48話 明日うち来て勉強しない?
お家に帰ると、まっさきにいい香りに迎えられた。わたしの鼻孔をくすぐるこのスパイシーな香りはそう、カレーだ。ちょうどカレーを食べたいと思っていたところだったから、なんという幸運だろう。お母さんありがとう。
カレーといえば、半掛け全掛け論争だ。お皿にカレーとライスを半分半分にするか、ライスの上にカレーをかけるかという、ショートケーキのイチゴと並ぶ問題である。
ちなみにわたしは後者の全掛け派。そのまま食べられるというか、2段モーションじゃないというか、全掛け派の人にはきっとわかってもらえるはず。
「ただいまー」
「おかえりー」
キッチンにいるお母さんにただいまをして、わたしは手洗いうがいをする。みんなも手洗いうがいはちゃんとしよう。
それを済ませて、制服から着替えるとようやく晩ご飯とご対面。制服にカレーがついたら悲しいもんね。
「いただきます」
ぱくっ、もぐもぐ。おいしい。カレー美味しすぎるでしょー。
カレーは飲み物と世間ではよく言われているそうだけど、なんとなく納得できる。まぁ、いくら飲み物といってもお腹はいっぱいになるんですけどね。
お母さんとおしゃべりしながらカレーを食べて、美味しく完食する。それからゆっくりお風呂に入ったり、テレビを観たり、宿題をしたりとしていると約束の9時になっていた。
よし、電話しますか。
携帯の着信履歴の最も新しい、高千穂てれすの文字をポチっと押す。
『もしもし、ありす?』
すると、ものすごい早さでてれすが電話口に出た。もしかして、わたしがかけるのを待ち構えていたのだろうか。
「は、はやいね…………」
『ぐ、偶然よ』
あ、偶然ね。なるほどなるほど。たまたま携帯を使っていたのならすぐに電話に出られるはずだ。
それはいいとして、てれすはいったいどんな用事なのだろう。
「それでてれす、どうしたの?」
『あ、いや………たいしたことではないのだけど…………』
…………?
なにやらてれすは言い淀む。
「うん、なーに?」
『その………、今日はどうだったのかしら…………?』
「え、今日?」
えーっと今日ってことは、たぶん美月ちゃんと図書室で勉強したことについてだよね? どうって聞かれてもどうなのかな…………。特に気になることはなかったような。
「うーん、普通かな」
『ふ、普通…………。………………普通、ね』
うん、普通。普通に勉強してただけだしなぁ。あっ、わかった。きっとてれすもテスト勉強がしたいんだね。
ちょっと早いかもしれないけど、リベンジといこうか。わたしにとってもテスト前の最終調整できるし。
「てれすー? 明日うち来て勉強しない?」
『え、あ、明日!?』
てれすの慌てたようなこの反応は、もしかして明日は都合が悪いのだろうか。うーむ、それなら仕方ない。
「ごめんてれす。明日は何か用事あった?」
『い、いえそうではなくて………。いきなりだったから驚いただけで、もちろんオッケーよ』
「よかったー。それじゃ明日ね、もう用事ない?」
『ええ』
「そ。じゃあおやすみ」
『おやすみなさい』
こうして通話が終わる。
…………ってあれ? どうして勉強する場所をうちにしたんだろ? たしかに、前にうちで勉強会したときはてれすが寝ちゃったから、そのリベンジの意味もある。でも、勉強なら別に学校でもできるし、それこそ図書室で今日みたいにやればいい。
むむむ…………。ま、いっか。




