表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありすとてれす  作者: 春乃
56/259

56話 てれすはどこに

 いなくなってしまったてれすを探すため、わたしは校舎のなかを走っていた。ほとんどの生徒がグラウンドで練習をしているので、校舎内はいつもよりも活気がなく、わたしの足音が妙に響く。


「お願いだから、まだ学校にいて………」


 そうつぶやきながら、わたしは足を進める。

 てれすがまだ学校にいるのなら、絶対にそこにいるという自信があるけど、すでに帰っていたらそれはもうどうしようもない。しかも、そうなってしまうと、てれすと高井さんの関係の修復はもっと難しくなるだろう。


 そんな不安を胸に抱きつつ、わたしは階段を上へ上へと上っていった。

 ………そういえば、ここの階段で初めてわたしはてれすとお話をしたんだっけ。あのときはちょっと怖かったなぁ。初めて話したときのてれすと今のてれすと頭のなかで比べて、その変化に思わず頬が緩む。

 今のてれすは授業も出てるし、自分からわたしに話しかけてくれる。そして、なんといっても笑うようになったと思う。まぁ、わたし以外に笑っているとこを見たことがないけど。


 そんなことを考えつつ階段を上り、ついにやってきた。わたしが初めて授業をサボったり、てれすと一緒にお昼ご飯を食べたりした、あの屋上に。


「てれすっ!」


 走ってきた勢いのまま、ちょっと乱暴に扉を開く。

 いつもお昼ご飯を食べていた扉の近くにはてれすの姿はない。それでもてれすがいるとすればここだ。ここにいると信じて屋上を探す。と、


「…………えっ?」


 わたしは自分で、さぁっと血の気が引いていくのがわかった。

 それはそうだろう。てれすが手すりにもたれるように腕をおいて、何か神妙な面持ちで、風に長い黒髪を揺らしていたのだから。


 次の瞬間、わたしは階段を走って上ってきたことも忘れて、てれすに向かって走り出していた。


「てれす、待って!」


 わたしの声にてれすが、驚いた顔で振り向く。そのてれすが何かを言おうとしている気がしたけど、今は気にしていられない。

 とにかく一秒でも速く、てれすのところに行かなきゃ。

 わたしの頬をなぜか涙が伝う。


「ちょっとあり………ぐえっ!?」


「て゛れ゛す゛こ゛め゛ん゛んん! 死なないでぇぇぇっ!」


 思いっきりてれすをぎゅうぎゅう抱きしめると、てれすは苦しそうに声を上げた。


「ありす、え!? なにか勘違いをしているわ! い、痛い………」


「あ、ごめん。……………え?」


 てれすに言われて、慌てて手を離すがわたしの頭は混乱している。

 勘違い?

 顔を上げててれすに尋ねると、てれすは「ええ」とうなずいた。


「わたしはみんなの練習を見ていただけよ。別に飛び降りたりはしないのだけれど…………」


 いつも通りに落ち着いた様子でてれすが説明すると、わたしもようやく頭の中が整理される。


「あ、そうだよね、そんなことしないよね。わたし、なに考えてるんだろ、あはは…………」


 てっきり、わたしがてれすをクラスリレーに誘ったせいでてれすが思い詰めてしまったのかと…………。よかった………。

 安心したからか、わたしは全身の力が抜けてしまって、へなへなと座り込んでしまった。


「…………ありがとう、ありす」


 そんなわたしを、今度はてれすのほうからぎゅっと抱きしめてくれる。そしててれすは、複雑そうな顔をして言いにくそうに、申し訳なさそうに続ける。


「あの………涙と鼻水をどうにかしたほうがいいと思うわ」


「そ、そうだね、ごめん」


 なんだかわたし一人が勘違いして大騒ぎしたけど、てれすを見つけられたし一件落着。あとはてれすと高井たかいさんが仲直りをするだけかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ