46話 教えて、最上先輩
思っていたよりもかなり遅くなってしまったので、わたしは急いで図書室へやってきた。
美月ちゃんに謝らねば………。
図書室に入って美月ちゃんの姿を探す。えーと、美月ちゃんは………。テスト前ということもあり、生徒の数が多いので一苦労である。
あ、いた。
一人で教科書と向き合って勉強している美月ちゃんを発見。遅れてしまった申し訳なさを持ちつつ、わたしは美月ちゃんのところへと向かう。
「美月ちゃん、ごめん」
わたしが近づくと、美月ちゃんはわたしに気づいて顔をあげ、首を横に振った。それから、心配したようにわたしに訊ねる。
「わたしはいいんですけど、最上先輩、もしかして何か用事があったんじゃ………?」
「ううん、大丈夫。ほんとごめん、はやいとこやろっか」
てれすをなでなでするのは用事に入るのだろうか。………微妙かな。
それはちょっと置いといて、今は美月ちゃんとお勉強をしなくては。ただでさえわたしは遅れてしまっているのだから。
「それで、どこがわかんないの?」
「はい、ここです………」
美月ちゃんは手に持っていた教科書を指で示す。
ふむふむ、数学のここね。
「さっきもう一回やったんですけど、どうにも答えが違ってて……」
そう言って広げたノートを美月ちゃんはわたしに見せる。その解答を見てみると、間違いが。
「あ、ここ。ここの途中のが違ってるよ」
「えっ!? ………ほんとだ」
あるよね、そういうこと。一回目に勘違いしちゃって、それをそのまま正しいと思い込んじゃうパターン。人から言われないと、気がつかないんだよね。
わたしの指摘を受けて美月ちゃんは、言われたところの問題をもう一度集中して解く。すると、シャーペンを動かしながら美月ちゃんがわたしに訊ねてきた。
「あの、高千穂先輩って最上先輩とテニスで優勝してましたよね………?」
どうやらてれすについてらしい。
「うん。てれす、すっごくテニスが上手なの」
今思い出してもすごかった。あの優勝はてれすの力が9.5ほどだろう。わたしもちょっとは役に立てていたと信じたい。
「高千穂先輩って、運動神経いいんですね。あ、でも表彰式はびっくりしました」
「ああ、一人で返事しちゃったやつね…………」
しちゃった、というよりはてれすが返事をしてくれず、ペアで名前を呼ばれているのにわたし一人だけの声が響くという、なんとも恥ずかしい出来事であった。しかも、2回も…………。
「あ、最上先輩。答え合いました!」
「ほんと? よかった………」
間違えを教えていなくて、とりあえずほっと一息。わからないところに間違えを教えちゃったら、もうわけわかんなくなるからね。よかったよかった。
美月ちゃんは納得した表情で数学セットを片付けると、カバンから次の教科を取り出した。
「えっと、次はこれなんですけど………」
「うん、どれ?」
「ここなんですけど………」
そんな感じで、美月ちゃんがわからないところがあれば教え、それを解いているときはわたしもテスト勉強をして黙々と時間は過ぎる。
ときどきてれすの話題になったりしたけど、てれすと美月ちゃんが仲良くできるのはいつになるやら。………そんな日がくるのだろうか。




