54話 なにがあったの?
「どこに行ったのかなぁ………」
4人でバトン渡しの練習をしていると思っていたんだけど、みんなの姿はない。もしかしたらまだ走っているのかもと、練習中の生徒を見てみるも、違うクラスの子だった。となるとやっぱり休憩か。水分補給とかお手洗いとかなら、この近くにいなくても十分にありえうることだ。4人でなにかを一緒に行うくらいに仲良くなってくれたのなら嬉しいんだけど。
わたしはみんなが帰ってくるのを待つことにして日陰に向かう。さすがに日射しが照りつける中ではつらいし、日焼けするのも嫌だからね。
一人で日陰に歩いていくと、近くで南山さんも休憩なのか友達と楽しそうに談笑していた。が、南山さんはわたしの顔を見ると会話を途中でやめて、とても心配そうな顔で尋ねる。
「最上さん、あなたのクラス大丈夫なの?」
南山さんの言葉に、南山さんの友達みんなも心配そうにうなずく。
…………え、どういうこと?
「南山さん、何かあったの?」
わたしが聞くと、南山さんたちは顔を見合わせて眉をひそめる。
「あったもなにも、最上さんあなた知らないの?」
「う、うん。準備でいなかったから」
「そうだったんだ…………。まぁ、たしかに最上さんがいたらああはなってないか」
南山さんは納得した表情を見せて続ける。
「なんか揉めていたわたぶん高千穂さんと他の子が」
「えっ…………。なんでそんなことに………」
「ごめん、詳しいことはわかんない」
まさかわたしがいなくなっていた間にそんなことになっていたなんて………。
てれすが他の子と仲良くなってくれたらいいなぁ、なんて思っていたけどまったく逆の方向に進んでいってしまったのか………。
とりあえず詳しい話を聞かないとなんともいえない。誰が悪いとかは別にいいとしても、いったい何が理由で揉め事になってしまったのだろう。
「あら、最上さんじゃない」
わたしが頭を悩ませていると、ふいに後ろから声をかけられた。振り向くと北川さん、そしてその隣に山中さんがいる。
「山中さん、何があったの?」
「あ、うん………。バトンの練習をしてたら、高千穂さんと高井さんがちょっと言い合いになっちゃって………」
ああ…………、なぜかその様子がすぐにイメージできてしまう。高井さんだけでなく、赤川さんもいないということはバスケ部のほうに行ったのか他の競技の練習をしているのだろう。
となると、わたしはてれすを探さないといけない。
「てれすがどこに行ったか知らない?」
「ごめん、すぐにバラバラになって、わたしも他のやつに行ったから………」
山中さんは申し訳なさそうに首を横に振る。
手がかりなしか………と思ったわたしだったが、山中さんの隣にいる北川さんがあっ、と口を開いた。
「そういえば高千穂さん、校舎のほうに行っていたような」
「え、ほんと!?」
思わず食いぎみに尋ねたわたしに、北川さんは少し苦笑を浮かべてうなずく。
「う、うん。たぶんだけど………」
「ありがとう北川さん。わたし行ってくるね」
お礼を言って、わたしは校舎に走り出す。まさかもう帰った、なんてことはないはず。そう信じたい。
もしてれすがいるとしたら、きっとあそこしかない。
わたしは急いでてれすのところに向かった。




