときに、この授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
まさかの出来事にわたしたちは思わず笑ってしまう。
「しかたないし、また明日にしよっか?」
ひとしきり笑ってから、みんなに提案する。体育祭まではまだ時間はあるし、明日からでも十分だと思う。
しかし、そんなわたしの提案にてれすが、首を横に振って言った。
「あ、あの。もしみんながよかったら、放課後に少し練習しない?」
ちらっとみんなの顔色を伺うようにてれすが言う。
あのてれすがそんなこと言うなんて…………、と驚くわたしの代わりに高井さんが返事する。
「奇遇ね、高井さん。わたしもそう言おうと思っていたわ」
「そう? それならよかった」
笑い合うてれすと高井さん。そんな二人を見て、仲直りができてよかっと思う反面、なんだかもやっとした気持ちが生まれた。
くっ、心が狭いぞわたし!
もちろん、この二人の提案にわたしたちも賛成して、このあと練習をすることにした。




