47話 電話してもいい?
時刻は午後6時。いつものように6時を知らせる音楽が流れ、わたしたちに夕暮れを伝える。小学校で習った気もするのだけど、なんの歌だったか思い出せない。
無事にテスト勉強を終え、教科書やノートを整理すると美月ちゃんが口を開く。
「最上先輩、ありがとうございました」
「ううん、わたしも勉強できたし。美月ちゃん大丈夫そう?」
「はい、おかげでばっちりです!」
美月ちゃんが嬉しそうにうなずく。
説明にあんまり自信がなかったものの、なんとかなったみたいでひと安心。よかったよかった。
「それじゃ、帰ろっか」
「はい!」
ささっと帰る支度を整えて、わたしたちは図書室を後にする。
テストが近いといっても、さすがにこの時間まで学校に残っている生徒はいない。
えーと、6時間目が終わって、てれすをなでなでしてから図書室に来て2時間ってところかな。
そう考えると、けっこう長いこと勉強していたみたい。
そして学校の門を出て、隣の美月ちゃんを見てふと思った。
そういえば、美月ちゃんと帰るのって初めてかも。
お家はどのあたりなんだろう。
「わたしはこっちだけど、美月ちゃんは?」
「あ、途中まで同じです」
わたしの指した方向と同じ方向を美月ちゃんも示す。
意外とわたしのお家と近いのかもしれない。
歩き始めるとすぐ、美月ちゃんが再び今日のお礼を口にする。
「こんな遅くまで、ありがとうございました」
「いいっていいって。わたしの説明だと、わかりにくかったでしょ? ごめんね」
教わるのと教えるのとではまったく違う。わかっていることでも、それを言葉でちゃんと伝えるのはすごく難しい。
………先生ってすごいなぁ。
が、美月ちゃんは「そんなことないです」と首を横に振る。
「とってもわかりやすかったです。頭もよくて説明も上手で、さすが最上先輩です!」
「そんなことないよ………。てれすのほうがもっとすごいし」
ここでまさかてれすの名前が出てくるとは思っていなかったのか、美月ちゃんは驚きの表情を浮かべる。
「た、高千穂先輩ですか………?」
「うん。わたしよりもテストの点いいんだよ? たぶん中間テストも一番なんじゃないかな」
「そ、そんなに………。運動もできるのに、勉強もできるんですか………」
美月ちゃんはわけがわからない、といった様子。
まぁ、そうだよねぇ………、わたしもそう思うもん。
授業中はずっと寝ているし、テニスについても、てれすは少なくとも今は部活には入っていなさそうだし。
…………さすてれとしかいえない。
そんなこんなで美月ちゃんとおしゃべりしていると、交差点で美月ちゃんが一方を指した。
「あ、最上先輩。わたしこっちなので、ここで………。今日はありがとうございました」
「うん、じゃあまたね」
バイバーイと手を振って美月ちゃんと別れる。
美月ちゃん家のほうが学校に近そうでいいなぁー、なんて考えて歩いていると携帯に着信があった。
MINEかな?
アプリを起動させると、どうやらてれすからのようである。
そこには短く一言。
『電話してもいい?』
歩きながらってあんまりよろしないような気がする。
それに、お腹が空いたなぁ…………。今晩はカレーがいいなぁ………。
まぁ、さすがにお腹が空いたから今は電話しない、というのは冗談にしても、ご飯を食べてお風呂に入って落ち着いてからゆっくりのほうがいいだろう。
てれすはいますぐがいいかもしれないけど、ここはちょっと我慢してもらう。
『9時とかでいい?』
送信っと。さ、帰ろう。と、思った瞬間に着信が。
「返信はやっ!?」
もちろんてれすからである。
そこにはまたもや一言。
『わかったわ』
てれすが了承してくれたので、とりあえずお家に帰ることにした。




